第86話 ケルピー退治
ヘイヘイヘイ。ドワーフのパウエルに案内されて、水場へゴーゴゴーよ。水場に巣くった魔物を退治して、清水を汲むのである。
そこのけそこのけ、真祖の吸血鬼様が通るぞ! シメオンにかかれば、ケルピーなんてイチコロね。
集落から水場までは、なんとか一人通れるくらいの、土を固めただけの細い道が続いている。両側に背の高い草が生い茂り、沢の音が聞こえる。近くを流れているんだろう。
歩き始めて四十分、ようやく目的地に着いた。開けた場所に木の椅子がおいてあり、小さな池がキラキラと日差しを反射している。辺りにはコケも生え、綺麗な緑色で
「悪くないわね。で、ケルピーはどこ?」
見た感じ、近くに馬はいない。スザクの飛ぶ影が通りすぎる。
「こん池ん中に棲んじょる」
「ほう。コン池の中に棲んでる、と」
「ニュアンスが違っていないか?」
すかさずツッコんでくるシメオン。やはりお笑いを目指しているのか。
「細かいことはどうでもいいわ。シメオンさん、池を覗いて馬がいないか探してください」
「……まあ構わないが。私では出てこないだろう」
独り言を呟きながら、シメオンが池を覗き込んだ。
しばらくしても水面に特に変化はなく、魚すら出てこない。うーんダメか。
仕方なく自分で、池の水の上に顔を出した。水は透き通っていて、底の砂利までくっきりと見える。
眺めていたら、ゆらゆらっと水面が揺れた。突如水しぶきが散らばる。黒毛の馬が池から飛び出した!
これがケルピー! 実物を見たのは初めてだわ。わりと大きい。
ケルピーは私を引きずり込もうと、二本の前足で掴みかかってきた。
「出たぞ、逃ぎぃて!」
パウエルが叫んだ。しかし聞き取りにくいな。握ってかな? おうよ、任せな!
「うっしゃああぁ、金貨~いっぱーつ!!!」
私はケルピーの両前足の間に体を滑り込ませて、間接の上を掴んだ。そしていったんケルピーを引き寄せながら背中を丸めて後ろにコロンと転がり、片足でケルピーの腹を思いきり蹴り飛ばす。
ケルピーの後ろ足が半円を描いて宙を掻き、ドタンと地面に背中から倒れた。弾みでちょっと跳ねたわ。
「シメオンさん、後は任せた!」
シメオンは横になってあまり動かないケルピーの様子を見ている。水から出されたからか、反撃はしてこない。
「……もう悪さはしないのではないか?」
「なら、すぐにとどめを刺す必要はないわね。私は五日間、肉を断つ予定なので、それからケルピーバーベキューにしよう!」
「ブルブルブルブル!!!」
よーしよーし、連れて帰ればいいわけね! ケルピーが怯えているが、もう予約の肉でしかないわ。
「
馬勒とは馬や牛の頭にかける革紐の馬具だ。普通の馬より強そうだし、使うのもアリかも。私としてはバーベキューが最善だけど、依頼主に判断してもらうか。
シメオンが馬を起き上がらせている間に、私は水を汲んだ。冷たくて清涼で、これならいい聖水になりそうな予感。
オーバーオールのパウエルは、諦めたようなケルピーを物珍しげにしげしげと眺めていた。シメオンが目を光らせているからか、ケルピーは大人しいのだ。まっすぐ立っているし、投げられても足は痛めなかったみたいね。
「あっちゅう間に解決した」
感心して私への尊敬の念であふれるパウエルを先頭に、集落まで戻る。帰りは下り坂が多いから、行きより楽だわ。
「あれ、もう帰ってきたのか? ずいぶん早いな、怖くなったか?」
最初に見かけたドワーフが笑う。最後にシメオンがケルピーを連れてきたのに気づき、目を丸くした。
「捕まえたちゃ」
パウエルが胸を張る。お前は何もしていないわ。
「こりゃすげえ、親方を呼んでくらぁ!」
ドワーフは転がるように親方の家に飛び込んで、本当にすぐに呼んでくれた。親方もケルピーを連れてきた私たちに、感謝感激感動感心と、とにかく大喜び。
「これで安心して水が汲める! ありがとよ。後は下働きの紹介を頼んだぜ。そうだな、販売しに町へ行くんだから、その日に面談できるようにしてくれ」
「はーい」
「またいつでも汲みに来ていいからな。案内にパウエルを連れてけよ、迷うと大変だ」
「んだんだ」
パウエルはまた、んだんだ言い始めたわ。
なかなか気のいいドワーフじゃないの。親方が話している間、ドワーフは馬具を持ってきた。パウエルを呼んで二人で着けようとするが、背が低いのでやりにくそうにしている。脚立が必要ね。
と、思ったらシメオンが代わりにやってあげてるわ。さすがお人好し吸血鬼。私もやることをせねば。
「はいはい、馬具を付ける手数料は別ですよう。銅貨を五枚、いただきま~す」
「おうよ、しっかりしてるなあ」
親方はポケットから巾着を取り出し、すぐに払ってくれた。念のために、枚数を確認する。しかと五枚、いただきましたぞ。
なかなかいい仕事ができたわ。
早速ドワーフが手綱を持って歩くと、ケルピーも大人しくそれにならった。ちゃんと扱えそうね。馬小屋をざっと掃除して、入れていたわ。最初の頃は馬を飼っていて、今も馬で来る人用に残してあったんだって。使えて良かったわね。
目的を無事に果たしたので、私とシメオンは町へ戻った。出かけたのは朝なのに、すっかりお昼を過ぎてしまった。お腹空いたなあ。
町に戻ると、シメオンはどこかへ消えてしまった。
「これ以上一緒にいると、たかられる」
と、謎の言葉を残して。
お昼ごはんを食べてから、スラムの診療所へ向かう。診療所で求人するわよ。
スラムでは相変わらず仕事のない人が集まってカードゲームをしたり、椅子にだらしなく座ってのんびりしていたり。暇人はいるものの、下働きとして使えるかと聞かれたら難しいわね。
「ちわー! 相談に来ました~!」
元気に呼びかけるが、返事がない。ただのしかばねのようだ。
もとい、ただの昼寝のようだ。
診療室の机に突っ伏して、先生が眠っている。
「ん~~…………」
「起ーきて~~~! あなたのアイドル、シャロンちゃんが来たわよ!」
「俺の推しはカルメンさん……」
おかしな寝言を言ってるわね。体を揺すって、目を覚まさせる。
「お仕事のお話よ、起きて起きて」
「……ふあ~……。昨夜は急患が続いたんだ、寝かせてくれよ……」
言葉に力がない。まだ眠そうに目を擦っている。
「私の用が済んだら寝ていいわよ。ドワーフの集落で、下働きを募集してるの。住み込み可、食事も出るわ。家事が得意な元気な人がいたら、紹介して」
「……放火犯を……?」
「火事じゃないわよ! 仕方ないわね、また明日来るわ。考えておいて」
「おう……」
だめだ、今日の先生は使いものにならないわ。私は諦めて出直すことにした。先生はまだ、うとうとしている。今の話、覚えていてくれたかな。
帰り際に入り口で、お腹を押さえ、苦しそうに顔を歪めた人とすれ違う。
「先生、おなかが痛くて……」
「……おう、入ってくれ」
患者だわ。先生はまだ眠れそうになかった。
※とりあえず更新しちゃう、見直しの続きは後でします!
寒いから布団の中でやろうとしたら眠っちゃったよ~
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