第60話 リコリスとオジキ
べべべん。前回のあらすじ。
シャロンちゃんのお店に、助けた露店商が現れて、竜宮城に案内すると言いました。しか~し、そこにいじめっ子も登場! お店を荒らしたのです。
メイスを
薄幸の佳人、シャロンちゃんの運命やいかに!??
二人が年配男性を庇うように前へ出て、一人は短刀をすぐ使えるように柄と鞘を持ち、もう一人は短い棒を強く握った。
「こいつらはうちの店を荒らしたのよ。アンタらも仲間なの?」
「……荒らした? 仲間というかだな、……ん? そういやこの前の威勢のいい姉ちゃんじゃねえか。お前ら、この娘と揉めてんのか?」
威勢のいい姉ちゃん。道で若いのにぶつかって、ケンカになりかけた時に言われた言葉だわね。
思い出した! あの時に私を勧誘して、オヤジに紹介するって言った人だ!
「オジキ……、縄張りで揉めてた露店商の仲間なんだよ、コイツ」
男はヨロヨロとオジキへ近づいた。オジキの護衛をしている二人に、自分も守ってもらう寸法か。
「仲間じゃないわよ。じゃあ刈り入れの時間です。選択はタイムアウトね、両方とも頭でいいわ」
「やめろ、死ぬっ、死ぬぅ!」
「ディラハンだって頭がないのよ、気合いで乗り越えてね~。よいしょー!」
二人の若い男は涙目で、両手を前にして振ったり頭を庇ったりしている。腕と頭、両方のコースがご希望か。わりと潔いのね。
「待ちな、まずはその荒らされたっていう店内を見せてくんな。場合によっては、こいつらに弁償させるからよ」
「あらあらまあまあ。最初からそう言ってくださればいいのに、ホホホ。お金は全てを解決しますよ~?」
さすがオジキ、話が分かるわ。私はメイスを降ろして身をひるがえし、店内へオジキ様ご一行を案内した。
店ではラウラが腕を折った男性を治療して、散らばった薬を片づけていた。露店商も動いてしまった棚を直すのを手伝い、骨折を治してもらった怪我人は、呆然と座っている。大分痛みは引いてるんじゃないかな。
「姉さん、誰も殺してないですか?」
「確認がおかしいわよ」
私の無事を心配すべし。
「おう、ごめんよ」
オジキはどいてとばかりに軽く片手を上げ、ラウラが集めてトレイに並べた薬に目を留めた。
「あの、こちらは……」
「うちの若いのが迷惑かけたな。ぶちまけた薬ってのはコレかい、嬢ちゃん」
「はい。床に散らばったんですが、汚れた包みを変えれば販売できるかと思います」
ラウラが緊張しつつ答える。
オジキは包みを一つ手にして、護衛の男性に渡した。
「全部買い取れ。俺たちは薬師には手を出さねぇと決めてんだ、先代たちが世話になってるからな」
「先代?」
「おうよ。今でこそ戦場を知らねえのが増えたが、俺たちの組織は元は傭兵でな。大金をもらって、最前線で戦ったもんよ」
戦争の終結で平和になり、仕事がなくなった傭兵崩れがアウトローな集まりになったわけね。懐かしむような、どこか苦い表情のオジキの話に耳を傾ける。
「ところがよ、最前線ってのは食糧も薬も足りなくなるワケよ。傭兵なんて後回しでな。略奪に走ったヤツもいる。だが、この国の薬師組合は、戦ってくれる方々を助けてぇと、薬を優先して都合してくれたのよ。……だから、薬師に手を出すなってお触れを出してるんだがなぁ?」
ギロリと暴れた男どもを睨むと、三人は身を縮こませて口を引き結んだ。オジキが叱ってくれると、効果てきめんだわ!
解決かと思われた場面に、気の抜けたキツネの声が。
「あっれー、なにしてるのシャロン? 追い
リコリスが入り口で首をかしげている。誰が追い剥ぎよ!
「なにどころじゃないわよ。こいつらが、アンタたちが作った薬を床にぶち撒いたのよ!」
リコリスは私の言葉を聞くと、男性たちの顔をくりると見回し、ガランとした薬の棚に気付いてまばたきを二、三度くり返した。
「ぴゃーん、せっかく頑張って作ったのに~。ひど~いよーぃ、おーいよい」
両手で目を隠し、あからさまなウソ泣きをする。さすがイタズラキツネ、瞬時に空気を読んだわ。とはいえ、もっとさめざめと
そもそもサンが作業している間に泥まんじゅうなんて作ってるんだもの、感情を込められるわけもないか。
ラウラや露店商も含めて、みんなが胡散臭そうな眼差しをリコリスに向けている。しかしその中で、オジキだけが困ったようにしていた。
え、騙されたの? このウソ泣きに?
「悪かったな、キツネの嬢ちゃん。この薬は全部うちで買い取る。迷惑かけた」
「まいどまいど~、支払いはこちらへ~」
私はリコリスにまで謝罪するオジキに、カウンターテーブルへ来るよう促した。リコリスも喜んでトテトテついてくる。
「あーりがとう! キツネの薬を飲んだら、もう他じゃ満足できないよ~。毎日欲しくて頭がクラクラ」
「待て、違法なヤバイ薬か?」
これまでどんと構えていたオジキが、さすがに慌てたわ。それじゃ、薬の種類が違うじゃない!
「ちゃんとした薬です! リコリス、いい加減にしなさいよ!!!」
「えっへ~。ちゃんと説明するね」
照れるぜ、みたいな表情はやめなさい。本当に反省しないキツネね!
「アンタはしなくていいわ。これは下痢止めの薬、こっちは熱冷ましで、冷え性の薬……」
「お、ガラスペンとはシャレてるな。五本もらおう、贈りものにちょうどいい」
若い衆が説明を聞いている間に、オジキは買いものもしてくれた。おおお、これで貴方も常連よ。ウェルカム! 天国の門は開かれた!
「支払い、金貨になっちゃうわよ」
「おうよ。迷惑料と治療費もあっからよ、受け取りな」
じゃらじゃらとカウンターテーブルに金貨が降る!
本日のお店のお天気は、降金貨確率百パーセント。その数、全部で二十枚。
「ありがとうございます!」
笑いが止まらないわ。私は全ての金貨の味方です。
いつも愛想のいいラウラが、大金にビックリして目を丸くしているわ。慌てて商品を五本まとめて紙で包んだ。
「おう、またな」
「またのご来店をお待ちしてま~す」
「あ、ありがとうございます」
ラウラが声を詰まらせる。金貨の力の強さよ。
若い衆を引き連れて帰ろうとするオジキの前に、リコリスがちょこんと立った。両手を前に出して、水をすくうように手のひらを上にして合わせる。
「私にも、ちょうだい!」
「ん?」
「お菓子を買うの~。サンったら無駄遣いするからって、お金を持たせてくれなかったの。私も頑張ってるのになー、な~?」
上目遣いで可愛らしくおねだりするイタズラキツネ。別に可愛くないわ。
「あっはっは、そうだな。おい、小銭をくれてやんな」
「へい、オジキ」
リコリスの手に、銅貨や青銅貨が載せられた。銀貨も一枚混じってるわ。硬貨が増える度に三本の尻尾が元気に揺れる。
「やったー! ばいばーいおじさん、また来てね!」
「おうよ、キツネの嬢ちゃんも頑張りな」
オジキたちは帰っていった。暴れた若い男は、気まずそうに小さく頭を下げて。
無事に済んで店が静かになると、露店商は安どのため息を零した。巻き込んですみません、と謝りながらこちらも店を後にした。
「じゃあ私も帰るね~」
「いやアンタ、何しに来たの?」
お金を手にしたリコリスは、満面の笑みよ。わざわざ森から出てきたんだし、用があったんじゃないのかしら。
「そうだった、お金をもらいに来たんじゃないの。お返事に来たの。サンがね、薬師組合には所属したくないけど、薬の講習会とかがあったら参加したいって」
「分かったわ。あと、また仕事でしばらく留守にするからね、講習会情報はリコリスが聞きに行って。薬はキツネが作ってるって、伝えてあるわ」
さすがサンギネア、講習会には参加したいなんて真面目ね。サンなら人の姿で参加するだろうから、心配ないわね。一応、組合の人に伝えておこうっと。
「
「サンは組合に所属したがるかと思ったわ」
「ん~、サンはね、昔は人の村に住んで、薬師をしてたの。でもキツネだからって追い出されちゃって。だから人間が好きじゃないよ」
サンギネアにそんな過去があったとは。だからリコリスみたいな、悪質なイタズラキツネに営業を任せるしかないのね。可哀想に。
「私は平気みたいだったわね、人徳ね」
「“シャロンは人間じゃないみたいだから平気”って言ってた!」
「なんですって!??」
キツネの分際で、七聖人の一人強欲のシャロン様になんたる言い草!
ラウラ、今こそ私のいいところをこのキツネに教えてやって。
……と、思ったら、ラウラも笑っている!
「じゃあね、ばーい!」
「ばーいじゃないわ!」
逃げたわ、逃げ足の速いキツネめ!
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