第38話 レンフィールド侯爵邸に到着!
(引き続きカルデロンの従者、カリーネ・フリーデルの視点)
ラマシュトゥさんの話をすると、カルデロン・スビサレッタ様は、嬉々として彼女を招くよう命令した。
現在は離れで家族と別に暮らしているので、気づかれないわね。わー、バレればいいのに。
一応出入りは制限されて見張りはいるんだけどね、スビサレッタ侯爵家に仕える人だし、医師だとか家庭教師とか、言い訳をしたらあまり詳しく追及をしてこないのよ。カルデロン様が外に出ないように見張るのが、一番の命令だし。あと、貴族の友人は通さないことになっている。
「お前が呪いをする呪術師か! よし、さっさとやってみせろ!」
次の日来てもらったラマシュトゥさんに、
「アンタがだらしない主人?」
「なんだと、この女……っ」
言い争いになりそうなので、私と仲間、それから控えていた執事も慌てて止める。
「カルデロン様、呪術は下準備がいると聞いております。まずは方法や効果を伺って、期間や代金などを含めた契約の相談をされてはいかがでしょう?」
「そうですよ、そもそも彼女は他国の方です。旅の疲れもありますし、座っていただきましょう」
最初っから気まずいんだけど~! いい加減にしてよ……!
ラマシュトゥさんには事前に、呪い殺せることまでは教えないようにお願いしておいたわ……。頼みそうだもん。
「まず、呪いでどのような現象を引き起こせるのでしょう」
「病気にするって話だったよ。相手の爪や髪なんかの体の一部か、無理なら何度か着た服でもいいから用意して。つながりがあるヤツね。それから相手に見立てた人形。人っぽい形ならどンなのでもいいからさ」
慣れてるのねえ、準備するものがスラスラと出てくるわ。
……慣れてるのも怖いなぁ。異国の呪術師か……。
「近いうちに揃えます」
「それと……クリスタルでいっかな。念を籠めるから。実際に呪術を
にやり、と笑った。やってみろと言わんばかりに。
「俺にやれと言うのか!?」
「ははーん。おぼっちゃんには、難しいかな!? クリスタルに念を籠めるだけなンだけどね~」
「そのくらいできる!!!」
あー、墓穴を掘ってる……。まあいいや、相手に全部やってもらうんじゃ悪いし。
また執事がカルデロン様を宥めて、報酬や待遇面の相談を続けた。
館に滞在し、その間の衣食も面倒を見る。ラマシュトゥさんはトーナメントの見物に来ているのだから、仕事以外は好きに外出してもらう。その際、馬車を用意し、闘技場までの送迎をする。カルデロン様の代わりにトーナメントの進行具合を確認に行く、と見張りに伝えておいたわ。
報酬についてはすんなりと合意に至った。もっとごねられると予想していたんだけど、さっぱりした女性よね。
次は用意している部屋の確認よ。足りないものがあったら、教えてもらって揃えなきゃ。浴室や食堂も案内しないとね。
「それからさ」
ラマシュトゥさんが立ち上がり、カルデロン様の脇をすり抜ける。すれ違いざまに、独り言のように囁いた。
「呪えるのは一人じゃないンだよ」
この一件以降、カルデロン様はラマシュトゥさんにあまり余計な口を利かなくなったわ。横暴なクセに肝が小さいんだから。
言われたものを二日で揃え、二日目の夜には早くも儀式を開始。更に二日すると、ゴードン・レンフィールド侯爵代理のトーナメント不参加が申請された。
効果てきめんっぽくて怖い……!
■■■■■■■■■(以下、シャロン視点に戻ります)
ついに到着、ゲルズ帝国。手に入れたワープチケットで、あっという間だったわ。幾つもの国を挟んでいて、結構遠いのにな~。
待機していた兵と職員が、装置から出るよう促す。
「ようこそ、ゲルズ帝国へ。まずは別室で質問にお答え頂きます」
「質問ですか?」
「簡単なもので、全員に聞いているんです」
ははぁ、アンケートみたいなものね。案内されたのは飾りっ気のないサッパリとした部屋で、テーブルをパーティションで仕切ってあった。
数組がアンケートを受けている。
私たちも椅子に座った。テーブルを挟んで向かい側に職員が座り、質問を開始する。
「ゲルズ帝国へ来た目的はトーナメントですか? それとも別に?」
「トーナメントです。どのくらい進んでますか?」
「予選が終わり、本戦が始まってます。本戦は帝都の大闘技場で開催されますから、観戦にはちょうどいいですよ!」
「やったー、楽しみですね!」
移動も少くなくて済みそうだわ。大家さんの娘さんは参加してるのかな? 参加して勝ち進んでたら、応援しよう。
「宿はお決まりですか? 既に帝都で宿は探せませんよ」
え、泊まれないの!?? 大人気イベントなのね。
「……ないです! 泊めてくれる人、いないかなぁ」
「帝都の民家では親族以外の宿泊を遠慮するようにしてもらっていますが、帝都以外では可能ですよ。安く済ませたいなら、一部屋に複数人を泊める宿がいいでしょう」
簡単な周辺図をテーブルに広げて、近くの村を三つ教えてくれる。どこに空きがあるかは分からないから、完全に運だ。
「なるほど。ところでレンフィールド侯爵家って、どこにありますか?」
私の質問に地図から視線を上げ、男性職員はこちらに怪訝な眼差しを向けた。
「……ゴードン様のファンの方ですか? 侯爵家まで押しかけるのは、ご遠慮ください」
「違いますよ! お屋敷に娘さんが仕えているっていう方から、お手紙を預かっているんです。娘さんに面会したいだけです」
そしてあわよくば、部屋を貸して頂きたい。無料で。食事も用意して頂きたい。残飯でもいいので、無料で。その他諸々、提供して頂きたい。無料で。
証拠として、鞄の中から大家さんのお手紙を出した。『モーディー・ハロウズ様へ』と、娘さんの名前は書いてあるが、侯爵家とは書かれていない。通じるかなぁ……。
「これは失礼しました、たまにいるんですよ。ゴードン様の追っかけとか、挑戦者とか」
「極端な二択ですね」
とりあえず納得してくれたわ。単純な頭で助かった。
「……ただ、現在侯爵家はバタバタしているみたいです。ゴードン様がトーナメントの出場を断念されて、色々な憶測が飛んでますよ。もしかすると、落ち着くまでは屋敷内と連絡を取れないかも……」
「……とにかく、行ってみます」
お屋敷に入れないと、私のおごらせ計画が
絶対に、侯爵家の敷地内に入ってみせる! 私には強い味方、吸血鬼シメオンがいるからね。霧になって塀を越え、中から解錠するのもお手の物よ!
「しかし、これから訪ねるのは迷惑だろう」
「泊まる場所がなければ、一晩くらいなら酒場で過ごす手もありますね。店によっては宿泊できますが、まあそちらは無理でしょう」
時刻は夕方。到着は夜になるだろうから、止めるようシメオンが言う。
私の情熱はそのくらいでは収まらないのだ。
「行ってみましょう! 会えなければ、その時に考えればいいのよ」
「侯爵家は王城の東側の、貴族が住む区画にタウンハウスを構えていますよ。定期馬車は貴族の区画の周囲を走るだけで、貴族街には入りませんので気を付けて。東門行きに乗ると近くまで行かれます」
「貴族街には乗り入れないの?」
「大抵の貴族は家門の馬車を保有していますから、乗る人がいないんです」
なるほど、客がいないのに走らせても無駄だわ。余裕のない貴族は馬車を持っていないので、馬車通りの近くに家を購入するそうだ。納得。
その後、いくつかの質問に答えて、馬車乗り場と降りる場所を教わり、アンケートは終了した。部屋を出る前に、最後に思い出したように言葉をかけてくる。
「……シャロンさんは、聖女のシャロン様ではないですよね?」
「違いますよ」
今は。聖女は廃業、雑貨屋の可愛いシャロンちゃん。七聖人の一人、強欲のシャロンだもん。
「ですよね、ちょっと我が国が探しているお方なんです。どこからどう見ても聖女様には思えないんですが、お名前が同じなので万が一ということもありますから、確認させて頂きました」
「私が聖女っぽくないって、失礼ね。みんな私を強欲だって褒めてくれるわよ」
「そうですね~、お似合いです」
笑顔がイラッとするわね。しかし私を追放させたカルデロン・スビサレッタのヤツが、飽き足らずに何か企んでいるのかも知れないわ。
この国では元聖女だとは知られない方がいいわね。気をつけよう。
馬車乗り場は塔を出て、すぐにあった。貴族の馬車がつける専用のスペースもあるわ。
私たちは二十分ほど待ち、王都の東門行きの馬車に乗った。行く時に行き先を告げ、先払いで支払うシステムだ。
「二人で銀貨二枚、銅貨八枚です」
「はーい、シメオンさんよろしく!」
「……やはり君の分も私が払うのか」
諦めたように銀貨を取り出した。連れてきてあげて良かったわ!
そして到着した侯爵邸。
もう暗くなる時間なのに、正門前にはたくさんの人がいた。時折屋敷に向かって、叫び声を上げている。
「ゴードン様ー、無事な姿をお見せください!」
「大会、本当に参加されないんですか~!??」
これが“ゴードン様の追っかけ”とやらなの……!? 確かに迷惑だわ、門の前では警備が数人立って群衆に注意し、門を守っている。
くっ……、この程度の試練では負けないわよ!!!
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