第7話 狩人組合の食人種
キツネを襲った連中の元へ抗議に行ったら、狩人組合の組合員に化けた
正体を暴くと、人の背よりも大きく緑がかった暗い色の肌に変化する。腕は毛深く、髪はボサボサで獣のような咆哮を上げた。
「ぐおおぁああ! 貴様は聖女か……! せっかくの……狩り場が……!!!」
コイツが会員を一人殺して、そのとばっちりでキツネが襲われたのかしら。ここに潜り込んで、一緒に狩りをしようとおびき出して食べるつもりだったみたいね。
「槍を持ったヤツがまずは出るんだ! 力が強いぞ、マトモに戦っちゃいけない。銀の武器や、聖なる力を持った武器を用意しろ!」
この場にいた数人の狩人が、すぐに武器を構える。
受付の男性は、奥の扉を開けて食人種が現れたと叫んだ。役員とかでもいるのかしら。戦えるのかなー?
「くそう……まずはお前からだ!!!」
食人種は標的を私に決めて、襲いかかった。間に他の狩人もいるが、動き出しが素早く、軽く狩人を通り越してしまう。
巨体がすぐに目の前に迫る。
「逃げろ、姉ちゃん!!!」
「シャロン様の相手は、高く付くわよ!」
私は持っていたメイスを振りかぶった。
聖なるミスリル製で上が王冠のような形をし、十字の模様が入っている。神殿からの支給品だ。ダンジョンに入る聖女や聖人には、身を守る武器を与えられる。
食人種のヘクターが腕を振り上げ、鋭い爪が
「報いを受けよ、魔物っっっ! どりゃああぁ!!!」
メイスを思いっきり水平に振る。プレートアーマーを貫通させたこともある、
食人種の脇腹にめり込ませ、反動で少しよろけてしまった。
振り下ろされた腕は宙を掻き、食人種の巨体が床に叩き付けられるように倒れた。
「グギャアァ!」
腹を押さえて上半身を起こしたところに、棒や槍を持った狩人が肩を突き足を叩いて動きを止め、ハルバードを振り下ろして肩を大きく切り裂いた。
食人種の叫びが壁にぶつかって、室内に響き渡る。
「邪悪に染まりし魂よ、在るべき所へ還れ。種は土に、月は天空へと戻るように。女神ブリージダよ、人に害なすものを
私の祈りに呼応し、黄金に輝く光の筋が食人種を突き刺さた。光は食人種を包む程になり、悲鳴が小さく掠れていく。
浄化は邪悪だったり、闇の性質が強いものに効果が高い。食人種は動かなくなり、完全に事切れた。こういうのは生命力が強いから、倒したつもりがとどめには至らなかった、ということもあるのだ。
「ヘクター……。最近入会した、口数の少ない男だった。最初から食人種だったのか、それとも取って変わられたのか……」
「うーん。完全に個人に化けらえるタイプだとは思えないんで、最初からでしょうね。これからはしっかりと、魔性かどうかチェックした方がいいですよ」
魔性の者が聖なるものに触れたら、痛がったり嫌がったりと何かしらの反応をする。それが一番、手っ取り早いんじゃないかな。ここには聖なる武器もあるんだから。
そういえば、このヘクターは聖なる武器を持ってたの?
「……聖なる武器って、どの程度の会員が持ってるんですか?」
「正式会員の一部しか所持していないし、そもそもヤツはまだ見習いだから、触れたこともないな」
なるほど、なるほど。
大事になる前に解決して良かったわね、私に感謝して欲しいわ。そして感謝はお金で頂きたい。言葉は何の得にもならない。
「食人種討伐に協力したし、お金とか報酬とかお金とか、出ないんですかね??」
「協力金が出るよ。今回は食人種を見抜いて、倒すのにも協力してくれたんだ」
出る! やったあぁ!!!
これでお金になるんなら、もう私、狩人組合に入会しちゃおうかな~! でもせっかくお店を構えたんだし、ここで閉店したら家賃が無駄になるわね……。
こうして出掛けている間にお客が来るかも知れないし、店番が欲しいなあ。できれば無料や、それに近い金額で。ゼロならいくらかけ算してもゼロだから、できればゼロで。
誰かがお店にいてくれたら、新しい商品探しにも専念できるのに。
「今のはプレパナロス自治国の聖女様の技では!?? 貴女は、聖女様ですか?」
受付の奥にある扉から出てきた初老の男性が、興奮して私に尋ねる。周囲も聖女だって、とザワザワとした。元聖女の噂はここまで届いていないのかな。
「え~と、元聖女のシャロンです。クビになって、あっちの繁華街の外れでお店を開いてます。よろしくね」
「元聖女……、力は
いつぞやの聖騎士のように、元聖女だからだと見下してきたりはしないわ。聖女の力にご用かしら。
売れるものなら、他人の命でも売るわよ! 自分のは売らない。
「もちろんです。称号を剥奪されたって、力は変わりません。騎士が冒険者になっても、騎士の時に覚えた剣技を使えなくなりは、しないでしょう?」
相手はなるほど、と頷いている。ご納得いただけたようで。
「それならば、神聖なミスリル製の武器に、聖なる祝福を与えてくれないかな? 知っていると思うが、聖なる武器はプレパナロス自治国の聖女や聖人の祝福を与えて作るんだ」
そうなのだ。
銀やミスリル鋼は、魔性のものに強い効果を持つとされている。
しかし聖別された水を使い、さらに祝福を受けないと、聖なる武器にはならない。つまり、聖なる武器を作れるのは女神ブリージダに仕える聖女や聖人だけ。シェア百パーセント……と、言いたいが、神の武器と伝わる聖遺物や、特別な小人が作った聖なる武器もあるので、シェアは八から九割かな。
それでもほぼ独占状態ね。
他に、自治国の人間じゃなく独自に女神ブリージダを信仰する信者が、修行を重ねて祝福ができるようになったりもする。
一般の人が買うには、自治国へ行くか、輸出品を探すか、はたまた派遣されている聖女や聖人に頼んで祝福を与えてもらうか、だ。祝福は旅先での我らの収入源なので、やれる人は断わらない。
祝福ができるかは、本人が持っている武器が祝福されているかで見分けられる。聖女とかは自分で祝福する決まりなので。
ちなみに祝福されていない武器でも、銀やミスリル鋼なら一定の効果はある。
「いーですよ~。一回につき銀貨二枚です。ただし一日に二個までにしてください。使いすぎると、いざという時に神聖力が空っぽになっちゃいますんで」
私も自分が魔性に襲われた時を、考えておかないといけない。
「そんなにたくさんは頼まんが、これで新しく神聖な武器を増やせる!」
増やしたいけど
私は今回の謝礼の銀貨五枚を受け取り、祝福をしてほしければ、五日前までに依頼を出すよう伝えた。
武器の祝福には手順があり、まず五日間、お肉を絶たねばならないのだ。卵もだめ。辛い試練だけど、仕方が無い。ちなみにお肉自体を食べなければ、スープなど肉入りの料理も大丈夫。間違えて口に入りさえしなければ。
やらないと祝福できないのではなく、効果が全然違ってくる。プロの自覚を問われるって寸法よ。
「なあ、元聖女シャロンさんを特別会員にしたらどうだ?」
「いいな、元聖女の特別会員か」
「元、元といちいち言わなくていいわよ。だいたい、その特別会員って何なの?」
私の浄化を見ていた狩人組合の組合員が、なにやら勝手に相談している。私は別に組合員になりたいとか言ってない。会費がかかるから。
「こちらからお願いして登録する、会費がかからない協力者って感じかな。どこかの組合に入らないと、災害時に国からの手当や各種の補助金とかは降りないが、特別会員になれば公的な援助が受けられるぜ」
会費がかからない!
なんて魅力的な誘い文句!
「じゃあ、キツネのことは頼むわ。それが条件よ」
「善処するよ。……普通のキツネとの見分けが付くかだな……」
「狩りをするんなら、呼び掛けるわけにはいかないものね……。とりあえず人に化けてたり、二本足で普通に歩いていたら、悪さをしない限りなるべく見逃してあげて」
「そう周知しよう。他にも対策を考えるよ」
この辺が落とし所よね。後ほど特別会員の会員証が届くとか。
「会員になったら、やらなきゃいけないことってあります?」
「協力者に贈るわけだから、浄化や祝福が必要な時に、協力して欲しいんだ。もちろん報酬は払うし、無理にはさせない。ただ、要請を何度も断り続ければ、剥奪される。それでも所属したい場合は、組合費を払う通常会員に移行するよ。怪我などで療養して活動できなかった場合は、その旨を報告してくれれば審議する」
つまり依頼がもらえるわけだ。オッケーオッケー、問題ないわ!
住所と氏名を書いて、特別会員の手続きをした。
ついでにお店に買いものに来てと宣伝したけど、雑貨屋かぁ……、という残念な反応だったわ。確かに今来られても、彼らが気に入る品はきっとないわね。せいぜい、キツネの薬くらいで。
もっと商品の幅を増やさなければ……!
目標はコレよね。
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