第58話フカフカのベッド




 湯浴みを終え一度バスローブに着替え、本邸であてがわれている部屋に案内される。


「ここが本日から、アーノルド様がお過ごしいただくお部屋になります。御存じかとは思いますが……ご説明いたします。

 何か御用がございましたらこちらのベルを鳴らしてください。メイドが控えている部屋に繋がっているベルが鳴ります。暫くお待ちいただくとメイドが参りますので、そうしましたらご用命をお申し付けください」


「分かった」


「ではお着換えのお手伝いをさせていただきます」


 そう言うと、バスローブを剥ごうとするので……


「自分で出来るよ……恥ずかしいから出て行ってくれ」


「左様でございますか……お着換えはコチラにご用意してありますので、そちらを着てください。もし介助が必要でしたらドアの前に暫く控えておりますので、どうぞ遠慮なくお呼びください」


「分かった」


「では、失礼いたしました」そう言って、メイドは部屋を後にした。


 木製の小さな棚のようなモノの上に、シャツやズボンなどが重ねて置いてある。

 シャツ、ボクサーパンツ、ズボン、ジャケット、セーターと着ていつ叔母上に呼ばれもいいように備える。


 首元はネクタイではなく、ポーラータイと言う首元にブローチのような装飾品が来る構造になっていて、何というか幼い印象を与える。


 前世とは違い部屋の中に居ても特に何かやる事はない。

 本を読もうにも、本一冊がまだ高価なこの世界では、冒険活劇や文学作品よりも実用書や宗教の経典の方が好まれる。


 そのため一言で言えば暇なのだ。

 湯冷めする前にストーブで焚いて暖を取りながら、フカフカのベッドに横たわる。


「柔らかいベッドなんていつぶりだろうか?」


 騎士達程ではないが、俺も別に優雅な空の旅を楽しんだ訳ではないので柔らかいフカフカのベッドの魔力に飲まれ意識を手放した。


 どうもグッスリと眠ってしまったようで、目を擦り窓の方を見ると夕暮れを過ぎた頃のようだ。


 コンコンとドアがノックされ、メイドが入室してくる。


「アーノルド様。ご当主様がお呼びで御座います」


「叔母上が? ……分かった支度をしよう」


 俺がそう言うと……


「御髪を整えさせていただきます」


 メイドはそう言って水の入ったタライとブラシ、香油を手にして俺の寝癖を整える。


「一族のモノは皆来ているのか?」


「クローリー家の皆様は、皆さまいらっしゃっておいでです。アーノルド様よりも遅れると仰られている方々は、レーガン様、アイオン様、アンソニー様、クロード様、リチャード様、ニール様、コネリー様です」


「なんだ。叔父上に父上、それに兄上達を含めた現役世代の男衆全員じゃないか……」


 叔母からすれば自分の手足であり、目の上のタンコブのような叔父上達が居ない間に、俺達学生組で遊びたいのだろう……


「と言う訳ですので、現在いらっしゃる方々で先ずは夜会を開きたいとの事です」


「叔母上の魂胆は読めた。アトナとルミーナも当然参加するんだよね? ヘンリーさんと例の彼は不参加?」


「はい。そのように伺っております」


「ちゃっかりしてるなぁ~~二人とも……」


 ヘンリーと言うのは、アンソニー叔父上の息子で魔剣士科ではなく、付与魔術科に通っている俺以上の代わりモノで、普段は気のいい友人のような兄貴分なんだけど、こう言う所だけは抜け目がない。

 例の彼と言うのは学園の最上級生で、魔術科に通っている。レーガン、アンソニー、の歳の離れた弟で妾に産ませた子供で、叔父上達の父が一族と認めていないため叔母上達が保護している状態だ。


「と言う訳ですので、速くお支度くださいませ。魔杖剣は帯刀しなくてよろしいのですか?」


「叔母上の頭がおかしいとは言え、城の中で魔杖剣が必要には流石にならないでしょ……」


「左様でございますかでは参りましょうか……」

 



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