第59話妹と幼馴染と大叔母1




 メイドはそう言うと先行しノブを回してドアを開ける。ひゅーっと肌寒い風が廊下から吹き抜ける。

 時刻は既に夕暮れであるため、天井や壁に備え付けられた魔石灯が煌々と光り夜闇を照らしている。


 暫く寒々しい廊下を歩いていると、まだ幼さを感じる整った顔立ちの少女が目に入った。

 160㎝に満たない、細身で華奢な儚げな印象を与えている“天性の愛されキャラ”とでも言うべきなのだろう。

 たまご型の輪郭も体つきも兎に角小柄で、まるで人形のようでもある。


 少女は俺を認識すると腰まで伸びた黒に近い紫紺の長髪を靡かせ、カーテシーの姿勢を取り挨拶ををした。


「お兄様お久しぶりです。是非学園でのお話お聞かせください、お兄様が学園に向かわれてから私は寂しさで胸が一杯でした。」


 そう言うとツーサイドアップに結い上げられた髪を整える。

 彼女の名前は、アトナ・フォン・クローリー。俺の一つ年下の妹でありクローリー家五兄妹の下二人が揃ったと言う訳で……俺を世話を担当しているメイドさんの仕える相手の候補の一人でもある。


「俺も寂しかったよ。兄さん達のせいで学園では入学当初から嫌われ者さ……全く俺が何をやったって言うんだか……」


 俺は愚痴交じりに軽く近況を話し談笑する。

 アトナの側に控えたメイドを注視する。その少女に見覚えがあった。


「やあ、ミッシェル君がアトナの世話係なのか?」


 話しかけられた少しくすんだ赤毛の少女は、見事なカーテシーで礼を取る。


「お久しぶりでございます。アーノルド様、私如きを覚えて頂きありがとうございます」


 そう言うと顔を上げる。

 妹のアトナよりも小さい身長は、本当に14歳か? と思わせるほどで美人というよりは美少女、あるいは幼女や童女という言葉が似合うほどだ。

 顔の輪郭も体つきもとにかく小柄で、未成熟……しかし滲み出る気品と言うか意思の強さ、そして三つ編みをあしらった頭髪のお陰で辛うじて年相応に見えなくもない。


 数年前俺が丁度刀鍛冶の修行に向かった時から、見た目が一切変わっていない。


「数年間。剣術の修行を積んでいたと聞いていたけどもう終わったのかい?」


「はい。アトナ様ほどではありませんが……学院の生徒には遅れは取らないかと……」


 ミッシェルは、アトナの乳姉妹であり母が実家から連れて来たメイドの妹の子供だ。そのため他のメイドよりも高等な教育を俺達と一緒に受けている。言わば数年間あっていなかった幼馴染のような存在だ。


「それは凄い。お前たちの話も聞かせてほしい」


「では、お兄様そろそろ食堂に向かいましょうか?」


 アトナがそう提案すると……供回りのメイドも連れず廊下を歩く令嬢が声をかけてきた。


「あら、そんな寒々しい廊下に二人でたむろしてどうしたの?」


 彼女の名前は、ミーネル・フォン・クローリー。先代当主であるひいお爺様の息女それも、年老いてから生まれた一人娘のため猫かわいがりされている。

 クローリー家の一員の多くが持つ紫紺の長髪を腰まで伸ばし、長髪がうっとおしいのか髪の一部をヘアピンでとめている。

 ヘアピンにこだわりないのか少し色あせた真赤なヘアピンを、交差させて付けている。


 昔彼女に聞いたところ精一杯のお洒落だと言っていた。

 

 まだ幼さを感じる整った顔立ちだが女性にしては高めの身長のお陰か彼女の性格の為か、華奢で儚げな印象をなく“高嶺の花”とでも言うべきなのだろう。

 ミーネルが凛とした美人なら、アトナは顔は綺麗系だが優しい性格と態度のせいで、小動物系に感じる。続柄的には、曾祖父の娘なので大叔母なのだが、14歳で叔母と呼ばれたくない! との事でミーネルさんと親世代や祖父世代からは呼ばれている。




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