10話 スノークローバー!

 エミ・愛歌 7-11 ナギ・しずく


 最後の得点は、ナギが宣告したアイドルボールによるものだった。


 エミと愛歌が粘りを見せるも、経験、技術で、ナギとしずくが押し切った。


『とても素晴らしいたっきゅーと!だったと思います。たっきゅーと!を行う、喜び、苦しみ、責任。そして、何よりも楽しさを、改めて教えてくれる。そんな好ゲームでした』


 ゲスト解説の茉子が、戦いの終わりを伝える。


 そして、ここから始まるのはたっきゅーと!に勝利した者のみが披露することができる、ウィナーライブ。


『フラワーギフト学園の二年生の代表として、最後まで、たっきゅーと!の素晴らしさを伝えてほしいと思います』


 二年生、スノークローバーの控え室にウィナーライブを控えた四人が集まる。


「さぁ、最後までばっちり決めるわよ! 途中でへばったりしないように!」


「それをナギちゃんが言うかな~! ね、うさぎ?」


「うんうん、ナギちゃんとしずくちゃんの方こそ、大丈夫?」


「笑わせる。内なる力が溢れだす……大丈夫だよ。こうしてみんなといると、元気が出てくる。それに……私たちは二年生みんなを代表してここにいるから、疲れたなんて言ってられないね」


 しずくの言葉を聞き、ねこ、うさぎは頷く。


「しずくの言う通りね。今日のウィナーライブはファンのみんなを笑顔にするだけじゃない。私たちに、この場を任せてくれたみんなのために、二年生の凄さを伝えるわよ!」


「そうだね、ナギちゃん。ね、ねこ」


「うんうん、早く歌いたくてたまらない!」


 スノークローバーは、二年生20人を代表してこの場に立っている。


 その思いが、四人のモチベーションを更に高いものに変えていく。


「さぁ、行くわよ!」


 ナギの掛け声とともに、四人は控え室を出る。


「……!」


 そして、四人はステージ裏に向かう通路の先に、たくさんの人影があることに気づく。と、同時に、ナギの足がもつれ、身体がよろける。


「ふらふらじゃない。大丈夫? ナギ」


 ナギの身体を支えたのは、


「み、みんな……!」


 そこにいたのは、フラワーギフト学園の二年生の全員だった。


「どうして、ここに……みんな、お仕事は……?」


 驚くナギの表情を見て、二年生たちは微笑ましく笑う。


「ナギをそこまで驚かせられたのなら、作戦は成功だね」


「みんなでスケジュールを調整したり、できるだけ早く仕事を終われるように頑張って応援しにきたんだよ」


 フラワーギフト学園では、二年生になると、アイドルとしての仕事も増えていくため、全員が同じ日に集まるのは、簡単ではなくなっていく。


「ナギ、しずく、ねこ、うさぎ。四人とも、私たちを代表して頑張ってくれてあるがとうね」


「ウィナーライブ、思いっきり楽しんできて」


「そうだよ、気負いし過ぎないでね」


「なにかあったら、私たちが助けにいくから」


 二年生たちから、四人に激励の言葉が繰り返される。


「みんな……ありがとう……」


 しずくは思わず、目元が潤んでしまう。うさぎとねこも同じ気持ちだった。


「……ここで見てなさい、二年生の代表として、最高のウィナーライブを世界に届けてくるわ!」


 ナギは、涙が零れないように、強気にそう宣言する。


 みんな、そんなナギのことをわかっている。一年以上、一緒に夢に向かって進んできた仲間だから。


「うん。任せたよ、私たちのエース!」


 そして、四人は光が差す方へ歩を進める。


 振り返ることはない。二年生の思いは、すべて受け取った。


「最高のエンターテイメントにするわよ!」


 イベント「初ダブルス、打倒二年生」、最後のウィナーライブが始まる!


☆ ☆ ☆

  

 フラワーギフト学園の体育館。先ほどまで、一年生と二年生の熱いたっきゅーと!が行われていた場所。


 その照明がすべて落ちる。


『それでは、勝利した「スノークローバー」によるウィナーライブです!』


 進行のセイラのアナウンスが終わると、会場は静まりかえる。


 そして、まるで雪が降り始めたように、静かに音楽が流れ出し、ステージにぽつりぽつりと照明が灯る。


 その照明が、ステージに立つ四人の姿を完全に映し出したとき、スクリーンに映像が映し出される。


『スノークローバー』


 四人はリズムに合わせ、繊細に身体を揺らす。四人が身を包む、深い雪色のユニフォームドレスが、会場全体の雰囲気とマッチ。


 見ているものを白く幻想的な世界に迷い込んだように感じさせる。


『深い雪に、包まれた世界』


『自分を、見失いそうな冷たさ』


 透き通るような、しずくの歌声が響く。


『右手にあったはずの』


『左手にもあったはずの』


『温もりさえも消えてしまう』


 うさぎとねこの歌声が、とても綺麗に重なり合う。


『忘れないで、雪の中ぽつりとクローバーは顔を出す』


『思い出して』


 ナギの感情を乗せた歌声が、胸に刺さる。


『スノークローバー、四葉にはそれぞれ意味があるの』


 四人の声が重なると同時に、会場に緑のスポットライトが差し込む。


 雪の中に咲く四葉のクローバーが現れたような演出。


 歌いながら、四人は踊り、フォーメンションを変える。


 その動きに無駄はなく、一切乱れることはない。


 ウィナーライブの様子を、一年生たちは控え室のモニターで見ていた。


(すごい……あんなに連戦で試合をしたのに……)


 ハナはモニターの中の四人に釘付けになる。


(歌も踊りも綺麗……それに、四人でライブを作り上げてる……!)


 初めて、天使歌羽のウィナーライブを見たときと同じように、胸が高まる。


(これが、ユニットでの活動……私たちの先輩、二年生……!)


 ハナ、一年生全員。そして、視聴しているすべての人たちの胸を打つライブ。


 雪凪ナギ。冬川しずく。白野ねこ。うさぎ。


 四人は、フラワーギフト学園の二年生の代表として、後輩である一年生を導くための道しるべとして、最後まで完璧にウィナーライブを披露した。


『忘れない、大切な絆。スノークローバー』


 アウトロが終わると、ゆっくりと照明が消えていく。


 すべての照明が消えると、四人はステージ裏にはける。


 そして、すべての力を使い果たした四人の身体が、ゆっくりと倒れこむ。


「お疲れ様。四人とも」


 一番近くで四人のウィナーライブを見ていた二年生たちは、四人をそれぞれ抱き抱える。


「最高だったでしょ?」


 ナギはそう不敵に笑う。


「うん。最高のエンターテイメントだったよ。だからいまはもう休んでいいよ」


「そうね、少しだけ、疲れたわ」


 ナギ、そしてスノークローバーの四人は、同級生に甘えるように微笑み、ゆっくりと目を閉じ、仲間に身を預けた。

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