3話 美甘メグム・月星ルナVS雪凪ナギ・冬川しずく!①
『第8試合目は、美甘メグム・月星ルナ対、雪凪ナギ・冬川しずくのたっきゅーと!となりました! 茉子選手、注目すべき点はどこでしょうか?』
『これまでの試合を見ていると、しずく選手が繋ぎ、ナギ選手が決めるといったパターンでの攻勢が多かったように思えます。このリズムを崩すことができるのかが、ポイントになると思います』
『なるほど! 必勝パターンに持ち込ませないということですね! さぁ最初のサーブはナギ選手からです! 得意の「王子サーブ」が出るのか!? 注目です!』
メグム、ルナ。そしてナギ、しずくが台を挟んで向かい合う。
ナギのサーブに対するレシーバーは、メグム。
(雪凪先輩のサーブ……「王子サーブ」がくるか、それとも……)
メグムはナギのサーブに対して警戒心を強める。
ナギの手のひらからピンポン玉離れる。トスの高さは普通。短い下回転サーブだった。
(まずはお手並み拝見ってところね!)
メグムは冷静にフォアハンドでツッツキをして返すと、その打球をしずくもツッツキで返す。
その打球のもとに、もうすでにルナは回り込んでいる。
(……ここでツッツキで返したら、雪凪先輩のパワードライブの餌食ですわ。それなら……)
ルナは大きくバックスイングを取り、腕の力を抜く。
(光れ、三日月!)
ラバーに打球に触れた瞬間、だらんとした腕の振りにきゅっと力が入る!
(私にドライブ勝負を挑むなんて、面白いわね! 受けて立つわ!)
向かってくるドライブに合わせ、パワードライブで打ち返そうとナギは大きなスイングを取る。
「……え!」
しかし、打球は台に弾むと、ナギが思っていたのとは逆側に飛んで行く。
ナギは大きな空振りをしてしまった。
「……いまのは、シュートドライブってわけね」
ルナが放ったドライブはシュートドライブ。
ラケットの振りとは逆方向に回転をかけることで、シュート回転を生み出すことができるドライブ。
それを打ち出すことができる余裕をもたらしたのは、
「……あのときが比べ物にならないくらいね」
思わずしずくが素でそう口に出すほど、二人のダブルスとしての連携が高まっていた。
「ナイスボール、ルナ!」
「こ、これくらい当然ですわ」
最初のポイントを制したのは、メグムとルナだった。
(なかなか楽しめそうじゃない! 気を抜けないわね! だったら……)
ナギの二本目のサーブ。そのトスは、明らかに高い。
(この高さ、「王子サーブ」がくる……!)
そのトスを見て、メグムはフォアハンドからバックハンドに姿勢を切り替える。
ナギは、落ちてくるボールにラケットを振り下ろし、しゃがみ込む。
王子サーブが、メグムのもとに向かう。
(……大丈夫)
メグムは王子サーブの回転に合わせ、手首を傾ける。
そして、
(「オレンジスプラッシュ」!!!)
打球を弾けさせる!
「……く!」
予想外の打球に、しずくは反応することができない。
メグムの表ソフトラバーから打ち出された強力な角度打ちが決まる。
『な、なんということでしょうか! ルナ選手のシュートドライブ、「三日月」。メグム選手の角度打ち「オレンジスプラッシュ」が見事に決まり、2-0で一年生がリードです!』
『いまの角度打ちははとても見事でした。技術も素晴らしいのはもちろん。二人の心の強さがこのポイントを奪うことに繋がったのだと思います』
『こ、心の強さ、ですか……?』
『はい、まずはルナ選手のシュートドライブ。もちろん、得意なドライブであったのかもしれませんが、パワードライブで勝負を挑んでくるナギ選手に対して、打ち込むのは簡単なことではありません』
『確かに、あのバックスイングには威圧感がありますよね……!』
『次に、メグム選手。ナギ選手の「王子サーブ」は確かに強力ですが、ダブルスというハーフコートにしかサーブを打ち出せない状況。表ソフトラバーであることを考えれば、角度打ちを狙うというのは、現実的な判断です。ただ、最初の挑戦で、ここまで綺麗に決め切ることは簡単ではありません。メグム選手の冷静さ、心の強さが現れた素晴らしい打球でした』
『なるほど! 確かに、とても勇気が伝わってくるような得点でした!』
解説の茉子、興奮したように司会のセイラが言葉を残す。
メグムとルナは小さくハイタッチを交わす。
しかし、喜びを顔に出すことはしない。
それはわかっているからだ。ここから、本当の戦いが始まることを。
『でも、いまの素晴らしいプレイを受けて、あらためて気合が入るのではないでしょうか』
ナギはラケットの握り具合を何度も確かめる。
しずくは邪魔にならないように結ってあった髪を整える。
そして、
「アイドルボールをお願いするわ!」
ナギはそう、不敵に宣言する。
『ここからの二年生二人のたっきゅーと!からは、目を離さない方がいいですよ』
☆ ☆ ☆
『おーっと! ここでナギ選手が早くもアイドルボールを宣言! 次に得点を上げると、二得点を獲得することができます!』
ショッキングピンク色をしたアイドルボールが、サーブ権を持つ、メグムに手渡される。
(このタイミングでのアイドルボール……)
メグムは、そこから二年生たちの強い意志を感じる。
(これ以上流れを持っていかせない……ううん、きっとそれだけじゃない。ここから私たちを圧倒して負かすつもりだ)
メグムは小さく深呼吸をして、気持ちを整える。
「メグム」
そう声をかけてくれたルナを、やさしく制止する。
ルナもメグムの表情を見て、小さく頷く。
(このポイントは確かにアイドルボール。でもいつも通りに)
メグムは沸き立つ高揚感を静かに抑える。
手の甲から、やさしいミカンの香りがする。良い匂いだ。
「よしっ」
メグムはサーブを打つ姿勢に入る。
(へぇ……かなり冷静じゃない! 頼んだわよ、しずく!)
メグムの様子を観察し、ナギはレシーブを受けるしずくに念を送る。
メグムのサーブが放たれる。
(……! このサーブは……!)
一瞬、受けるしずくの回転の判断が遅れる。
メグムが放ったのは、たっきゅーと!のトップアイドル、天使歌羽のフェイントサーブ。
フラワーギフト学園合格に向けて、メグムが磨いた憧れの人の技術。
(下回転か、無回転か……)
しずくはコンマ数秒でその判断を迫られる。
一瞬の判断の遅れから、しずくは正確な回転を掴むことができなかった。
(……それでも、ナギちゃんに恥ずかしいところは見せたくない)
しずくの下した決断は、ナギに託すのではなく、攻めること。
言葉を代えれば、博打。
「凍り貫け」
そう呟き、しずくは短いサーブに対して台上のドライブを仕掛ける!
サーブの回転は……下回転。
無理に持ち上げられた打球は、ネットに当たる、そして……
(……短いですわ!)
けっして綺麗なレシーブではない。それでも、相手のコートに返る。
ルナはネットの手前で弾んだ打球に、必死にラケットを伸ばし返球する。
しかし、
「よくやったわ、しずく!」
そこで待ち受けていたのはナギ、大きなスイングを取りパワードライブを振りぬく!
完璧な当たり、コース。中継を見ている誰もがナギの得点を疑わなかった。
それでも、
「……んっ!」
メグムは諦めずに打球に手を伸ばしていた。態勢を崩しながら飛びつく。
ラケットの先端に、打球が触れる。
「……!」
ふんわりと、打球が浮かび上がりナギ、しずくのコートに向かう。
しずくは咄嗟に追撃態勢に入る。
ルナも台から離れ、スマッシュに備える。
そして打球はぎりぎりコートを、超えていった。
『アイドルボールを制したのは、宣言した二年生たちです! 得点は2-2。それにしても、メグム選手、すごい飛びつきでした!』
ルナはメグムに手を差し出し、起き上がらせる。
「けがはないですの? メグム」
「ありがとうルナ。えっへへ。あと少しだったね」
メグムはラケットの先端に指で触れる。
(得点は追いつかれたけど……流れはまだ、持っていかせない!)
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