2話 二年生の風格!
『登場して頂きましょう! 二年生の入場です!』
セイラの進行に合わせ、雪凪ナギ、冬川しずく、白野うさぎ、白野ねこの四人がステージに現れる。
四人が着ているのはユニフォームドレス。
深く積もった雪を思わせるような白の中に、ぽつりぽつりと緑が浮かんでいる。
その一つ一つは、四葉クローバー。どんな寒さにも負けない、四枚の若葉を印象付ける。
『衣装はもちろん、四人ユニット「スノークローバー」でお馴染みのユニフォームドレスです! いつ見ても素敵ですよね!』
膝丈ほどのスカートをひらりと揺らし、四人が進む先には、二席ずつに分けられた王座、椅子がある。
紅い椅子に、ナギ、しずくが、蒼い椅子には、うさぎとねこが腰を下ろす。
四人ユニット「スノークローバー」のライブを披露するためには、これからの戦いの中で、一敗も許されなない。
それだけではない。
二年生として、恥ずかしくないプレーをする必要もある。
映像を見ている視聴者には、とても華やかなイベントに見えているだろう。
しかし、その場にいないとわからない、独特な緊張感が、会場を全体を包み込んでいた。
『一年生たちは二年生の前に進み、どちらのペアとたっきゅーと!を行うのか、選択することができます! そこから熱いたっきゅーと!が始まるのです! さぁ、最初の挑戦者の入場です!』
☆ ☆ ☆
「前回のイベントとは、ちょっと雰囲気が違うね」
控え室のモニターを覗き込むと、そこにはステージの様子が映し出されている。
観客がいないからなのか、相手が二年生だからなのか、ぴりっと、ハナは張り詰めた空気を感じ取っていた。
「二年生の方々にとって、このたっきゅーと!は単なるイベントではないのだと思います。先輩としてのプライドをかけた戦い。前回のイベントで、もちろん私たち皆全力で試合を行いましたが、『勝ち』に拘る、真剣といった意味では、幾分かこのイベントの方が二年生にとって重い意味を持つのかもしれません」
「勝ちに拘る……」
愛歌の言葉を聞いて、ハナは考える。
(いままででも、本気で勝ちたいって思ったことは何度もある。でも、勝たなければいけない、プライドを守る戦いは経験したことない……)
それは、多くの場合でハナが挑戦者であったから。
(挑戦を受ける側の気持ち、思い……)
ハナは、このイベントでそれを少しでも感じ取りたいと思った。
「えっへへ。私とルナが八番目、ハナとマロンちゃんが九番目、愛歌とエミが十番目、最後になるね」
試合の順番は、先ほど秋風学園長から発表されていた。
「もちろん、皆が勝てるのが一番ですわ。でも、二年生は甘くない。そうなると、終盤である私たちはチャンスですわね」
「そうだね~二年生の人たちも、連戦で体力がなくなってくるはず~」
ルナの発言に、マロンはうんうんと頷く。
「……最後か」
エミは、静かに震える手を、みんなに気づかれないように背中に隠す。
「エミ、大丈夫ですか」
その手を、後ろから愛歌がやさしく包み込む。
「愛歌……大丈夫だよ。最後っていうのは、正直緊張するけど、怖くて震えてるわけじゃないんだ。武者震いってやつかな。自分でも驚くくらい!」
「そうでしたか。でも、それは私も同じですよ。試合が待ち遠しくて、気持ちが高ぶっています」
「それに、今日のスペシャルゲストは、茉子さんなんだ。私の成長を見てほしいな」
エミにとって、茉子シュバインシュタイガーは、フラワーギフト学園に入るきっかけとなった、憧れの存在。
「このイベントを見ている方々に、見せつけて差し上げましょう。私たちなら、それができると、たっきゅーと!の神様に誓います」
「プレッシャーかけてくるね、愛歌は……」
「そうしてほしいと言ったのは、エミですよ?」
そう少し意地悪そうな視線を向ける愛歌。
「そうだね。勝とう、愛歌」
「ええ、必ず」
☆ ☆ ☆
「ねぇ、ルナ。緊張してる?」
「どうしましたの、急に。してないと言えば嘘になりますわ。それほどの相手に挑むんですもの」
通路の先にステージがある。
そこから観客の温かい歓声が聞こえることはない。
「えっへへ。そうだね。私も緊張してる。でも、あのときと、私たちのダブルスは全然違うよね」
「それは、そうですわね。あれから練習もたくさんしましたし……」
「仲良くもなれたよね!」
そう言ってメグムはルナの顔を覗き込む。
「相変わらず、恥ずかしいことをそのまま口にできる人ですわね。それに……」
「……?」
ルナは顔を赤くしながら、顔を近づけていたメグムの鼻に人差し指をツンと当てる。
「あなたの方が、緊張しているように見えますわ」
「ルナ……」
ダブルスはパートナーと一緒で心強い反面。一人ではないプレッシャーも感じることがある。一人で責任を負いきることはできないのだ。
「えいっですわ」
「わわっ、なに!?」
ぷしゅっと、ルナはメグムの手に何かを吹きかける。
「冷たい……あれ、この香りは……みかん?」
メグムは自分の手を顔に近づけると、そこからみかんの甘酸っぱい香りが広がった。
「オレンジの香水ですわ。これで緊張もほぐれまして?」
そう言いながらしてやったり顔のルナ。
自分のために、わざわざこの香水を準備していてくれたのだろうか。
メグムの心が温かくなる。
「か、勘違いしないでくださる? たまたまいい香りがする香水を買ったら、オレンジの香りだっただけですわ!」
「えっへへ。ありがとうルナ。何だか肩の力が抜けたよ。それに、みかんパワーも湧いてきた!」
大きく手をぐるんぐるんと回すメグム。
「私たちの力を、出し切りますわよ。メグム」
「うん。思いっきりやろう。ルナ」
☆ ☆ ☆
一試合一試合、たっきゅーと!が進んでいく。
そこから受ける印象は、歯が立たない。というものだった。
『な、なんということでしょうか……圧倒的です! ここまで、7試合行われましたが、一年生が一セットも取ることができない試合が続いています! それどころか、5点以上、奪うことができていません!』
『もともと、彼女たちにはそれができる実力はあります。ただ、それをこの舞台で発揮できるのは流石といったところでしょうか。ここからの一年生の巻き返しに期待したいです』
スペシャルゲストの茉子シュバインシュタイガーは、これからの挑戦者の顔ぶれをチェックする。
(ここから、どうなっていくか……)
ここまで雪凪、冬川組が三試合、白野組が四試合を行った。
「もっと面白いことになるかなって思ったけど、ここまではあんまりね! この調子なら体力的にも問題ないわ!」
「油断大敵。慢心は死の知らせを運んでくる」
紅い椅子に座ったナギとしずくは、水分を補給する。
「でもでも、うさぎ! みんな成長しててうれしくなるよね!」
「うんうん、ねこ。うれしいのは私も同じだけど落ち着いて、椅子から落ちちゃいそう」
蒼い椅子に座ったうさぎとねこは試合が終わったばかりで、汗を拭っている。
『さぁ! 続いて、第8試合目に行きましょう! 次の挑戦者は、このダブルスです!』
セイラの掛け声により、ステージに現れたのは、美甘メグムと月星ルナ。
フラワーギフト学園の淡い花色のユニフォームドレスに身を包んだ二人は、二年生の前まで歩を進める。
『さぁ! 8組目の挑戦者は、どちらにたっきゅーと!を申し込むのか!』
ルナとメグムは迷うことなく紅い玉座に向かう。
それぞれが持っている赤いバラ。挑戦権を二年生に手渡す。
「雪凪ナギ先輩。冬川先輩」
「私たちと、たっきゅーと!を行ってくださいませ」
ナギとしずくはその赤いバラを受け取る。
「このときを待ちわびていたぞ」
ナギはじっと、メグムとルナを見る。
「ふぅん。なかなか良い目をしてるじゃない! 受けて立つわ!」
ナギは二人に向かってラケットを向ける。
第8試合目、美甘メグム・月星ルナ対、雪凪ナギ・冬川しずく、開戦!
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