第六章 初ダブルス! 打倒二年生!

1話 開幕!

「よしっ! 行こっか、メグ!」


「えっへへ。張り切り過ぎて、転ばないでよ? ハナ」


「大丈夫大丈夫! スタート、ダッシュ~!」


 寮を出たハナとメグムが向かった先は、フラワーギフト学園にある体育館。


 この場所では、多くのたっきゅーと!のイベントが開催される。


 ハナやメグム、一年生の初めてのたっきゅーと!のイベントが行われたのも、この場所だった。


「今日は、前とは雰囲気が違う気がする」


 会場の周りを見渡し、ハナはそう感じた。


「そうだね。今日のイベントは、この間のイベントと違って、お客さんが入らないイベントだからかな」


 一年生の初めてのたっきゅーと!では、観客がいた。


 けれど、今回の『初ダブルス、打倒二年生』では観客が動員されない。


 その代わりに、多くの記者、取材陣等、マスコミ関係者が、準備を進めている。


「そうだ。今日のイベントは、ネット放送で大々的に取り上げられるみたいだよ。まぁ、メインとなるのは、私たちじゃないみたいだけどね」


「そっか。今日は二年生の、すごい先輩たちが来るんだもんね!」


 ハナは、思わずきゅっとスカートを握りしめる。


「楽しみだね! メグ!」


「えっへへ。ハナは相変わらず打ちたがりさんだね~。でも、私も同じ気持ちかな」


 ハナとメグムが体育館への扉を開くと、そこにはもう、仲間たちの姿があった。


「ハナちゃん、メグムちゃん、おはよう~今日は、がんばろうね~!」


 ハナのダブルスのパートナー、栗野マロン。


「遅いですわよ。気が緩んでるわけではなくて?」


 メグムのダブルスのパートナー、月星ルナ。


「また、メグムに起こしてもらったんでしょ、ハナ!」


「よく眠ることは、成長に繋がります」


 星空エミ、天使愛歌のダブルスコンビ。


 フラワー組も、ギフト組も、一年生総勢二十名が集まった。


「みんな、もう集まっているみたいね」


 そこに、スーツに身を包んだ、フラワーギフト学園の学園長、秋風緑が現れる。


 緑の登場に、一年生たちの間に、緊張感が走る。


「良い顔つきになったわね、みんな。体育館の外を見た? 今日はお客様はいないけど、注目度は前回のイベントと同じくらい。いえ、それ以上と言っていいわ。どうしてかわかる?」


 緑はゆっくりと、一年生たちの顔を見渡していく。


「今回のイベントのメインは、二年生の、雪凪ナギ、冬川しずく、白野うさぎ、白野ねこ。そう思われているからよ」


 そう、少し意地悪そうに笑う。


「でもね。イベントの主役っていうのは、決まっているものじゃなくて、なるものよ。特に、たっきゅーと!の世界では、下剋上なんて日常茶飯事。いい、みんな。一つだけ覚えておいて」


 緑は、少しの間を取ると一年生にこう伝えた。


「ステージの上では、胸を借りようと思わないで。ステージの上に立ったアイドルは、芸歴も、年齢も関係ない。みんな、等しく、たっきゅーと!のアイドルなの。勝つか、負けるか。歌えるか、歌えないか。期待してるわよ」


「……はい!」


 一年生全員が、元気よく返事を返す。


「さぁ、各自ウォーミングアップを済ましたら、一度リハーサルよ!」


 緑の掛け声に、イベントの最終準備が始まる。


(勝つか、負けるか。歌えるか、歌えないか)


 ハナは、フラワーギフト学園の入学試験では、負けて、歌うことができなかった。


 一年生最初のたっきゅーと!のイベントでは、勝って、歌うことができた。


(また、歌いたいなぁ!)


 ハナの心に、温かい熱が灯る。


 その熱は、ハナだけじゃない。


 メグムにだって、愛歌にだって、エミ、ルナ、マロンにだって灯っている。


 一年生全員が、二年生のとのダブルスの練習で、一度敗れていた。


 これは一年生にとって、リベンジマッチでもあるのだ。


 そして、


「なかなか気合が入ってるみたいね。楽しみになってきたじゃない! 私たちも、行くわよ!」


 雪凪ナギ、冬川しずく、白野うさぎ、白野ねこ、会場入り。


 イベント『初ダブルス、打倒二年生』開始まで、あと数時間。


☆ ☆ ☆


『皆さん、こんにちは! ご存知の人も、初めましての人も、よろしくお願いします! 私は今日のイベントの司会、進行を務めさせて頂く、セイラです!』


 フラワーギフト学園の体育館の中、競技スペースのすぐ横に設けられたブースで、セイラはカメラに向かって笑顔を向ける。


 この放送は、ネット放送により全世界で同時中継されている。


『本日のイベントは、フラワーギフト学園の一年生たちが、すでにたっきゅーと!のアイドルとして活躍している二年生に挑む、夢の舞台です! この日のために、一年生たちはダブルスの練習を積んできました! その成果を出し切ることができるのか! そして、二年生は、先輩というプライドを保つことができるのか! とても熱いたっきゅーと!が予想されます!』


 セイラは興奮気味に視聴者に語り掛ける。


『いやぁこんなに近くでたっきゅーと!が見られるのは、司会者の役得ですよねぇ。あっ、大丈夫ですよ! 中継をご覧の皆様にも、こちらの盛り上がりが伝わるように解説もさせていただきますから! えっ、私だけでは頼りない……! そんなぁ!』


 セイラはわざとらしく落ち込んだふりをする。


『……ふっふっふ。そんなこともあろうかと、実は今日、スペシャルゲストが来てくださっているんです! 早速登場してもらいましょう! どうぞ~!』


 セイラの掛け声に合わせて、ある人物が現れる。


『こんにちは。私はフラワーギフト学園の生徒会長。茉子シュバインシュタイガーです。本日のスペシャルゲストとして、解説を務めさせて頂きます』


 現れたのは、茉子シュバインシュタイガー。フラワーギフト学園のエース。


『ありがとうございます! なんと今日は、茉子シュバインシュタイガー選手を解説に向かえ、進行を進めさせて頂きます! わわ、コメントの盛り上がりがすごいですねぇ!』


 ネット放送の画面が、コメントでいっぱいになる。


『さぁ、では今日のイベントの説明を行わせて頂きます! 本日一年生の参加者はフラワー組、ギフト組の二十名。二年生の参加者は、雪凪ナギ、冬川しずく、白野うさぎ、白野ねこの四名となります!』


 二年生の姿が、大体的に映し出される。


『一年生はそれぞれダブルスを組み、雪凪・冬川組、白野組のどちらかに三セットマッチのたっきゅーと!を挑むことができます! 一年生はたっきゅーと!に勝利すれば、ウィナーライブが披露できます! しかし、二年生は、全試合に勝たないとウィナーライブを披露することができません!』


『そうですね。連戦が続けば、体力は消耗してきます。二年生たちにとっても、終盤は苦しい戦いになると思います。それに、今年の一年生には、面白い子が多いんです。一年生たちの成長にも注目していきたいですね』


『確かにそうですね! 前回の一年生によるたっきゅーと!のイベントもとても熱いものでした! え? そのイベントを見逃してしまった……? そんな方は、フラワーギフト学園のホームページを検索してみてくださいね!』


 セイラのピーアールに、周りのスタッフから笑い声が漏れる。


(二年生はこれからのたっきゅーと!のリーグ二部、プリンセスカップの予選、レギュラー決定戦を見据えれば、こんなところで負けているわけにはいかない。一年生はたっきゅーと!のトップの実力に触れるチャンスでもある)


 茉子は、二人の後輩の姿が頭に過る。


(でも、二人はそんなこと考えていないんでしょうね)


 くすりと、茉子の口元が綻ぶ。


(ナギは、いつでも私を、エースの座を狙っている。ハナちゃんはきっと、たっきゅーと!今日も全力で楽しもうとするでしょう。あの二人が台上で向かい合ったときに、どんな楽しもうになるのか……私も楽しみです)


 セイラと茉子のトークが続き、そして、ついに。


『さぁ、皆さん! 準備が整ったみたいです! 「初ダブルス、打倒二年生」、開幕です!』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る