13話 ダブルスペアの日常!
とある日のハナとマロン@温泉
ダブルスの練習を終え、汗を流しに二人でフラワーギフト学園の大浴場にきていた。
「ふぅ~頑張った練習の後のお風呂は、いつだって最高だよ~身体が癒されるよう~」
湯船につかりながら、ハナは幸せそうに声を漏らす。
「そうだね~あっハナちゃん、頭からタオルが落ちちゃいそう~」
「ありがとうマロンちゃん~! マロンちゃんは、お母さんみたいで、安心するよ~」
「お、お母さんって~」
マロンは少し嬉しそうにする。
「マロンちゃんはものすごーく気づかいができるよね! 私はお家ではママに、寮ではメグに面倒を見てもらってる感じだから見習わないとだなぁ~」
ぶくぶくとハナは口元まで湯船に入る。
「でも、そこがハナちゃんのかわいいところだと思うよ~私も、ついついお節介を焼きたくなっちゃうもん~」
「えへへ~そう言ってもらえると、うれしい~。でも、やっぱり私も恩返ししたい! そうだ! マロンちゃんの背中を流させてよ!」
ハナはざぱっと立ち上がる。
「ええ!? でも、さっきもう身体は洗ったよ~?」
「大丈夫だよ! これでも家にいるときは妹と一緒にお風呂に入って、身体を洗ってあげてたから! さぁさぁマロンちゃん~こっちにきて~!」
「わわっ~、ハナちゃん、自分で歩けるよ~」
ハナはマロンをバスチェアに座らせると、泡立てネットを使い、ボディソープの柔らかい泡を作り出す。
「では、お背中を洗わせていただきます!」
「はい~お願いします~」
ハナは手の平に泡を受け、マロンの背中にやさしく触れる。
「んっ」
誰かが身体に触れるこそばゆさに、マロンは小さく声をあげる。
「わぁマロンちゃんのお肌きれい~」
「そ、そんなことないよ~」
ハナはマロンの背中をゆっくりと洗っていく。
「それにしても……」
「? どうしたのハナちゃん~?」
ハナはまじまじとマロンの身体をみる。
「マロンちゃんって、服を着てるときよりも、胸が大きい!」
「ええ! そんなことないよ~」
「これは、着やせするタイプってやつだよ! うらやましい~!」
ハナは自分のぺったんこな胸と比べて、がっくりと肩を落とす。
「愛歌とエミは胸が大きいし……マロンちゃんも……メグは最近胸が大きくなってきてる気がするし……私だけ胸が小さい……」
「そんなことないよ~! きっとハナちゃんの胸もこれから大きくなるはずだよ~」
「そうだといいなぁ……あっ! でもルナちゃんも私と同じくらいかも!」
ハナは目を輝かせ、ルナと同部屋であるマロンに同意を求めるが、
「あ~確かにそうかもしれないね~でも、ハナちゃんの言う、着やせするタイプ? ってやつかもしれないよ~なんて~」
そう冗談を言うようにマロンはハナを見ると、
「ぷく~」
ハナはほっぺたを風船のように膨らませていた。
「意地悪を言うマロンちゃんは~全身を洗ってやるの刑だ~!」
「わわ! ハナちゃん! くすぐったいよ~!」
マロンの身体を触り、その柔らかさをあらためて実感したハナは、食堂で牛乳を飲む回数をさらに増やしたという。
とある日のメグムとルナ@食堂
「えっへへ。ルナ、ナイフとフォークの使い方が上手だね!」
練習の後に、食堂で夜ご飯を食べているメグムとルナ。
「な、なんですの、急に……そ、そんなに見られると、食べづらいですわ……」
ルナは恥ずかしそうにメグムを見る。
「えっへへ。なんていうか、ルナは立ち振る舞いがお上品だよね! 私も見習いたいなぁ」
「そんなこと、ないですわ。ただ、テーブルマナーに始まり、あらゆる作法については、お父様、お母様から教育を受けましたが」
「すごい……! もしかして、ルナってお嬢様なの?」
メグムは絵本や映画の中に登場するお姫様をイメージして期待の視線をルナに送る。
「そ、そんな大層なものではありませんわ! 期待した眼差しを向けないで!」
「そうだ! 私、まだルナのお部屋に行ったことがないけど、どんな感じの部屋なの? 確か、マロンちゃんと同部屋だったよね」
「お部屋、ですの……? 確かにマロンとは同部屋ですが……?」
「あっ、ルナ、マロンちゃんのことも、もう呼び捨てなんだね!」
メグムは嬉しそうに笑う。
「な、なにかおかしいですの……?」
「だって、ルナ。私のことは最初、フルネームで呼んでたよね! 『美甘メグム』って!」
声マネまで披露するメグムに、ルナは顔を赤くする。
「それは……まだ、あまり話したこともありませんでしたし、恥ずかしかったから……」
「えっへへ。マロンちゃんともう、仲良しなんだね!」
「マロンは……いい子ですわ。同部屋になって緊張していた私に……ぶっきらぼうに接してしまっていた私に、いつでも変わらない笑顔を向けてくれましたわ……って、にやにやしなでくださる?」
ルナの話を聞いて、メグムは思わず口元が緩んでしまっていた。
「このお話は終わりですわ!」
ルナは拗ねたようにメグムから顔を背ける。
「えっへへ。ごめんねルナ! 微笑ましいお話だったから、つい……! そうだ、お部屋! ルナのお部屋はどんなお部屋なの!」
メグムは慌てて話を方向転換する。
「……お部屋と言っても、みんな間取りも同じでしょう? 特にメグムたちと変わりはないと思いますわ」
「なんかこう。アレンジを加えてたりするのかなって! 私の場合、ミカンのグッズや、ポスターとか貼ってるよ!」
えっへんと、自分の大好物であるミカンをアピールするメグム。
「あなたのミカン好きも大概ね……そういう話だったら、私のお部屋にはぬいぐるみがたくさん……」
そう言っている途中、ルナは自分の口を手で押さえる。
「……なんでもありませんわ」
「ルナ、ちゃん……かわいい! ぬいぐるみが好きなんだね!」
「べ、べつに好きじゃないですわ……!」
「えっへへ。そんなこと言って! 話してるうちに、恥ずかしくなったんでしょ?」
「……! それは……」
ルナはメグムに図星をつかれ、さらに顔を赤くする。
「そうだ、この後、ルナの部屋に行ってもいい? ぬいぐるみ、見せて~!」
「だ、だめです! そ、そうですわ! 食事中の会話は、バッドマナーですわよ!」
「えっいきなり!?」
そう言うとルナは、静かにもくもくと食事をとり始めた。
同部屋のマロンの情報によると、この日ルナは部屋に帰ると、おもむろに掃除を始めたらしい。
とてもそわそわしていて、かわいらしかったと。
とある日の愛歌とエミ@寮
「今日も疲れたね~」
「そうですね。でも、心地よい疲れでもあります」
もうすぐ今日という一日が終わる。
愛歌とエミは、寮の同部屋。
すでにパジャマに着替え、それぞれのベッドに身体を預けている。
「あっ。そういえばエミ、明日の英語の授業翻訳、エミが当たる番だったような……」
「えっ! ……そ、そうだった……! 忘れてた!」
エミはベッドから飛び上がり、英語の教科書とノートを探し、机に着く。
フラワーギフト学園は、たっきゅーと!を学ぶことができる学校である。
しかし、学業も疎かにしてはいない。
フラワーギフト学園を卒業した後の進路は、生徒によって様々。
誰もが、たっきゅーと!のアイドルの道を選ぶわけではなく、卓球の強豪高校に進学する生徒もいれば、、女優やモデルになった生徒もいる。
中には、有名進学校に進んだ生徒もいるくらい、勉学にも力を入れている。
それぞれの生徒の才能を咲かせる場所、それがフラワーギフト学園である。
「う~ん、なかなか難しいなぁ……」
頭を抱えながら、教科書とにらめっこするエミ。
「エミ、お手伝いしましょうか?」
ふんわりと、愛歌は椅子をエミの隣に近づけ座る。
「え! いいの? でも、もう遅い時間だし、先に寝ててもいいよ?」
「こういうときは、協力が必要であると思います。ただ、答えを教えるわけではありませんよ? 私はお手伝いをするだけですから」
「ありがとう愛歌~助かるよ~!」
そのときだった。
「きゃっ!?」
「わっ、停電かな?」
突然部屋の明かりが消え、真っ暗になる。
「めずらしいね。ここに来てから初めてかな? ね、愛歌……!?」
がばっと、エミはやわらかいものに身体を掴まれる。
「え、エミ……! そ、そこにいてくれていますか……!?」
「うぐ……あ、愛歌? う、うん。いるけど……く、くるしい……」
その声で、エミは愛歌が自分に抱き着いてきたことがわかった。
「は、離れないでくださいね……?」
愛歌の声と、身体が、震えている。
(もしかして、愛歌……)
エミは、その様子から、ある考えにたどり着く。
「愛歌、暗いところが、苦手なの……?」
そういえば、いつも愛歌は寝るときも、ベッドライトの小さな明かりをつけて寝ているような。
「そ、そうなんです……私、暗いところとか、苦手で……」
すると、部屋中の明かりがつき、停電が収まる。
「あ、直ったね! もう大丈夫だよ、愛歌!」
「あ、ありがとうございます……」
恥ずかしそうに、愛歌はエミから離れる。
「お恥ずかしいところをお見せしました……」
恥じらう愛歌を見て、エミはあることを思いつく。
「……あ、愛歌! 窓のところに、謎の光が……!」
「……!?!?」
愛歌は、顔を青くし、またエミに抱き着く。
「ご、ごめん愛歌。冗談だよ!」
「……!? …………ぷくー」
愛歌は状況を理解し、エミを見て頬を膨らませる。
「ごめんごめん! 愛歌、暗いところとか、お化けとか苦手なんだね! 愛歌なら、おばけなんているわけないではないですか……、みたいな感じかと!」
「いるわけない……そうです……だ、だって、非科学的ではありませんか! お化けや幽霊など……! でも、本当にいるのであれば……こわい……」
「そうかな……? 私はホラーとか、結構大丈夫だけど……?」
エミは愛歌の意外な一面を見ることができた気がした。
「……エミ、はしたないことを承知でお願いしますが……」
「? なあに?」
愛歌はもじもじしながらエミを見る。
そして上目遣いで、
「今日は、一緒のお布団で寝てくれませんか……?」
「……!」
エミは、思わず顔を赤くしてしてまう。
いつもの愛歌と、恥じらう愛歌のギャップが、胸を熱くする。
「も、もちろん! 怖がらせちゃったのは、私のせいでもあるからね!」
エミは赤くなった顔を誤魔化すように、教科書に目を向けるが、
「きゃー!」
「え、エミ!? どうしました!?」
次に悲鳴を上げたのはエミだった。
「つ、机の上……! む、むし……!」
エミが机から離れ、指を指している方を見ると、そこには小さなカメムシがいた。
「あら、あら。カメムシさんが迷い込んでしまったみたいですね」
愛歌は、ティッシュペーパーを使い、カメムシを拾い上げると、窓を開け、外に逃がす。
「うふふ。エミは、虫さんがだめなんですね?」
「だ、だって……なんか、苦手なんだもん……愛歌は大丈夫なんだ……」
「はい。命あるもの。可愛らしいむしさんでした。今日はお互いに、知らない一面が見えた気がしますね」
「うう~なんか釈然としない~」
そう言い、二人で笑い合う愛歌とエミ。
この後、二人はお互いにお化けとむしを警戒しながら、なんとか翻訳を終わらせたという。
もちろん、二人は一緒のベッドで眠った。
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