6話 新イベント!


「ええ~! ハナ、白野うさぎ先輩と、ねこ先輩にダブルスを教えてもらったの!?」


 ハナは学生寮に戻ると、メグムに今日あった出来事を伝えた。


 すると、メグムは目を真ん丸にして驚く。


「いいなぁ羨ましい……双子の白雪アイドル……私も会ってみたいよう」


「すごくダブルスが上手だったよ! コテンパンにされちゃった……!」


「それは仕方ないよ、二人は、ダブルスの名手としても知られてるもん。ダブルスの強さだけを考えると、フラワーギフトのレギュラーの三年生をも上回るとも言われてるんだよ!」


「ええっ! すごいとはわかってたけど、そんなにすこい人たちだったんだ……」


 確かに、最後に先輩二人が見せた真の実力は、相当なものだった。


(すごい人が、たくさんいるんだなぁ)


「ハナ、いま、フラワーギフト学園にきてよかったぁって思ったでしょ?」


「えっどうして!」


「えっへへ。顔が、そういう顔してたよ。あと、また先輩たちと試合したいなぁって顔もしてた」


「あはは。さすがメグ……その通りです」


 二人はくすくすと笑い合う。


「不思議なのは、先輩たちが最後に言ったことなんだよね」


 ハナは、二人の言葉を思い返してみる。


『そんなに焦らなくても、再戦の舞台は、もう用意されてるよね、うさぎ』


『うんうん。もうすぐ発表があるんじゃないかな?』


 ハナの話を聞いて、メグムは考える。


「ふむふむ。それって、秋風学園長が明日私たちを集めることに関係しているんじゃないかな。前みたいに、またイベントが発表されたりするのかも」


「やっぱりそうなのかな! また、先輩たちに会いたいなぁ」


「えっへへ。それで、試合がしたいんでしょ? ハナは。もう打ちたがりなんだから」


「ばれてる! でも、メグとルナちゃんとも打ってみたいな! 二人の調子はどう?」


 ハナのダブルスのパートナーがマロンであるように、メグムにもダブルスのパートナーがいる。


「私、ルナちゃんとは卓球教室で何度か一緒になったことはあるけど、あんまりじっくり話したことはなくて。何というかクールで可愛い子だよね!」


 月星ルナは、フラワー組であるハナとメグムとは違い、ギフト組である。これまでに特別交流はなかった。


「それが……あんまり、上手くいってなくて……」


 メグムは、寂しそうにそう呟く。


「前のたっきゅーと!のイベントで、私、ルナちゃんに勝ったでしょ? それから、なんだかライバル視されてるみたいで……」


「そうなんだ! きっと、すごくすごく悔しかっただね……少し気持ちわかるかもしれない……でもね」


 あの大舞台で試合に負けたら、きっとハナもとても悔しかったはずだ。それでも、


「やりきったって気持ちもあると思うから、きっと大丈夫だよ、メグとルナちゃんなら!」


「ハナ……うん。そうだね! えっへへ。ルナちゃんとも仲良くなりたいなぁ」


「私も! 今度、卓球教室で会ったら話かけてみよう!」


 あわよくば、試合もしてみたいなぁとハナは思った。


「これからは、お互いにダブルスのパートナーな子と練習することが多くなりそうだね」


「確かにそうだね、うう、メグと最近卓球できてない……」


 フラワーギフト学園にくるまで、ハナは基本、メグムとずっと卓球の練習をしていた。何だか不思議な気分だ。


「えっへへ。ハナちゃんは、寂しがり屋さんだね~今日、一緒のベッドで寝る?」


「ぷう! もう、メグからかってるでしょ~!」


 ハナはわざとらしくほっぺを膨らませて見せる。


「でも、いつかはメグと一緒に、ダブルスでたっきゅーと!もしてみたいなぁ」


「えっへへ。私もいま、同じことを考えてた」


 二人が想像する舞台。たっきゅーと!のステージで二人で輝く姿。


「私たちなら、絶対に実現できるよ!」


「うん。一緒に目指そう」


 二人は、お互いに手を取り合う。


 目指すのは、たっきゅーと!の大舞台。お互いの輝ける姿を信じて。 

 

☆ ☆ ☆


「みんな、ダブルスの調子はどう? ふふ。何人かは、もう顔つきが変わってきているわね」


 教室に集められた一年生の顔を見渡し、学園長である、秋風緑はくすりと笑う。


「今日みんなに集まってもらったのは、新しいイベントの告知よ。題して、『初ダブルス、打倒二年生』といったところかしら」


 緑の言葉に、一年生がざわつく。


「いまから、二週間後、私がお願いした二年生のメンバーと、みんなはダブルスの試合をしてもらいます」


 それを聞いて、ハナはなるほどと思った。


(そうか! だからあのとき先輩は、再戦の舞台がもう用意されてるって言ってたんだ!)


 もう一度、あの二人と、ダブルスの試合ができるかもしれない。


 ハナはどきどきが止まらなくなる。


「そのためにいま、二年生に頼んで、一年生にダブルスのコツを教えるようにお願いしているわ。もしかしたら、もう二年生から声をかけられた子たちもいるかもしれないわね。何人かの顔つきがもう変わっているもの」


 ハナと、隣に座るマロンは、お互いに顔を見合わせ、小さく頷き合う。


「これからの子たちも、二年生から声をかけられたら、成長するチャンスだと思ってよく話を聞いてね? 二週間なんてあっという間よ。みんなが成長した姿を見ることができるように祈っているわ。頑張ってね」


 緑が教室から退出すると、


「えっ!! ハナ、もう二年生の人にダブルス教えてもらったの!?」


「それも、あの白雪アイドルのお二人ですか……羨ましい限りです」


 ハナとマロンが、二年生とすでに接触したことを知り、天使愛歌と星空エミは、それぞれが驚く。


「本当にすごかったよ! みんなも、二年生の先輩が教えてくれるまでに、いろいろ準備しておいた方がいいかも! 私たちは突然だったから、、そこまで準備できなかったし」


「それでも、とっても勉強になったよね~」


 そんなハナとマロンを見て、他の一年生たちも、あらためて頑張ろうというスイッチが入る。


「それでは、私たちもダブルスの練習を頑張りましょうか、エミ」


「……そうだね、愛歌!」


(エミ……?)


 そう答えるエミの表情が、ハナには少しだけ曇ったように見えた。


「よーしっ! じゃあ、さっそく練習しよう!」


「はい、今日もよろしくお願いします、エミ。今日の練習が私たちの成長につながることを、私たち自身に誓います」


 そう話す、エミの表情は、いつも明るいエミに戻っていた。


(気のせい……だったかな?)


 そうハナが考えていると、


「あっルナちゃん! 待って~!」


「何ですの、美甘さん……」


 教室を一人出ていこうとするルナを、メグムが引き止めていた。


「えっへへ。今日は、一緒に練習しない? 新しいイベントも始まったし、ダブルスを練習しようよ!」


「こ、個人個人で技術を高めるのも、ダブルスの練習につながると思いますわ」


「でも、二年生の先輩たちが教えにきてくれるって秋風学園長が言ってたでしょ? それなら、二人で一緒にいた方がいいよ!」


「そ、それは確かにそうかもしれませんが……」


 ルナは俯きながら、顔を赤くする。


「じゃあ、一緒に行こうよ! さあさあ~!」


「ちょ、ちょっと、近いですわ……! そ、それに押さないでください~!」


 メグムはルナの後ろから肩を掴み、張り付くように背中を押していった。


「あっはは! メグは積極的だなぁ! あんなに防戦的なルナ、初めてみたよ!」


「そうですね。もしかすると、なかなか相性が良いのかもしれませんね」


 エミと愛歌は、そんなメグムとルナの姿を見て笑う。


「そっか! 二人は、ギフト組で、ルナちゃんと同じクラスなんだ!」


「そうだよ~! ルナはなんというか、負けず嫌いで、一見ツンツンした、クールなお嬢様の印象があるけど……」


「本当は、恥ずかしがり屋のとても可愛いらしい女の子です。メグムなら、きっと、素直な彼女の気持ちを引き出すことができるでしょう」


「そうなんだね!」


 ハナは、メグムとルナが出ていった教室の扉を目で見る。


(頑張れ……メグ。それに、ルナちゃんも!)


 そして、もちろん、頑張らないといけないのは、自分もだ。


「いよっ~し! マロンちゃん! 私たちもがんばろう!」


「うん! 先輩たちに、成長した姿を見せよう~!」


 先輩たちと試合をして、生まれた課題もたくさんある。


 ハナとマロン。愛歌とエミ。それぞれのダブルスチームも、メグムとルナの後を追うように、教室を出た。

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