たっきゅーと！～アイドル×卓球～

5話 夢咲ハナ・栗野マロンVS白野ねこ・うさぎ！②

　ねこの掛け声で、四人はそれぞれ台に着く。

　サーブはねこから、レシーブを受けるのは先ほどセットとは違い、ハナになる。

(最終セット……何かを掴まなきゃ！)

　ハナは、少しでも多くの技術を二人から盗もうと思った。

　サーブが向かってくる。打ち方から考えて、下回転。

(さっきのセットみたいに、普通にダブルスをしてちゃだめだ。私たち二人の強み……形を探す！)

　ハナは、ツッツキではなく、サーブをカットした。

　天使愛歌とのたっきゅーと！の中で見せた、カットマンのスタイル。

(なるほどね、そうきたか……)

　うさぎはカットされた打球をツッツキして返す。

　マロンはその打球を、粒高ラバーを使ってコースを狙って打つ。

　ねこは上回転になった打球を強打するが、カットマンスタイルで後陣にいるハナに、なんなく拾われてしまう。

　うさぎのツッツキ、マロンの粒高ラバーと、同じように展開が進んでいるように見えるが、

(さっきよりも……回転が増してる！)

　粒高ラバーは、回転が増せば増すほど、その回転を相手に打ち返す。

　ハナがカットした強力な回転が、ラリーの中で失われず繋がっているのだ。

　ねこは打ちづらそうに強打を放つが、先ほどよりも明らかに威力不足。

(きた……！)

　ハナはその打球を見逃さない。前陣に踏み込み、カウンタードライブを打ち抜く。

「ん……！」

　うさぎはその打球を取ることができなかった。

(粒高ラバーを扱う異質型を前陣に置いて、後陣でカットマンが打球を拾う……なかなかトリッーなダブルスね)　

　自分たちのダブルスを見つけようとしている、ハナたちの考えが伝わってくる得点だった。

　試合は続く。ハナは、カットとドライブでレシーバーのうさぎを惑わせる。マロンもまた、粒高ラバーを上手く使い、ねこを惑わせる。

　ハナ・マロン5-5ねこ・うさぎ

　両者は競り合いながら、試合は中盤に入る。

(そろそろ、あの異質攻撃を破ろうかな！　ね、うさぎ！)

(うんうん。面白いダブルスだけど、隙も確かにあるね)

　サーブはハナ。レシーブはうさぎ。

　ハナは出したのは短い下回転サーブ。相手のツッツキから、カットに向かう流れを作ろうと考えていたときだった。

(お見通しだよ。ハナちゃん)

　うさぎは左利きの利点を活かし、台上の近くまで回り込み、台上でドライブを放つ。

「う……！」

　マロンはなんとかドライブを返すが、それはねこの真ん前へ。

(さっきまでより、展開が早い……！)

　ハナは急いでカットの準備をするが……

「いくよ！　ハナちゃん！」

　ねこの早い打球点から打たれたドライブに、準備がしっかりと出来ていなかったハナは反応できない。

「異質型どうしのダブルスは、どうしても展開がスローになるよね！」

「うんうん。だったら、その展開を早くしていけば、どうしても精度、回転は落ちてしまうよね」

　ハナとマロンにとって、苦しい展開が続く。上手くできていた思った形が、上手くいかなくなる。それは精神的にも応えるものだった。

　ハナ・マロン5-9ねこ・うさぎ「

　得点も少しずつ離れていく。その中で、マロンは、少し諦めてしまいそうになる。

(二年生の先輩と、ここまで競り合えた……ダブルスについてもたくさん教えてもらったし、勝てなくても仕方ない、よね)

　そう思って、ハナの顔をちらりと見ると、

「うん？　まだまだこれからだよ！　マロンちゃん！」

　ハナの表情はとても楽しそうで、きらきらしていた。

　マロンは、ハナと二人で話していたときの、自分の言葉を思い出す。

『まだみんなにきらきらしてるところを、見せてあげられてない……。今回だって、ハナちゃんの足を引っ張っちゃうんじゃないかって考えると、怖くて……』

　自分はいま、きらきらしていない。

『ちょっと気持ちが楽になったよ。私も、ハナちゃんと一緒に、きらきらしたい～！　だから、ダブルスパートナー、よろしくね～！』

　ハナと一緒に、きらきらしたい。

(その姿を、地元の人たちに見せたいって、そう思ったんだ)

　マロンは、ハナの耳元に顔を近づけ、先輩たちに聞こえないようにあることを伝える。

「わわ……どうしたのマロンちゃん！」

「…………」

「えっ！　それって……」

「ううん、私はハナちゃんと一緒にきらきらしたい！　私たちだけの形を見つけたい～！」

「うん……！　わかった！」

　ハナとマロンは、あらためて、うさぎとねこと向かい合う。

(何か、面白いのが来そうなきがする！)

　サーブはマロン。レシーブはねこ。

　マロンは、短い横回転サーブを放つ。

(また、展開を早めるよ……！)

　それをねこは難無くドライブをして返す、そして、

(いけ……！　『デビルフェイク』！)

　ハナは、さっきまでとは打って変わって攻勢にでた。

「これは……！」

　ハナの放った無回転ドライブを、うさぎは返すことができなかった。

(ここで、仕掛けてくるのね。でも、ここまでハナちゃんが『デビルフェイク』を使ってこなった理由があるはず。諦めたの？)

　ちらりと、うさぎはハナの表情を伺うが、その顔は笑顔だった。

　ハナは攻勢に出る。フェイントをかけることで、打球の回転を分かりづらくする『デビルフェイク』。回転を自在に操り、ハナはうさぎを苦しめる。

　ハナがここまで、『デビルフェイク』を使って来なかったのには、理由があった。それは、パートナー、マロンにも回転を伝えることができないからだ。

　相手の意表をつく動きは、パートナーをも惑わせてしまう。

　それなのに、

(おお！　マロンちゃんは、ハナちゃんの動きに対応できている！？)

　ねこは驚く。それ以上に、マロンは細やかな気づかいで、ハナが打ちやすいように打球を誘導している。

(それを可能にしているのが、あの粒高ラバーというわけね)

　マロンが仕立て、ハナが決める。

　二人には、まだまだ荒々しいものの、微かに、二人だけの形が生まれつつあった。

(すごい、マロンちゃんが、打ちやすいコースに打球を誘導してくれる！)

(ハナちゃんが、確実に決めてくれる～！)

　二人は、顔を見合わせて笑い合う。

『ハナちゃん！　自由に、楽しく打っていいよ！　私がそれを全部支えるから！』

　マロンは、そうハナに伝えた。

　それが、マロンの考えた、二人できらきらする方法。

　ハナ・マロン9-9ねこ・うさぎ

　ハナたちはついに、うさぎとねこに追いつく。この流れで確実に勝負を決めたかった。

「アイドルボールを！」

「お願いします～！」

　アイドルボールは、得点を決めると、二得点が入るボール。この局面は、一気にお互いにとってのマッチポインに変わる。

「本当に面白いね！　二人とも！　ね、うさぎ！」

「うんうん。でも、まだ負けるわけにはいかないもんね、ねこ」

　二人は、ゆっくりと目を閉じ、そして、開く。

『シングルスを見せてあげよう』

　アイドルボールを握り、サーブを打とうとしたハナは、これまでとは違う、うさぎ、ねこの雰囲気に気づく。

　そして、アイドルボール、マッチポイントであることのプレッシャーがのしかかってくる。

(大丈夫……仕掛けよう！)

　ハナは、短い下回転と見せかけた無回転サーブを出した。どのサーブを出すか事前に聞いていたマロンは、相手の出方を待つ。

(ツッツキで球が浮けば、それを三球目攻撃……相手が攻勢に出れば、ハナちゃんに繋げる打球を……)

　レシーバーであるうさぎは、打球を……ツッツキした。

(……！　チャンスだ！)

　打球は軽く弧を描きながら、台に弾む。

　マロンは回り込み、その打球を強打するが、

「え……！」

　そこにはもう、ねこがブロックの態勢で待っていた。

(反応がはやい……！)

　ハナは返ってきたブロックを、下がりながらカットし、なんとか態勢を立て直そうとする。

　うさぎがカットを長めのツッツキで返す。狙っているのは、

(私のバックハンド……粒高ラバー……！)

　胸元に飛び込んできたツッツキを、マロンは咄嗟にバックハンドで返すが、下回転が逆回転になるのであれば、相手に返る打球は、上回転。

(打ち込まれる……！)

　ハナは後ろに下がり、カットマンの姿勢を取る。

　しかし、強打はこなかった。それを見越したように、ねこの打球は短く、ネット付近に落とした。

　ハナは何とか手を伸ばし、台に乗り上げるようにしながら打球を拾うが、

(マロンちゃんにスペースを空けてあげられない……！)

　うさぎの打球は、やわらかく、ハナの背中の上を転がった。

『私たちの勝ち、だね』

　うさぎとねこは、まるでシンクロしているように、そう口にした。

　言葉だけじゃない。そのプレーまでも、パートナーの考えていることがすべてわかっているかのように動いていた。

　二人で、シングルスをしているかのように。

(これが……先輩たちの本気……！)

　ハナは、身震いした。ダブルスは、ここまで上手になれるのだと。

「ふぅ～楽しかったよ！　ありがとうね、ハナちゃん、マロンちゃん！　ダブルスのコツは、なんとなく掴めたかな？」

「こ、こちらこそ、ありがとうございました！　ダブルスって奥が深いんですね……」

　ハナは、ねこと握手をしながら、そう本音を伝える。

「まだまだこれからでしょ！　私たちも、一年間かかって少しずつダブルスを学んできたんだからね！　ね、うさぎ？」

「うんうん。二人がどれくらい伸びるのか、期待してるよ？」

「あ、ありがとうございます～！　頑張ります……！」

　マロンも、うさぎと握手をしながら、ぺこぺこと頭を下げる。

「う、うさぎ先輩！　ねこ先輩！　また、私たちが強くなったら、ダブルスの試合をしてくれませんか……！」

　ハナは、悔しさと、うずうずを抑えきれずに話す。

「そんなに焦らなくても、再戦の舞台は、もう用意されてるよね、うさぎ」

「うんうん。もうすぐ発表があるんじゃないかな？」

　ハナとマロンは、不思議そうに顔を見合わせる。

「そろそろ行かなくちゃだ！　またね！　二人とも！」

「最後まで試合できなくてごめんね」

　そう言い残し、二人は卓球教室を後にした。

「先輩たち、すごかったね……！」

「うん～！　最後のプレーなんて、本当にシングルスみたいにプレーしてたもんね～」

「すごく楽しかったけど、やっぱり悔しいなぁ」

「うん～私も最初は、先輩たちに教えてもらえるだけで嬉しかったけど……おしかったもんね」

「もっと、がんばらなくちゃだね！」

「うん～！　先輩たちも期待してるって言ってくれたもん～！」

　そのときだった。

　ピロリロリン♪

　ハナとマロンの携帯に、連絡が入る。

「秋風学園長からだ、なんだろう？」

「明日の授業の後に、また一年生みんなで集まるみたいだね～」

　もしかすると、先ほど二人が話していたことに関係があるのかもしれない。

「よーし！　今日の反省会だけしっかりやって、明日に備えよう！　マロンちゃん！」

「うん～！　そうしよう！　ハナちゃん！　汗かいちゃったから、お風呂で話さない～？」

「それ、いいね！　賛成！」

　初めて、二年生と試合を行った二人は、先輩たちの技術の高さを実感した。

　それでも、焦りはない。

　新しいダブルスの技術を学ぶことができた。

　二人は、少しずつだが、確実に、たっきゅーと！のアイドルへの道を進んでいる。