4話 夢咲ハナ・栗野マロンVS白野ねこ・うさぎ!①
ハナとマロンが卓球教室について少し経つと、
「お待たせ~! 五分前行動、偉い~! ね、うさぎ?」
「うんうん。それに、やる気も十分で感じだね、ねこ」
二年生の先輩、白野うさぎ、ねこが現れた。
二人が現れると、卓球教室内も少しざわつき始める。二人は、フラワーギフト学園の中でも、次期レギュラー候補と言われている実力の持ち主だった。
(教室には、他にも二年生の先輩たちもいるのに……やっぱり、この二人は、その中でも特別なんだ……!)
ハナは、ぐっと手に力を入れる。
(試したい……私の実力……)
そんなハナを、マロンは少し心配そうに見つめる?
「ハナちゃん……? 大丈夫?」
「えっ! 大丈夫だよ、マロンちゃん。なんだか少し、落ち着かなくて……」
えへへと照れながら、小さく舌を出すハナは、いつものハナだった。
(私も、頑張らないと~)
マロンも、きゅっとラケットを握る手に力を込める。
「さて、まずは簡単に、ダブルスのルールを確認しよう~!」
ねこの提案で、軽いラリーが行われる。
「卓球のダブルスは、テニスとは違って、二人が交互に打たないといけない。そのために、シングルスとは違って、打った後に、パートナーのために台を開けてあげないといけないの」
うさぎ、ねこ。ハナ、マロン。それぞれ向かい合うように卓球台に着き、球を打ち合う。
「ただ、二人の利き手が違う場合は、回る必要はないんだ! とくに、私たちだと、うさぎが左利きだから……」
「パートナーにスペースを与えやすくなるの。よく、左利きは、ダブルスに有利と言われることがあるけれど、それはこのためね」
ハナとマロンは、どちらも右利き。確かに、台をぐるぐる回るように打つ二人と、味方にスペースを与えながら打つ、二年生コンビでは、身体の動かし方が違っていた。
(なるほど……勉強になる!)
ハナは、目を輝かせて二人の話に耳を傾ける。
「それと、一番気を付けないといけないのは、サーブだよ!」
「うんうん。シングルスだと、相手のコートのどこでバウンドさせてもいいよね。でも、ダブルスだと違うの」
マロンが不思議そうに首を傾げる。
「どう、違うんですか?」
ねこはラリーを止め、ラケットで台を指す。
「ここに、センターラインがあるでしょ? 自分のコートから、必ず、対角線上に打たないといけないんだ!」
「コースが限られている分、いろいろな駆け引きが生まれる。いかに、自分のパートナーに繋がるサービス、打球が打てるか。それが、ダブルスの醍醐味ね」
おおーっと、ハナとマロンが歓声をあげる。
「それじゃあ、身体も温まってきたし、そろそろ試合を始めよう! ね、うさぎ!」
「うんうん。最初に、誰が誰の打球を受けるのかも、大事なポイントになるよ。一セットごとに、向かい合う相手は変わるから、そのことも覚えておいてね。それと……」
うさぎはにやりと笑みを浮かべる。
「もちろん、アイドルボールもあるから、上手に使ってね」
ハナとマロンは、ごくりと息を飲み込む。
『誰が誰の打球を受けるのかも、大事なポイントになる』
つまり、ダブルスでのアイドルボールは、狙う相手も決めることができる。
「ちょっと、怖いね、ハナちゃん。でも……」
「うん! それ以上に、楽しそう!」
ラケット交換を行い、お互いのラバーを確認する。
うさぎ、ねこ。どちらの両面も平らな裏ソフト。
(ラバーの厚みも同じくらい……オールラウンダー、かな?)
じゃんけんの結果。サーブ権は、ハナとマロンから。最初にサーブを行うのは、相談の結果、ハナに決まった。
理由は、ハナが早く打ちたくてうずうずしていたことと、マロンが最初のサーブは緊張するからとハナに譲ったからだ。
「最初のサーブは、ハナちゃんか! じゃあ、私が行こうかな~!」
そう言って、前に出てきたのは、ねこだった。
「前の試合、見たよ~! 練習試合だけど、熱いたっきゅーと!にしようね!」
「……! こちらこそです! ねこ先輩!」
ハナとマロンは、お互いに目を合わせ、先輩に頭を下げる。
「「よろしくお願いします!」」
ハナ・マロン対ねこ・うさぎ、ダブルスのたっきゅーと!が始まった。
☆ ☆ ☆
ハナは、ボールを手に取り、卓球台の下でマロンにだけ見えるようにハンドサインを出す。
(最初は……下回転!)
さっき、二人で簡単に考えたサーブの回転を教えるサイン。
グーが上回転、チョキが下回転、パーが横回転。
ハナはチョキを出し、マロンとアイコンタクトを取る。
ダブルスはシングルスとは違い、三球目をパートナーが打つ。そのパートナーが打ちやすいように回転をコントロールする必要がある。
(よし……いけ!)
ハナは短い下回転サーブを打ち、次に打つマロンにスペースを作る。
ねこはそのサーブを、落ち着いてツッツキをして返す。
(ツッツキが短い……ここは私もツッツキで……)
マロンもツッツキをして返せば、次のうさぎもツッツキをして返す。
台上で、交互にツッツキを打ち合う展開になる。
(先輩たち、的確に短く返してくる……なかなか攻撃に回れない……! それに……)
ハナはツッツキ合う展開の中で、違和感も覚えていた。
(左利きのうさぎ先輩なら、ドライブも打てそうなときがあったのに……)
そのとき、にやりとうさぎが笑ったように見えた。
うさぎのツッツキが、鋭くコースを狙って飛んでくる。
(上手い……! でも、届かないコースじゃない!)
ツッツキは、愛歌への対策で何度も練習した。ハナにはその自信があった。
「……わわっ!」
「……きゃっ」
ところが、ハナが飛び込んだ先にはハナにスペースを開けようと動いていたマロンがいた。
ハナはボールに触れることができず、得点はうさぎ・ねこチームに入った。
「ごめんね! マロンちゃん! 大丈夫だった?」
「うん! 大丈夫だよ~! 私こそごめんね、打つ邪魔をしちゃって……」
ハナは、先ほどの違和感の正体に気づく。
(いまのは偶然じゃなくて……狙ったんだ! 先輩たちが……!)
マロンが動いた方を狙って、次に打つハナに打ちにくいコースを突いた。
「気づいたみたいだね、ハナちゃん! そう、ダブルスは、よりコースを突くことも大事なんだ!」
「うんうん。余裕があるときは、相手、二人ともがどんな位置取りをしているのかも、意識して見ることが大切だよ」
相手二人を見て、次の展開を考える。シングルスにはない、ダブルスだけの技術。
(秋風学園長が言っていたのは、こういうことなんだ……!)
ハナの目が、きらりと輝く。
「ダブルスって、面白いね、マロンちゃん!」
「ハナちゃん……うん。そうだね~!」
とても楽しそうに笑うハナを見て、マロンも何だか笑顔になってしまう。
「さぁ! どんどんいこう! ハナちゃん! マロンちゃん!」
ねこがうずうずと次のサーブを待っている。
(よーし、ツッツキ勝負も楽しいけど、こっちはまだ、マロンちゃんの武器を披露してないんだよね!)
ハナは、グーを出す。つまり、横回転のサーブのサイン。
ハナが放ったサーブは、長く伸び、ハーフラインぎりぎりで弾み、ねこの懐に飛んでいくが、
(打ちごろのサーブだよ!)
ねこは、素早くボールに反応しドライブで打ち返す。
そのドライブに対して、マロンはバックハンドを構える。
(落ち着いて……コースを見て…!)
マロンはバックハンドでドライブを捉え、台から離れようとしていた、ねこの方向を狙う。
(綺麗なブロックにコース……それに、あのラバーは確か……)
うさぎは、飛んできた打球をドライブで返そうとするが、ドライブはネットを超えることができなかった。
「やった! マロンちゃん!」
「うん~! ありがとう~!」
二人は得点をあげ、軽いハイタッチを交わす。
「マロンちゃん、なかなか上手に、粒高ラバーを使うね、ねこ」
粒高ラバーは、通常の裏ソフトとは違い、粒上のイボイボがラバーに敷き詰められている。
その粒でボールが滑ることから、上回転なら下回転、右回転なら左回転、というように逆回転になって相手にボールが返球される。
ねこが放った上回転のドライブが、下回転となって返球されたというわけだ。
「それだけじゃなくて、ハナちゃんもわざと私にドライブを打たせるために、長い打ちやすいサーブを出してきた! 私が次の動きがしにくい、ミドルにね……! ふふん! ちょっと燃えてきたよ! うさぎ!」
うさぎとねこの可愛らしい表情の瞳の奥に、獣の飢えた眼光が、微かに光輝いた。
試合は続いていく。一瞬、ダブルスに確かに手ごたえを掴んだハナとマロンであったが、試合が続けば続くほど、先輩二人との、ダブルスの経験値の差を感じた。
ハナ・マロン4-11ねこ・うさぎ
相手のセットポイントで、苦し紛れに使用したアイドルボールも得ることができず、一セット目は厳しい結果になった。
「ふぅ……やっぱり、強いね……! 先輩たち!」
「そうだね……動き方に、無駄がないよ……」
ハナとマロンは、タオルで汗を拭いながら、次のセットに向けた作戦会議を始める。
「次はどう攻めよう……? 私的には、マロンちゃんの粒高ラバーを活かした攻撃がした……」
ハナが話している途中だった。
「ええっ! いまからですか~そんな~!」
ねこの大きな声が聞こえてくる。
「? なんだろうね……?」
マロンは不思議そうにねこを見る。どうやら、電話で誰かと話しているみたいだった。
「あと少しだけ待ってください……! いま、いいところなんです! 実は……!」
電話が終わったのか、うさぎとねこが、申し訳なさそうな顔をしてやってくる。
「ごめん! ハナちゃん、マロンちゃん! あと一セットしかやってあげられない!」
「ごめんなさい。急なお仕事の打ち合わせが入っちゃって……」
先ほどの電話はお仕事関係のお話のようであった。二人はアイドルなのだ。忙しくても仕方なかった。
「い、いえ……残念ですけど、お仕事なら仕方ないです!」
ハナは内心、がっくりとしていたが、わざわざ自分たちにダブルスを教えるために時間を割いてくれているのだ。わがままは言えなかった。むしろ、感謝しなければいけない。
「ありがとう、じゃあ、残り一セットで、二人に掴んでほしいことを先に言うね? それは、二人だけのダブルスを探すことかな!」
「うんうん。強いものどうしが組んだダブルスを、無名の二人が倒すこともある。それを可能にするのが、自分たちだけの形を見つけること」
「自分たちの形……」
ハナは、シングルスの際の自分のスタイルを思い返す。ダブルスでも、二人だけの戦い方が見つけられたら、きっといまよりももっと楽しくなるだろう。
「ちなみに、私たちのスタイルは、参考にしない方がいいかな!」
「うんうん。私たちは、ダブルスの中で、『シングルス』をしているからね」
ハナとマロンは、二人の言っていることがわからず、目をぱちくりとさせる。
「さぁ! 泣いても笑っても、最終セットを始めよう!」
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