3話 ハナとマロン!

「ダブルス、かぁ……」


 フラワーギフト学園の中庭のベンチに、栗野マロンは一人腰かけている。


 先日、秋風緑学園長からダブルスの技術を身につけるために、それぞれの生徒にパートナーが決められた。


 マロンのパートナーは同じフラワー組の夢咲ハナだった。


(ハナちゃんと一緒にダブルスができることは嬉しい……でも、自信、ないな)


 一年生初めてのたっきゅーと!のイベントでは、自分よりも卓球歴が短い、星空エミに敗れてしまった。


 それとは違い、ハナは、イベントの最終戦で天使歌羽の妹でもある天使愛歌を倒すなど、目まぐるしい活躍を見せていた。


(足手まといになっちゃわないかな……)


 フラワーギフト学園に入学して、もう一か月以上が過ぎている。地元のみんなに連絡を入れたときは、『次頑張れば大丈夫!』と、マロンを温かく励ましてくれていた。


(町のみんなは、そう言ってくれたけど、まだ、期待に応えられてない……)


 地元の温かさに触れてしまったからだろうか、マロンのホームシックに多少拍車がかかっていた。


 そこへ、


「あっ! マロンちゃんいた!」


「……! ハナちゃん!」


 マロンを見つけ、笑顔でやってきたのは、夢咲ハナだった。


「こんなところでどうしたの? ちょっと暗い顔してたような……」


 ハナは、マロンの横に座り、心配そうに顔を覗き込む。


「な、何でもないよ~、ちょっと地元のことを思い出しちゃってただけだから……」


「地元のこと……確か、マロンちゃんは遠くからフラワーギフト学園に入学したんだよね?」


「そうだよ~ここからだとけっこう遠いかな~あ、ハナちゃんリボンが……」


「わわっ。ありがとうマロンちゃん!」


 マロンは、少しずれていたハナのリボンを結び直す。


「マロンちゃんは相変わらず、気づかいのができる子だね!」


「そう……かな~」


 友達を、これからのダブルスパートナーを心配させてはいけない。マロンはそう思った。


「……そうだ! マロンちゃん! せっかくダブルスパートナーになったんだから、お互いのことをもっと知り合わない? そういえば、こうやって二人っきりでじっくり話したこと、あんまりなかったよね?」


「そういえば、そうかも……!」


 思い返すと、ハナと話しているときには、周りの同じフラワー組がいることが多かったかもしれない。


「私の好きな食べ物はね……ショートケーキにパフェ……甘くてかわいいものが好きなんだ! マロンちゃんは?」


「えと~、私は……栗きんとん、かな。地元で、すごくおいしい栗きんとんを作ってるの」


「本当! すごい! 食べてみたい~!」


「よかったら、今度、帰省したときに、お土産に持ってこようか……?」


「えっ! いいの!? やったー!」


 心から嬉しそうに笑うハナを見て、マロンも胸が温かくなる。


 二人はたくさんお互いのことを話し合った。好きなお洋服、好きな授業、苦手なこと……。


 どれだけ話しても二人の会話は尽きなかった。


「そっか、マロンちゃんは地元の人に支えられてフラワーギフト学園に入学したんだね!」


「そうなんだ……でも、まだみんなにきらきらしてるところを、見せてあげられてない……。今回だって、ハナちゃんの足を引っ張っちゃうんじゃないかって考えると、怖くて……」


 マロンは、言葉に出してから、自分に驚く。


(どうしてだろう。さっきまで、心配かけちゃいけないって、そう思っていたのに)


 ハナはマロンの方に触れ、笑顔を向ける。


「そんなことないと思う! エミとマロンちゃんのたっきゅーと!、すごかったし……! 地元の人も、きっとマロンちゃんの頑張ってるきらきらしてるところ、見てくれてたと思う……!」


「ハナちゃん……」


「あっ……ごめんね、勝手に私の思ってること言って……。でも、怖いのは、私も一緒だよマロンちゃん。私もダブルスってあんまり経験ないから、ミスしたらこうしようとか、考えちゃうかも……でもね!」


 ハナはマロンの両手を取る。


「お互いにそうやって、ミスしたりとか、励まし合ったりとかして、お互いに、足りないところを補い合うの! それが、仲間一緒に成長していくことだと思うんだ! これは、秋風学園長に教えてもらったことなんだけどね……えへへ」


 ハナは少し恥ずかしくなり、赤くなった顔を両手で隠す。


「わぁ~なんか恥ずかしい……!」


「恥ずかしくなんてないよ~ハナちゃん……!」


 今度は、マロンが、ハナの両手を取る。


「ありがとう~。ちょっと気持ちが楽になったよ。私も、ハナちゃんと一緒に、きらきらしたい~! だから、ダブルスパートナー、よろしくね~!」


「マロンちゃん……! うん! もちろんだよ!」


 二人はお互いに笑い合う。


(そっか、ハナちゃんだから、仲間だから、自分の弱いところも見せられるんだ)


 それが信頼。マロンは、自分も強くなって、ハナみたいに、仲間を支えたいと思った。


(町のみんなに、仲間ときらきらしている姿を見せるんだ……!)


 そのときだった。


「ダブルスパートナーとしての、第一段階は、自分たちで乗り越えてたみたいだね、うさぎ!」


「うんうん、でも第二段階については、私たちの出番だね、ねこ」


 ハナとマロンが声がした方を振り返ると、そこには二人の少女が立っていた。


「夢咲ハナちゃん、栗野マロンちゃん~!」


「私たちと、ダブルスの試合をしましょう?」


 唐突な出来事に、ハナとマロンは目をぱちくりさせる。


「……! 二年生の、白野うさぎ先輩! ねこ先輩!」


 マロンは、その姿をあらためて見て、二人のことを思い出す!


「あっそういえば、雑誌で見たことある! 確か、双子の白雪アイドル……!」


 ハナも、名前を聞いて、二人のことを思い出す。


 長い髪を、右側でやさしく結んでいるのは、白野うさぎ。雪ウサギの髪留めが可愛らしく、上品な雰囲気がある。


 長い髪を、左側で元気に結んでいるのは、白野ねこ。白猫の髪留めがやんちゃそうに顔をのぞかせる、明るい雰囲気。


「でも、どうして、二年生の先輩である、お二人がここに……?」


 マロンは不思議そうに首を傾げる。


「それに、ダブルスの試合をしようって……」


 ハナは、二人の言葉を思い出す。そこで、ピンっとくる。


「あっまさか……」


 うさぎとねこは、口元に笑みを浮かべる。


「察しがいいね、ハナちゃん! それなら、さっそく卓球教室に行こう~!」


「待ってねこ、二人はまだ、卓球の用意ができてないでしょ。慌てないの。一時間後に、卓球教室にきてくれる? 準備万全でね?」


 ハナとマロンは、お互いに顔を見合わせ、


「「はいっ! よろしくお願いします!」」


 元気に返事をする。その様子を見て、うさぎとねこは笑う。


「元気がよくて、いいね! 二人とも!」


「うんうん。じゃあ、また後でね」


 二人が中庭を後にして、ハナとマロンは、大きく深呼吸する。


「ふぅ~やっぱり、先輩ってオーラがあるよね!」


「ハナちゃんも? 私もそう感じた~!」


 これがフラワーギフト学園の二年生の先輩。


(そんな人たちと、試合ができる……!)


 ハナは、うずうずと、気持ちが高揚していくのを感じた。


「だ、ダブルスの試合って、どうしてだろう~。はっ、私たち、何かしちゃったのかな……!」


 一人で慌てだすマロン。


「マ、マロンちゃん!? 違うと思うよ、きっとダブルスを教えてくれるんだよ!」


「え……あっ! そういうことか~びっくりした~」


 マロンは、落ち着き、大きなため息をつく。


「さっき、一緒に、はいっお願いします! って言ったから、ってっきりわかってるんだと思ってたよ……!」


「あはは、あれは成り行きで言っちゃった~」


 恥ずかしそうに笑うマロン。ハナはそんなマロンを見て、微笑ましくなる。


「なんというか、マロンちゃんはときどき天然さんだよね?」


「違うよ~ちょっと急に先輩たちがきたから、びっくりしただけだよ~!」


 栗野マロンは、些細な気づかいが出来て、たまに天然なところもある、心やさしい女の子だ。


「そうだ! 準備ができたら、先輩たちのところに行く前に、お互いの線型や特徴についても話そう!」


「そっか、そうだね……! お互いのサービスとかの確認もしなきゃだ~」


 せっかく先輩たちと試合ができるのだ。その貴重な機会をグダグダでは終わらせたくない。


(しっかりと、私たちのダブルスのプラスにしなくちゃ……それに……)


 ハナは身体が武者震いするのを感じた。


(二年生の先輩と試合ができる……楽しみ……!)


 この感情は、天使歌羽や天使愛歌と試合をする直前と少し似ている。


 おそらく、自分よりも強い相手に挑むときの高揚感。


「よーしっ! マロンちゃん! 一緒に頑張ろう~!」


「うん! ハナちゃん! えいえいお~!」


 二人は元気よく、中庭を駆け出して行く。

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