4話 夢咲ハナVS天使愛歌!!①

『さぁいよいよ、今日のイベントもおおずめです! 現在、フラワー組が4勝。ギフト組が5勝という結果になっています! フラワー組は引き分けに持ち込むことができるのでしょうか! それとも、ここでギフト組が勝利を決めるか! 結末は、最後の試合へと託されました! それでは、最後の試合を行うアイドルに、登場して頂きましょう!』


 セイラの進行に大歓声が起こる。


『フラワー組、夢咲ハナ!』


 スクリーンにハナが映し出される。そして、上手からハナが現れる。ゆっくりと歩き、競技場中央に設置されている卓球台を目指す。


(すごい人……! ここで、試合をするんだ!)


 ハナは観客の姿を見て、とても驚く。そして、笑顔で手を振る。


(少し緊張するけど、楽しまないと損だよね。こんな経験、めったにできないよ)


 家族も、どこかできっと見てくれているはず。楽しむことが自分の持ち味であることを、歌羽やメグムに教えてもらった。もう、その気持ちを失わない。


『ギフト組、天使愛歌!』


 そうセイラの進行が響くと、会場のボルテージが一層上がる。天使歌羽の妹であることを、知っているファンが多いのかもしれない。


 そんなことを、微塵も気にしてないかのように、ステージに現れた愛歌は、観客にふんわりと笑いかけながら卓球台へと向かう。


 そして、ハナと愛歌は向かい合う。


『それでは、最後のたっきゅーと!を始めます!』


 ラケット交換。軽い練習を済ませ、試合が始まる。


 観客席が徐々に静まりかえる。視線は、ハナと愛歌に集まる。最初のサーブは、愛歌から。


 愛歌がピンポン球を宙にあげる。放ったサーブは下回転サーブ。そのサーブを、冷静にハナはツッツキで返す。そこから、ツッツキの応酬が始まる。


 お互い、相手の出方を伺いながらツッツキを続けるが、


(ハナ、打ってきませんね)


 愛歌はときより、ハナの攻撃を誘うようにツッツキを返すが、ハナは攻撃を仕掛けてこない。


(ツッツキ勝負ということですか。面白いです)


 ハナはカットマンの愛歌にツッツキで勝負を挑んだ。


 前回の試合では、ハナはツッツキの安定感で、愛歌に勝ことはできなかった。カットマンは相手のミスを誘うプレイスタイルが基本。安定感は抜群である。


 しかし、あえてハナは最初のプレーで勝負を挑んだ。それは自信があったからだ。


(どれだけリンリン先生の多球練習をしたかわからないよ、負ける気が、しない!)


 卓球の教室で受けたリンリンの講義。次の打球に対する反応と、戻りの技術が鍛えられた。愛歌よりも、練習をした自信もある。


 徐々に二人のツッツキのピッチが速くなる。コースもきわどくなる。


 そして、ボールがネットにかかる。先にミスをしたのは、愛歌だった。


『なんてレベルの高いツッツキの打ち合いでしょうか! それを制したのは夢咲ハナ!』


 激しい攻防に、観客の声援が大きくなる。


(よし、この一点は大きい……!)


 そうハナは思った。相手よりも安定感があることも見せつけ、出鼻をくじく。


 そして、試合は続く。次の得点から、ハナは攻撃に出た。


 ハナは、リンリンとの夜に行われた練習を思い出す。リンリンに指示をされ、カットマンの基礎を一日で叩き込まれた。その結果、ハナが得たのは、


(カットマンの、打たれて嫌なところ、苦手な場所が想像できる!)


 以前でも、誰もが知っているような、カットマン対策は心得ていた。しかし、いまはそれ以上に、カットマンの気持ちがわかる。


 ハナは、左利きの愛歌がカットマンをしづらい、フォアで打つか、バックで打つのかを迷う場所に、的確にドライブを打ち込む。


「く……!」


 愛歌は、やりにくそうに、少し顔をゆがめる。万全なカットをさせてもらえず、得意の攻撃にも転じることができない。


 ハナのペースで試合が進んでいく。そして、9-7で、ハナがリードしている状態で、


「アイドルボールをお願いします!」


 ハナが、アイドルボールを宣告する。


『ここできました! この試合初のアイドルボール、宣告者は夢咲ハナ! どちらがこの得点を取るのか、注目です!』


 ボールが、ショッキングピンクをした、アイドルボールに代えられる。


 サーブは愛歌。その手に、アイドルボールの重みがのしかかる。


 この流れのまま、1セット目を取りたいと、ハナは思った。


 そして、愛歌がサーブを放つ。そのサーブは先ほどまで、愛歌が打っていたサーブとは違う、前回の試合でも、練習のときでも、ハナが見たことがないサーブだった。


 愛歌のバックハンドから打ち出された高速サーブ。サーブの直前に回転がかかるよう、粒高ラバーではなく、通常の裏ソフトラバーで打ち出された。


 ハナは一瞬反応が遅れるが、持ち前の反射神経でボールを捉える。愛歌のフォームから回転が読み取ることができなかった以上、ツッツキで回転を調べようと思った。


 しかし、ハナのラケットに当たった打球は、大きく相手の台とは違う方向へ飛んでいってしまった。


『ここで、アイドルボールを制したのは、天使愛歌! 素晴らしいサーブでした!』


 ハナは、いまのサーブをもう一度思い返す。


(いまの飛び方は、横回転サーブ。でも、あんなの見たことないよ!)


 そして、リンリンが言っていたことを思い出す。愛歌も、リンリンの特別講義を受けている。きっとそこで学んだのがサーブなんだとハナは思った。


「まだまだ、ここからですよ、ハナ」


 そう、愛歌は笑う。


(やっぱり、愛歌は強い……! でも……)


 楽しい。ハナはそう思った。


 愛歌のサーブの2本目、ハナは、さっきのサーブがくると思った。しかし、愛歌が出したのは、いままで通りのサーブだった。


(ここで流れを持っていかせたら、ダメだ……!)


 ハナは、ここが勝負と言わんばかりに、全力でドライブを放つ。そして、デュースにはなるものの、12-10で1セット目を奪った。


『愛歌選手のサーブに苦しめられ、アイドルボールでの得点を奪われたものの、1セット目をキープしたのは、夢咲ハナ! 第2セット以降も注目です!』


 ハナと愛歌は、汗を拭い、水分補給をする。


(サーブで流れを変え、そのままいけるかと思いましたが、甘くないですねハナ。それでも、ハナのペースは乱すことができました。これからですね)


 愛歌は、冷静に状況を分析する。


(あのサーブ、アイドルボールのときにしか使ってこなかった。きっと、アイドルボールを確実に取るための必殺技にしたいんだ)


 ハナは、愛歌が用意していた、サーブをどう対処するのかを考える。


(対処方法は二つだ。アイドルボールを、自分がサーブ権をもっているときに宣言するか、真向勝負で打ち破るか……!)


 ハナと愛歌が卓球台に着き、2セット目が始まる。


 ハナは、1セット目と同様に、愛歌のカットしにくいコースを狙い打ちする。しかし、1セット目よりも、打球が決まらなくなる。


(狙われている場所は、もうわかっています。私自身が苦手なコースは、自分が一番知っていますから)


 愛歌は、羽の生えたようなフットワークで、動き、柔らかいボールタッチで、ボールを捉える。


(わかっていれば、ボールは拾えます。それに、苦手なら、いまここで克服すればいいだけです)


 試合の中で、愛歌の動きがどんどんよくなっていった。先ほどまで苦手にしていたコースのボールを落ち着いて拾う。


 少しずつ、愛歌が攻勢に回り出す。


(もう通じなくなっちゃった? 愛歌、試合の中で、強くなってる……!)


 ハナは、愛歌のカットの動きを一つ一つ観察する。さっきよりも、キレがいい。


 2セット目は愛歌が優勢に進める。そして、9-5とリードした時点で、


「アイドルボールをお願いします」


 愛歌がアイドルボールを宣告する。


『さぁ、2セット目のアイドルボールの宣告者は天使歌羽! またあの必殺サーブが出るのか!』


 ハナは、間違いなく、あのサーブがくると確信した。さっきは横回転だった。次はそうだと思って対処するつもりだ。


 愛歌がアイドルボールを握る。そして、また高速バックサーブを放つ。


(……! やっぱり、手元から回転がわからない!)


 ハナは、確実に回転を判断するのは不可能だと感じ、横回転として迎え撃とうとする。


 素早く打球に回り込み、フォアハンドドライブを試みる。横回転であれば、打ち返せるはずだった。


 ハナが打った打球は、ネットに当たり、ハナのコートに転がった。


 打球が持ち上がらない、下回転だった。


『またもアイドルボールを制し、2セット目を奪ったのは、天使愛歌! これで同点に追いつきました』


 横回転と下回転を出すことができるサーブ。そして、愛歌のフォームからは、回転を判断できない。まるで、歌羽の『デビルフェイク』だとハナは感じた。


 あのサーブをどう対処するかで、勝敗が決まってしまう。ハナは考えた。


(確かに、アイドルボールのときにあのサーブを打たせなくすることはできる。でも、もし、試合の終盤で、連続で使われたりしたら……。やっぱり、あのサーブを破るしかない!)

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