3話 イベント当日!
ゴールデンウイークの最終日。
フラワーギフト学園には、長蛇の列ができていた。今日、体育館で行われる、『新一年生、初たっきゅーと!』を見にきた観客たちだ。
ハナたち新一年生は、その様子を見て、イベント当日であることを実感する。そして、フラワーギフト学園の。たっきゅーと!の人気も。
今日のイベントの段取りを改めて確認した一年生たちは、体育館の控え室に移動する。そして、そこであるものを受け取る。
「これが、フラワーギフト学園のユニフォーム……!」
淡い花色のユニフォームには、フラワーギフト学園の紋章が刻まれている。頭文字であるFGを崩した、可愛らしいデザインだ。
まだ専用ユニフォームドレスを持たない一年生は、これから、このユニフォームを着て、活動するようになる。
ハナはすぐにこのユニフォームが好きになった。
控え室に置かれたモニターから、会場の様子が確認できる。体育館の二階席、そしてこの日のために整備された一階席も、観客であふれている。場内は満員だった。
(ママたち、見えるかな……?)
ハナはモニター越しに家族を探すが、さすがに見つけることはできなかった。
今日は、一年生にとって保護者にも練習の成果を見せる場でもあり、それぞれに招待券が渡されていた。ハナはそれを家族に渡し、母親、父親、妹、全員が見にきてくれている。
ハナ以外の一年生も、それぞれが緊張していたり、そわそわしていたりした。
今日が、全員にとってたっきゅーと!の初披露。ネット中継もされている。
「ハナ、緊張する?」
話をかけてきたのはメグムだった。ユニフォームがよく似合っている。
「ううん。楽しみで、仕方ない!」
「えっへへ。ハナらしいね。私もだよ」
すると、控え室まで聞こえるような歓声が聞こえる。イベントが、始まった。
『皆さん、今日はフラワーギフト学園、新一年生の初たっきゅーと!にお越しいただき、ありがとうございます! ご存知の人も、初めましての人も、よろしくお願いします! 私は今日のイベントの司会、進行を務めさせて頂く、セイラです!』
ステージに現れたのはセイラだった。観客から黄色い声援がとぶ。
『今日のイベントの主役は、フラワーギフト学園への入学資格を勝ち取った、新一年生たち! フラワーギフト学園を卒業していった方たちも、みんな最初はこの舞台でステージに立ちました。私たちが今日見ることができるのは、新たなアイドルたちの伝説の始まりかもしれません! それでは、熱いたっきゅーと!を始めていきましょう!』
セイラの進行にそって、試合が始められていく。
エミの試合は三番目。メグムの試合は九番目。ハナと愛歌の試合は、オオトリの十番目だった。
フラワー組対ギフト組のたっきゅーと!が開幕する。
ハナたちはモニター越しに試合を観戦し、それぞれの組、仲間を応援する。
一年生たちの初々しい卓球のプレー、そして、ウィナーライブに、観客は声援と、温かい拍手で応えてくれる。
試合を終え、控え室に戻ってくる仲間を、ハナたちは順番に労う。
そして、三戦目はエミの試合だった。
対戦相手は、フラワー組の栗野マロン。天然でおっとりとした、心優しい女の子だ。二人の実力は拮抗していた。
(エミのことも応援したい、でも、マロンちゃんは同じクラスだし……)
ハナはどちらを応援すればいいのか迷った。それならば、
「二人とも~頑張れ~!」
両方を応援することにした。ここまで頑張ってきたのは、みんな同じなのだ。
試合は最終セットでエミが抜け出す。自主練習したサーブがマロンに効き始めたのだ。
そして、試合は3-2のフルセットで、エミが勝利した。
エミのウィナーライブは、ダンスがすごかった。既存の振付に、自分でアレンジを加えていく。観客から手拍子も自然と起こり、誰もが元気になれるライブだった。
「お疲れ様、マロンちゃん、エミ!」
帰ってきた二人は、みんなから労われながら、次に戦う仲間にハイタッチをする。仲間の思いは、受け継がれていく。
イベントはどんどん進んでいく。フラワー組が3勝。ギフト組が5勝で9戦目を迎える。
メグムが負けたら、その時点でフラワー組の負けが決まる。
「メグ! 頑張ってね! いつも通りだよ!」
「えっへへ。ありがとうハナ。行ってくるね」
ハナはメグムの背中に優しく触れ、メグムを送り出す。
メグムの対戦相手は、ギフト組の月星ルナ。
ハナは、ルナのことをなんとなく知っていた。卓球教室でも何度か一緒になったことがある、とてもクールでお嬢様な女の子。卓球の腕前もなかなかのものだった。
試合の序盤は、ルナが主導権を握る。鋭い打球で、メグムのコースを冷静に、細かく突いていく。
二人とも、冷静に試合を展開する、静かな試合だった。
メグムは1、2セット目を立て続けに失い、追い込まれる。ハナは、少し心配になってしまうが、モニター越しに映った、メグムの表情は、焦ってはいなかった。
(うん! メグなら大丈夫だ……! ここから、巻き返せる!)
ハナの予想通り、メグムは表ソフトの角度打ち、『オレンジスプラッシュ』を中心に、ルナを攻めだす。勝利を意識し始めたルナの緊張を、メグムは見逃さない。一気にたたみかける。
3、4セット目をメグムが奪い返し、先に冷静さを失ってしまったのは、ルナの方だった。
追いつかれてしまった動揺が、少しだけ打球への反応を遅くする。
最後のポイントとなったアイドルボールを、メグムは『オレンジスプラッシュ』で打ち抜いた。
試合に勝利したのは、最後まで冷静さを失わなかったメグムだった。
(すごい…! まるで、茉子さんとの試合を逆転で勝った、歌羽さんみたい!)
メグムは憧れの人に、少しずつ、でも確かに近づいていた。
ウィナーライブが始まる。
メグムの優しい歌声は、会場全体によく響き、観客の心を掴んだ。数か月前の受験のときに、このステージで歌った歌より、比べものにならないくらい上手になっていた。
ずっと聞いていたい歌声だとハナは思った。そして、親友の輝いている姿を、その目にしっかりと焼き付けた。
メグムが控え室に戻ってくる。
「お疲れ様メグ! すごくかっこよかったよ!」
「ありがとうハナ。次は、ハナの番だよ。ここで見てるからね」
メグムは手の平をハナに向ける。ハナはその手の平にハイタッチする。
メグムの思いが、ハナに伝わる。ハナはメグムの思いを、受け取る。
控え室を出て、愛歌と一緒にステージへと向かう。
上手と下手への分かれ道に着く。
「愛歌、最高のたっきゅーと!にしようね!」
ハナがそう笑いかけると、愛歌もふんわりと笑ってくれた。
「もちろんです。これは、素晴らしい仲間たち、そして、応援してくれる全ての方に誓います」
二人は、光が差す道を進む。歓声がどんどん大きく聞こえてくる。
今日のイベント、最後のたっきゅーと!が、始まる。
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