第四章 新入生! 初めてのたっきゅーと!
1話 セルフプロデュース!
「もっと、戻りを早くアル! 一球一球、流して打たないネ!」
「は、はい!」
リンリンが打ち出す、レギュラークラスに匹敵するレベルの多球練習に、ハナは必死でついていく。
「よし、ここまでネ! もちろんまだまだだけど、前よりは反応できるようになってきてるネ」
「はぁはぁ、ありがとうございます!」
先日発表された、ゴールデンウイークに行われる一年生によるたっきゅーと!。ハナの対戦相手は、天使愛歌だった。
愛歌とは、フラワーギフト学園の受験のときにも試合をしたことがある。結果、ハナは一セットも奪うことができず、敗れた。
その愛歌に勝つためには、卓球教室で、集中的に練習を行うしかないと、ハナは思った。
けれど、
(この数日間、ずっと卓球教室にきてるけど、愛歌とはあんまり会わないな……)
愛歌はいままで通り、三つの教室を順番に回っているみたいだった。
(ううん、私にはそんな余裕はないもん! 練習あるのみ!)
リンリンの講義は厳しいけれど、とっても楽しかった。
(やっぱり、ボールを打つのは気持ちいいなぁ。ずっと打っていたいくらい……)
そのとき、ハナは、あることを忘れていることに気づいていなかった。
☆ ☆ ☆
レッスンが終わると、ハナはメグムと合流して、食堂で夜ご飯を食べた。
「ハナ、最近、卓球教室にたくさん行ってるよね? 調子はどう?」
メグムはオレンジジュースを飲み終わり、そうハナにきく。
「相変わらず、リンリン先生は厳しいよ。でも、楽しいし、愛歌に勝つためには頑張らないとなんだ!」
そう言ってハナは腕を曲げ、力こぶを作る。
「確かに、愛歌に勝つのは、なかなか大変だよね。あ、そうだハナ」
メグムはなにか思いついたようだ。
「ハナ、ウィナーライブの練習はちゃんとしてる?」
「え、ウィナーライブの練習……?」
ハナはどきっとした。すっかり忘れていた、たっきゅーと!は試合に勝ったあとに、ウィナーライブをしなくちゃいけないんだ。
「全然してない……! 忘れてた! どうしよう!」
「えっへへ。もう、ハナは相変わらずだなぁ」
メグムは慌てているハナを見て笑う。
「メグは、やってるの? ウィナーライブの練習」
「私は、歌とダンスの教室を中心に行ってるから、そこで練習をしてるよ」
「そうなんだ! じゃあ、私も、歌とダンスの教室に行くようにしようかな……」
ウィナーライブで歌う曲は、フラワーギフト学園の課題曲でもあった『フラワーギフト』。それでも、あのときよりも、明らかに練習していない。上手になっているどころか、下手になっている可能性すらあった。
「あれ、でもそうすると、卓球教室に行けなくなっちゃう! そしたら、愛歌に勝てるかな……?」
ウィナーライブは卓球の試合に勝つことで初めて行うことができる。それならば、やはり、卓球教室を中心に行う方がいいのだろうか。
「セルフプロデュースの難しいところだね」
メグムもハナと一緒になって考えてくれる。
「そうだ! レッスンが終わって、夜ご飯を食べた後に、一緒にウィナーライブの練習をしない? そうすれば、ハナは卓球教室にもいけるでしょ?」
「ええっ! いいのメグ?」
メグムの提案にハナは驚く。
「えっへへ。大丈夫だよ。受験のときに、一緒に猛練習をしたのが懐かしいね」
「でも、そうしたら、メグの練習時間が減っちゃわない……? 今日もこれから、椿先生の臨時教室に行くんでしょ?」
「もう、ハナ。甘えられるときには、甘えるの! 臨時教室は毎日あるわけじゃないし、もちろん、自分の技術も磨きたいけど、ハナが愛歌に勝って、ウィナーライブをするところも、同じくらいみたいんだ」
メグムは立ち上がり、ハナの耳元でささやく。
「たっきゅーと!のアイドル、夢咲ハナのファン1号は私なんだからね?」
ハナは、顔が熱くなるのを感じた。
「えっへへ。ハナ、顔が真っ赤だよ? じゃあ、私は臨時教室に行ってくるね?」
そう言うと、メグムは先に行ってしまった。
「もう、メグ……。不意打ちはずるいよ……」
ハナは火照った顔を冷ますように、牛乳を一杯一気飲みした。
☆ ☆ ☆
ハナがいつもの中庭に出ると、今日も星空が綺麗だった。
この場所にくると、茉子と話したあの夜が思い出される。
『これから先のイベントで、嫌でも悩まないといけないことが出てくると思います。ハナちゃんは、私にも似ていますから特に……』
本当に、茉子の言った通りになったとハナは思った。
『一つだけ、アドバイスです。迷ったら、一人で抱えこまないでください。周りにはきっと仲間がいます』
いま、悩んでいるハナを、メグムが助けようとしてくれている。
(でも、本当にそれでいいのかな……)
メグムが、ウィナーライブの練習を手伝ってくれる。それは本当に嬉しい。でも、それは、メグムの優しさに甘えているだけではないのだろうか。
メグムも、ハナと同じで、自分の練習をしなくちゃいけないはずだ。特に、メグムは歌とダンスを中心に教室を回っているから、卓球の自主練習も必要になるはず。ハナのウィナーライブの練習に付き合っていたら、メグムはその練習ができない。
「私だって、メグのウィナーライブがみたいよ」
どうすればいいんだろう。ハナは考えこんでしまう。
「う~ん、茉子さんに一人で考え込むなって言われたのに、メグムが助けてくれようとしてくれてるのに~」
ハナは、そこで、ふと思う。
「茉子さん、私が、茉子さんに似てるって言ってたなぁ。茉子さんも、こんなふうに悩んだのかな?」
そう考えると、茉子がどのように、悩みを解決したのか、気になった。
「茉子さんに直接聞いたら、教えてくれるかな? でも、お仕事で、忙しいかな?」
そんなふうに考えていると、
「私が教えてあげましょうか? 茉子について」
声がした方をハナが見ると、そこにいたのは、
「秋風学園長! ど、どうしてここに?」
「この中庭は、学園長室から良く見えるのよ? それに、歌羽も、茉子もよくそのベンチに座っていたわ」
「え、歌羽さんと、茉子さんも、このベンチに……?」
ハナは、自分が座っているベンチを撫でる。
「あなたも、何か悩んでいるんでしょ? 良かったら、聞かせてくれないかな?」
秋風学園長はハナの横に腰を下ろす。ハナは緊張しながら、秋風学園長に、いまの自分の悩みを話す。
愛歌に勝つために、卓球の練習を頑張りたいこと。それでも、ウィナーライブも成功させたい。メグムに甘えていいのだろかということ。
秋風学園長は、何も言わず、黙って話を聞いてくれた。そして、全て聞き終わると、大きな声で笑った。
「え、何か、変なことを言いましたか、私!」
「ううん、ごめんね。あまりにも、茉子にそっくりだから……」
「茉子さんに、そっくり……?」
ハナは首を傾げる。
「あの子も、この時期、同じ悩みを持ってたの。二年生でエースになって、いまでさえ生徒会長をしている茉子だけど、一年生のときは、あなたと、なんら変わらないのよ」
「茉子さんが、私と、同じ?」
「あの子は、入学当初から、卓球の技術だけは、飛びぬけていた。そして、一年生にして、三年生のエースである歌羽を倒そうと、ずっと卓球教室に行っていたわ。でもね、同学年には、自分よりもウィナーライブが得意な子がたくさんいて、迷ってたの。自分も、歌や、ダンスの教室に行った方がいいのかとか、上ばかりみて、周りの仲間のことを見ていなかった、とかね」
茉子にも、ハナと同じような悩みがあった。
「それで、茉子さんは、どうしたんですか?」
「茉子はね、ここで、悩んでいて、歌羽にアドバイスを受けたの。もっと仲間を見なさいってね。それからは、卓球の教室を中心に行いながら、同級生と、仲間と一緒に、レッスン後の練習をするようになった」
「それって、どんな練習ですか?」
「お互いに、足りないところを補い合うの。卓球でも歌でもダンスでもね」
「お互いに……」
「それが、相手に頼る。相手を助ける。一緒に成長するってことよ」
ハナははっとした、ハナもメグムにウィナーライブの練習で助けてもらう。そしたら、メグムが卓球の練習ができるようにハナも協力をすればいいんだ。
「私、わかりました! 仲間と、一緒に成長するってこと! お話をしてくれて、ありがとうございました!」
ハナはベンチから立ち上がり、秋風学園長に頭を下げる。
「いいのよ。期待してるわよ。ハナちゃん」
そう言って、秋風学園長はハナに手を振り去っていった。
「ハナちゃんって、私の名前、覚えてくれてるんだ……!」
それに、期待していると、言ってもらえた。
「……頑張らなきゃ!」
これから、どうしたいか、自分の考えはまとまった。
(後はメグムに伝えて、実行あるのみ!)
ハナはいつごろメグムが返ってくるのかを考えながら、寮へと戻った。
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