5話 歌の教室!
「夢咲! お腹に力が入っていないぞ! お腹をしっかりと使えば、もう一音出すことができるはずだ!」
「は、はい! あ~!」
「よし、その調子だ! もう一声!」
「は、はいい! あ~!」
フラワーギフト学園の音楽ルームに、綾辻椿先生のハナへのスパルタ指導が響く。タキシードに身を包んだその凛とした姿は、まるで男装をしているように見える。
メグムと歌の教室に行くことを約束し、歌の教室が行われる音楽ルームに向かうと、ハナを待っていたのはスパルタ指導だった。
一つでも広い音域、声量を身につけるため、ハナは発声の指導を受けている。
以前にもフラワーギフト学園の受験対策のため、メグムと発声練習を行ったことがあるが、それとはレベルが違った。
指導を受け終えたハナは、へろへろになってメグムの元へ帰ってくる。
「うう、難しいよう~」
「よしよし、お疲れ様ハナ」
一人一人の個人指導を終えると、椿のピアノに合わせて、最後に全員での発声練習が始まる。
ハナは頑張って声を出そうとする。そして、ある変化に気が付く。
(あれ、さっきよりも、声が出しやすい……!)
最初出すことができなかった音域まで、声がでる。声量も心なしか上がっている気がする。
「よし! 今日はここまで! みんな、とても良い音がでていた」
椿は生徒たちに優しく微笑みかける。さっきまでスパルタ指導をしていた表情とは全然違う。
「夢咲。さっきまでは厳しくして悪かった。でも、夢咲ならもっといい声がだせると思ったんだ」
椿はハナに近づき、頭にぽんと触れる。
「私の見込み通りだった。最後のはとってもいい声だった。でも、まだこれで満足せず、精進するように、よろしくね」
ハナは椿に優しく微笑みかけられ、どきっとしてしまう。
「あ、ありがとうございます! 頑張ります!」
すると、椿は講座を受けていた生徒生徒一人一人としっかりと向き合い、労いの言葉をかけていく。
「えっへへ。ね? かっこいい、素敵な先生でしょハナ?」
「うん! なんだかすごく、次へのやる気が出てくるよ!」
最初は怖い、厳しいとしか感じなかったけれど、いまでは、スパルタ指導を受けて、すっきりとした気持ちをハナは感じていた。
「椿先生はね、有名な男装歌劇団のスターアイドルでもあった人なんだよ!」
「そうなんだ! だからあんなにかっこいいんだね!」
その歌劇団の名前はハナでも聞いたことがあった。
「ところで、ハナはこの後どうする? 一緒に食堂へ行く?」
「うん! 行こうメグ! あ、それと……」
メグムの提案にハナは賛成する。そして、もう一つの考えが浮かぶ。
「よかったら、ご飯食べた後に少し、打たない? 最近メグと打ってないから、なんか寂しくて……」
「ハナ……。えっへへ。ハナは相変わらず打ちたがりだね。でも、うん。私も打ちたい」
「やった! じゃあまずは食堂へれっつごーだよ!」
「あ、ハナ、走らないの!」
駆け足で食堂へと向かおうとするハナを、メグムは笑いながら追いかけた。
☆ ☆ ☆
フラワーギフト学園では、各レッスンが終わった後、そのレッスンのために使われていた教室が自由解放される。
夜ご飯を食べた後に、自主練習をする生徒も少なくない。
食堂での食事を終えたハナとメグムは卓球ルームへと向かった。
そして、そこに見知った顔があった。
「エミ! エミも自主練習中?」
「ハナ! メグム! うん! そうだよ!」
ハナはサーブ練習を行っていたエミに声をかけ、三人で練習をすることにした。
「ごめんね。練習に混ぜてもらって」
「大丈夫だよ! こっちこそ、練習中に声かけちゃってごめんね。それにしても、エミは努力家なんだね」
エミの真剣にサーブ練習に打ち込む姿を見て、ハナはそう思った。
「努力家なんかじゃないよ! でも、私だけやっぱりみんなとは、卓球の練習量で劣ってるのは確かだから、その分挽回できるように頑張らなきゃなんだ。たっきゅーと!は卓球の試合に勝てないと、ライブを披露できないからね」
確かに、エミは卓球を始めた時期が遅かったことも、あり、まだ技術が未熟なところも多い。でも、そこから逃げずに立ち向かうところがすごいとハナは感じた。
「エミは今日も、リンリン先生の指導を受けたんだよね、どうだった?」
「もう、今日もベリーハードだったよ~。ハナとメグムはどこの教室に行ったの?」
三人はお互い受けたレッスンについてを話し合う。
「歌のレッスンってそんな感じなんだ! おもしろそうだなぁ。でも、ダンスの教室にも興味があるなぁ」
「私も! 後ダンスの教室だけ行ってないから、興味がある!」
「えっへへ。本格的なダンスの練習はしたことないから、確かに気になるね」
三人の興味が、ダンスの教室へと集まる。
「よし! じゃあ三人で明日はダンスの教室に行かない? 私、ダンスには自信があるよ~!」
「うん! おもしろそう! 賛成! メグは?」
「えっへへ! 私も賛成だよ」
ハナたち三人は、明日の約束を決めて笑い合う。
その後も、三人は無理のない程度に、お互いに汗を流し合った。
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