4話 それぞれの目標!

 卓球教室での練習が終わると、エミからの誘いを受けて、ハナと愛歌は三人で夜ご飯を食べることにした。


 フラワーギフト学園では生徒専用の食堂が用意されていて、フラワーギフト学園の生徒であれば、いつでも無料で食事提供を受けることができる。


 その日の練習量。そしてメニューを見て、生徒たちは食べるものを決める。アイドル、スポーツマンにとって、食事は戦いでもあるのだ。


「エミ、それだけしか食べないの? あんなに運動したのに」


 ハナはエミが選んできたプレートにのる料理の量の少なさを見て驚く。


「確かに運動はしたけど、今日はちょっとお昼に食べ過ぎちゃったんだ。それに私、太りやすい体質だから……」


「そうなんだ! 全然そうは見えないけど、すごいなぁ。私だったら絶対お腹すいちゃうよ」


「それにしても、二人ともよく食べるんだね……。特に愛歌」


 ハナのプレートには、通常の量よりも少し多いくらいの量の料理がのっている。そして、愛歌はその倍近くの量だった。


「ごめんなさい。私は太らない体質なので。ご飯をたくさん食べるの、大好きなんです」


 愛歌は嫌味もない笑顔でふんわりと笑う。


「いいなぁ。私なんて、モデルのお仕事もあるから、カロリーには厳しくしないといけないんだぁ」


 エミは羨ましそうに、ハナと愛歌を見る。


「そう言えば、エミは、フラワーギフト学園にくる前からアイドルのお仕事をしてるんだよね」


「アイドルのお仕事っていっても、モデルや、小さいライブでのバックダンサーとかだけだよ。そこまで有名でもないし」


「そんなことはありません。中学生向け人気雑誌、ハピネスラブの専属モデル。素晴らしいお仕事だと思います」


 愛歌は涼しい顔でご飯を食べながらそう話す。


「愛歌、ハピラブ見たことあるの! 恥ずかしいなぁ」


「その、ハピラブって雑誌にエミが載ってるの! 見てみたいなぁ!」


 エミはハナに期待の眼差しで見られ、降参する。


「わかったよハナ。今度見本誌をもらえたら、教えてあげるね」


「本当? ありがとうエミ!」


 ハナは満足したのか、嬉しそうにご飯を食べる。フラワーギフト学園の料理はとても美味しくて、大好きな母親の料理にも引けを取らないと思った。


 そして、ハナに一つの疑問が浮かんだ。


「そうだ、エミは、モデルのお仕事とかをしてて、どうして、たっきゅーと!を学ぶフラワーギフト学園を受験しようと思ったの? そのまま、アイドルとしてだけ、活動することもできたんだよね?」


「あーそれは、私、フラワーギフト学園に憧れてる人がいるんだ」


「憧れてる人……? それって聞いてもいいの?」


 ハナはエミの様子を伺いながら質問をする。


「隠すことでもないね。私は、茉子さんに憧れてフラワーギフト学園を受験したんだ」


 エミは少し頬を染める。


「一年とちょっと前かな。モデルのお仕事で茉子さんと共演することがあって、そのとき茉子さんはまだ、いまの私と同じ年なのに、表情や、ポーズの繊細さがすごかったの。人目見て憧れて、茉子さんについてをたくさん調べた。そしたら、フラワーギフト学園っていうところに通ってるってことがわかって」


「それで、フラワーギフト学園を目指したのですね」


 愛歌にエミはゆっくりと頷き返す。


「フラワーギフト学園に行けば、少しでも、茉子さんに近づけるかもしれないと思ったんだ。どうすれば、あんなふうになれるのか、それが知りたかった。結構頑張ったんだよ! これまで卓球も遊びでしかしたことなかったし!」


 ハナは受験の日を思い出す。だからあのとき、エミは少しでも卓球が上達できるように、メグムにアドバイスを求めたんだ。


「なんか、私だけ恥ずかしいよ! ハナと愛歌もどうしてフラワーギフト学園を目指したのか教えてよ!」


 エミの提案に、ハナと愛歌は目を合わせ、頷く。


 そして、先にハナから話し出す。


「私もきっかけは違うけど、エミと少し似てるかもしれない」


 ハナは自分がフラワーギフト学園を目指そうと思った理由。メグムに誘われたこと、たっきゅーと!の試合を見たこと、その後に、歌羽と試合をしたことを話した。


「そんなことがあったんだ……! なんかすごいね、ハナ!」


「えへへ、全部改めて話すと、やっぱり恥ずかしいね! じゃあ、次は愛歌だね!」


 ハナは恥ずかしくなり、すぐに愛歌へと話をそらす。


「私も二人と同じようなものですよ。私の目の前には、いつも姉がいました。それに追いつきたいと思ってこのフラワーギフト学園を受験しました」


 愛歌はゆっくりとそう話し、飲み物を口に運ぶ。


「それはやっぱりそうだよね。あんなにすごいお姉さんがいたら、目標にもしたくなるよね」


 エミは愛歌の話を聞いて、うんうんと頷いている。


「え、愛歌のお姉さんって、フラワーギフト学園にいるの? それに、エミはそれが誰か知ってるの?」


 不思議そうな顔をするハナを見て、エミは驚く。


「ハナ、もしかして、気づいてないの?」


「うん? 何の話?」


 ハナの様子を見て、愛歌はふんわりと笑う。


「私の姉は、ハナの話にもでてきました。天使歌羽ですよ」


「え……? えー!」


 ハナは驚きの声をあげる。


「むしろ気づいていなかったことの方が驚きだよ、ハナ。苗字だって同じだし、雰囲気もどことなく似ているでしょ」


 ハナはいままでの記憶を思い出す。確かに、たっきゅーと!の試合を行ったときも、愛歌の技術から歌羽を感じることがあった。でも、本当に姉妹だなんて。


「先ほど、ハナから聞いたお話。姉さんからも聞いたことがあります。面白い子が受験すると。確かに、ハナさんは面白い人でした」


「もう愛歌! 知ってたのなら、もっと早く教えてよ! びっくりしたでしょ!」


 頬を膨らませるハナを見て、愛歌は微笑む。


「その方が、面白いかなと思ってしまいました。何はともあれ、一人一人に、目標、フラワーギフト学園に入った理由があるのは確かですね」


「そうだね! ここでみんなで頑張れば、きっと目標に届くはず! だからハナもそんなに怒らないの~」


「私は別に怒ってないよ! 驚いただけで……! もうエミ、頭を撫でないでよ~。あ、愛歌、いま笑ったでしょう!」


 ハナの追及に愛歌はふんわり答える。


「いえ、賑やかなのも、楽しいなと思いました。仲間というものは良いものです。いまの言葉が心からの言葉であることを、この食堂の美味しい料理に誓います」


 その後も、ハナたちは三人でたわいのないことを話し続けた。


☆ ☆ ☆


 ハナが寮の部屋に戻ると、そこにはすでにメグムがいた。


「ただいま、メグ!」


「お帰りハナ、どうだった? 卓球の教室の方は?」


「えーとね、なかなかハードだったよ!」


 ハナはメグに、リンリンのことや、今日行った練習のことを話した。


「そんな感じなんだね! 卓球が本当に強くなれそう……!」


「うん、楽しかったよ! メグの方はどうだったの? 確か、歌の教室に行ったんだよね」


 ハナは、歌の教室がどんな練習をしているのか、興味があった。


「えっへへ。すごくためになる講座だったよ! 教えてくれる先生がかっこいいんだ~!」


 メグムは両手を合わせ、目を輝かせる。


「そうだ、もしハナがよかったら、明日、一緒に歌の教室に行かない? ハナにも先生の講座を体験してほしいなぁ」


 メグムの話を聞いていると、ハナは、その先生と講座に興味がでてきた。


(リンリン先生もすごいインパクトだったもんなぁ)


 もう一度リンリンの指導も受けたいけれど、ハナは、一度、一通り教室を体験してみたいとも思った。


「うん、私も一度、歌の教室を体験してみたいかも! 一緒に行こう、メグ!」


「本当! えっへへ。じゃあ五限が終わったら一緒に行こうね!」


 メグムはハナに嬉しそうに笑いかける。


(明日も楽しみだなぁ)


 ハナはフラワーギフト学園での生活にとても充実感を感じることができていた。

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