3話 卓球教室!
入ってきたのは、真っ赤なチャイナ服に身を包んだ女性だった。話す日本語には、独特な訛りが聞いて取れた。
「よし、それでは、自己紹介するヨ。私は、ウェイリンリン。卓球の専門講師アルヨ。リンリン先生って呼んでネ」
名前とその見た目から、中国の人なのかなとハナは思った。
「今日この教室にきた人は、きっと卓球が大好きネ。とてもいいアル。さっそく、ボールを打つ練習を始めたいから、まずはストレッチをしようネ」
リンリンの指示と掛け声に合わせて、ハナたちは、身体を伸ばし、けがをしないようにストッレッチを始める。
「念入りにやるあるヨ~。怪我が一番怖いアル~」
ストレッチを終えると、リンリンは卓球台の周りにハナたちを集めた。
「今日行うメニューは、多球練習アル! やったことある人もいるネ?」
リンリンの問いかけに、数名が頷き返す。
多球練習は、カゴに入れられた多くのピンポン球を、一人が打ち出しもう一人がそれを受ける練習である。ハナもメグムと一緒にやってみたことがあった。
「でも、普通じゃおもしろくないネ。そこのあなた、ちょっとやってみるネ」
そうリンリンに指名されたのは、エミだった。
「は、はい!」
言われるがまま、エミは卓球台に着く。
「いまから一分間、ワタシはボールを打ち続けるネ。できるだけ、返してみるアル」
リンリンがタイムウォッチを設定する。そして、スタートのボタンを押し、球を打ち出した。
「……!」
リンリンの打ち出した球のスピードが速い。なんとか、エミは返球をするが、
「戻りが遅いアル!」
その瞬間には、次の球がもう打ち出されていた。
(普通の多球練習よりも、次の球を打ち出す間隔が速い……!)
少しでも戻りが遅れ、フットワークに乱れがでれば、次の球に反応することはできない。それくらいぎりぎりのタイミングでリンリンは球を打ち出し続ける。
ピピピッ。タイムウォッチが鳴り、リンリンは手を止める。エミは、ほとんどの球を返すことができなかった。
「いきなり始めてごめんネ。一見、ハードに見えるかもだけれど、必要な技術アル。卓球で大事なのは一に反射神経、瞬発力アル。それに、身体がついていけるようになることで、他の技術ももっと活きてくるアル」
リンリンはエミを見る。
「あなた、反射神経は悪くナイ。少しずつ、身体がついていけるようにしようネ」
「あ、ありがとうございます!」
リンリンからウインクされ、エミはお礼を言う。
「それじゃあ、まずは全員にこのスピードを体感してもらうヨ!」
リンリンに指名され、一人一人が順番に多球練習を受けていく。
「うう~難しかったよ~」
「エミ、お疲れ様」
戻ってきたエミに、ハナは労いの声をかける。
「なかなか難しそうだけど、面白そうでもあるよね!」
ハナは早くやってみたくてうずうずしていた。
「そうですね。確かに、あのスピードは体感してみたい気がします」
ハナの意見に愛歌が同意する。
「それにしても、ウェイリンリン……ですか」
「愛歌、リンリン先生のことを知っているの?」
「いえ、以前、中国のナショナルチームに、似たような名前の選手がいたような気がしたので」
「ナ、ナショナルチームって中国の代表ってこと? さ、さすがに勘違いじゃないかな?」
そんな話をしていると、ハナがリンリン指名される。
「次、そこの花飾りをつけてるあなた!」
「は、はい!」
ハナは卓球台に着く。これが、フラワーギフト学園での初めての練習。
(よし! 頑張るぞ!)
笑顔でリンリンが打ち出す球を待つ。
「では、スタート!」
リンリンが球を打ち出す。最初の打球をハナは難無く返球する。問題は次の打球。
(やっぱり速い……!)
十分に意識して反応したはずなのに、球には触れることはできたが、ネットにかかってしまう。
「どんどんいくアルヨ!」
一瞬の判断の迷いで、球に追いつけなくなる。ハナは考えて動いていたらダメだと思った。
(自然に身体を次の球を受ける態勢に戻すんだ! 考えるのは、次の球をどう返すのか!)
少しずつ、身体の動きがスムーズになる。打球がコートに返るようになる。
「なかなかやるアルネ。でも、まだこれからアルヨ!」
リンリンが打ち出す打球のコースがどんどん厳しくなる。ハナは触れるのが精いっぱいになってしまう。
「頑張ったご褒美に、レギュラー向けの、練習を見せてあげるアル!」
その瞬間、全ての打球のスピードが、もう一段階上がった。ハナは最後のスピードについていくことができなかった。
「あなた良い筋してるアルヨ。いまのがレギュラークラスある。ぜひ、ここを目指してネ」
レギュラークラス。それは、歌羽や茉子の実力を意味する。
(これが、歌羽さんや、茉子さんが経験してきた練習……! すごく、すごく楽しい!)
この練習を続ければ、きっと強くなれる。ハナはそう思った。
「はい! ありがとうございます! 頑張ります!」
ハナの次に指名をされたのは愛歌だった。
「そのラケット、あなたカットマンアルネ。それじゃ、全部ツッツキで出すから、あなたもツッツキで返すアル」
「わかりました。お願いします」
リンリンは宣言通り、いままでと同じスピードでツッツキを打ち込む。愛歌はその全てに柔らかいフットワークで反応してみせる。
「カットマンなら、一球もミスしないアルヨ!」
そう言い、愛歌のツッツキのミスを数えだす。そして、タイムウォッチが鳴る。
「4球ミスがあったアルネ。なかなか良いフットワークとボールタッチだったアル。でも、カットマンは反応ができてもミスをしちゃダメアル。これが0になれば、次の段階に進めるアルヨ」
「わかりました。ありがとうございます」
そして、全員の指名が終わる。
「では、次はみんなで、ワタシのように球を出す人、受ける人を決めてやってみるアル! 簡単そうに見えてなかなか難しいアルヨ?」
ハナたちは言われた通り、今度は球を打ち出す側にも挑戦してみる。が、
「あれ、ごめん、エミ!」
思ったように、球を打ち出すことができない。リンリンがやっていたようなスピードを意識しても、違うところにボールが飛んでいってしまう。
「難しいでショ? でも、ワタシのように打ち出すことができれば、手元の技術も高まるアル。練習あるのみヨ!」
ハナは実際にやってみて、初めてリンリンの技術の高さに気がついた。リンリンはミスすることなく、スピード感覚、コース、打球の強さ、全てをコントロールしていた。
(リンリン先生はすごい人なんだ……! こんなすごい人に教えてもらえるなんて、楽しい!)
ハナは、愛歌が言っていた、中国のナショナルチームにリンリンがいても何らおかしくないと感じた。
「よーし! もう一回、いくよエミ!」
ハナはリンリンのように意識して、もう一度球を打ち出す。
少しでも多くのことを、ここで学びたいとハナは思った。
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