2話 学園生活スタート!

 入学式が終わり、家族と記念写真を撮影したハナとメグムは、母親たちにしばしのお別れの挨拶をする。


「体には気をつけるんだよ? がんばり過ぎちゃだめよ? 寂しくなったらいつでも電話していいからね」


「……うん、ありがとうママ。大丈夫、大きなお休みになったら、ちゃんとお家に帰るからね」


 ハナは母親に抱き着く。それでも泣きはしなかった。ここで泣いたら、これから先も、寂しさを我慢できるわけがないと思った。


 母親たちに手を振って見送ると、ハナとメグムは学生寮へと向かった。


 これから三年間、暮らす場所。


「よろしくお願いします!」


 ハナとメグムは学生寮に向かって頭を下げ、挨拶をした。


 寮長の人から詳しい説明を受けたあと、ハナたち新入生はそれぞれの部屋へと向かった。部屋は全て二人部屋。ハナのルームメイトは、なんとメグムだった。この偶然に二人とも驚きはしたものの、とても喜んだ。受験のときにも対戦することになったし、何かの強い縁があるのかもしれない。


「お邪魔しま~す」


 そう言ってハナが扉を開くと、そこには左右に勉強机とベッドが一つずつ設置されていた。


「えっへへ。お邪魔しますって、私たちはこれからここで暮らすんだよ、ハナ」


「あはは、わかってはいるんだけど、なんとなくね」


 どっちのベッドで寝るのかなど、二人は軽い確認を行う。そして、キャリーバックから荷物を取り出し、少しずつ整理をしていく。


 二人が一通り片づけを終えると、ハナはメグムのベッドに寝転がった。


「えっへへ。ハナ、そっちは私のベッドだよ?」


「えへへ。少しくらいいいでしょ~」


「もう、じゃあ、私も……えい!」


 そう言って、メグムもベッドに横になる。二人で、同じベットに寝転がり、天井を見上げる。いつもお家で見ていた、見慣れた景色とは違う。


「ついに明日から、始まるんだね。メグ」


「そうだね、ハナ」


「私、今日、眠れないかも」


「えっへへ。私もだよ。胸がドキドキするもん」


 二人はお互いの表情を確認していないが、笑っているとわかる。


「ありがとうね、ハナ。一緒にフラワーギフト学園にきてくれて」


「急にどうしたの、メグ?」


「私は、一人だったら、きっとこの場所にはくることができなかったと思う。ハナには、すごく感謝してるの」


 メグムは、隣にいるハナの手を、ぎゅっと握る。


「そんなの、私こそだよ」


 ハナも、メグムの手を優しく握り返す。


「メグが誘ってくれなかったら、こんなドキドキ、味わうことはできなかった。私も、メグがいたから、ここまで頑張れた」


 それはハナの素直な気持ちだった。


「私、いますごくわくわくしてるの。フラワーギフト学園で過ごす毎日が、楽しみで仕方ない。私も、メグにすごく感謝してるんだ」


「ハナ……」


 ハナはメグムに顔を向け、にっこりと微笑む。


「ありがとうね、メグ」


 その笑顔を見て、メグムの顔は赤くなる。そして、目に温かいものが浮かんでくる。悲しいから出てくるものじゃない。嬉しいから流れる、素敵なもの。


「えっへへ。すごいスマッシュもらっちゃった」


 メグムはハナに顔を見せるのが恥ずかしくて、顔をハナとは別の方へ向ける。


「えへへ、メグ、耳が真っ赤だよ。アイドルボールみたい」


「もう、ばか」


 二人はそんなやりとりをしながら、二人で笑い合った。


☆ ☆ ☆


 次の日から、フラワーギフト学園の一日が始まった。 


 フラワーギフト学園のクラスは十人ずつの二クラスに分かれる、それぞれ、フラワー組と、ギフト組と呼ばれ、ハナとメグムはフラワー組になった。


 最初はお互いの自己紹介などのオリエンテーションが行われたのち、普通の授業が始まる。


 フラワーギフト学園では、一限から五限まで普通科の授業を念入りに行う。一クラス十人という少人数教室だけあって、効率よく、生徒にあった授業を展開する。


 この方式のおかげで、一期生、二期生の中には、難関高校に進学した者もいる。フラワーギフト学園は勉学にも力を入れた学校だった。


 そして、特徴的なのが、五限が終わった後の放課後である。放課後になると、生徒たちはそれぞれ自分の学びたい教室へ、各自レッスンへと向かう。


 一つ目は卓球の教室。たっきゅーと!でウィナーライブを行うためには、卓球の試合に勝たなければいけない。その技術を磨く。


 二つ目は歌の教室。ウィナーライブはもちろん、レコーディングなど、アイドルにとって歌唱力は命。自分だけの歌声を目指す。


 三つ目はダンスの教室。ライブでのダンスはもちろん、足運びは卓球のフットワークにもつながる。一番大切な身体の動かし方を学ぶ。


 このように、フラワーギフト学園では、自分の得意分野を伸ばすもよし、苦手分野を克服するもよし、それぞれの生徒によってセルフプロデュースができるようになっている。


 生徒たちが、自分のやりたいことを見つけ、自分で考えて行動するには、打ってつけの環境だった。


 そして、今日はその放課後レッスンが行われる初日。ハナは、授業を真面目に受けながらも、放課後のレッスンが楽しみで、ずっとうずうずしていた。


(まだかな~まだかな~)


 ハナが受けようと思っているレッスンは、卓球の教室。歌羽や茉子も、きっとこのレッスンを受けて卓球が上達したはずだ。一体どんなレッスンなのか、ハナはとても興味があった。


 五限終了のチャイムが鳴る。


「それでは、今日はここまで。予習と復習もお願いしますね」


 そう言って数学の先生が教室から出ていくと、ハナたちフラワー組に、わぁっと歓声が沸いた。楽しみにしていたのは、クラスのみんな同じだったのだ。


「えっへへ。それじゃあハナ、私は歌の教室に行くから、また後で話を聞かせてね」


「うん! メグもどんな感じだったか教えてね!」


 メグムは歌の教室に一番興味があったみたいで、二人は別行動をすることになった。ハナは正直、少し寂しかったけれど、いつもメグムと一緒だと、いままでと何も変わらない気がした。それに、寮に戻れば、たくさんお話だってできる。


「よし行こう! 楽しみだなぁ」


 ハナはフラワー組の卓球の教室へ行こうとしている仲間たちと準備を済ませ、一緒に卓球の教室が行われている場所へと向かった。


 フラワーギフト学園では、通称卓球ルームと呼ばれているらしい教室に入ると、そこは卓球台が十台近く設置されており、とても広い、まさに卓球をするための空間だった。


 そして、そこに少しだけ見知った顔があった。


「あ! あなたは確か、メグムのお友達の人だよね!」


 そう言って近づいてきたのは、星空エミだった。


「えーと、まだしっかり自己紹介してなかったよね! 私はギフト組の星空エミだよ、これからよろしくね!」


「私は、フラワー組の夢咲ハナだよ! こちらこそよろしくね! 星空さん!」


 ハナはエミが差し出した手を握り、握手をする。


「星空さん、なんて固い呼び方じゃなくていいよ~! エミって呼んでほしいな、ハナ」


 エミはお茶目に笑う。


「わかった! エミ! よろしくね」


「うん! 友情のはぐだよ~!」


 そう言い、エミはハナを優しく抱きしめる。エミの身長は、ハナよりも高い。エミの柔らかい感触が、ハナの顔に当たる。


「わわ、エミ! 恥ずかしいよ」


 顔を赤くするハナを見て、エミはハナの頭を撫でる。


「ふふ。ハナは恥ずかしがりやなんだね~」


 二人がじゃれあっていると、


「お二人は仲がいいんですね」


 声がした方を二人が見ると、そこに天使愛歌がいた。ふんわりと微笑ましくハナとエミの絡みを見ている。


「天使さん! 天使さんも、卓球の教室だったんですね」


「はい。どのような練習をしているのか、興味がありまして」


 すると、エミがハナに疑問を投げかける。


「愛歌は誰にでもそうだけど、どうしてハナは、愛歌には敬語で話すの?」


「ええ! どうしてだろう……。雰囲気が柔らかいから、つい、敬語を真似ちゃうんだよね」


 エミと愛歌はギフト組に所属しているため、すでに面識があったのだろう。二人で顔を見合わせて首を傾げる。


「ハナさん。気をつかわず、私のことは愛歌と呼んでください。敬語も外してくれて構いませんよ。いえ、私が言うのも何ですが、外していただけると嬉しいです」


 ハナはそうお願いされ、敬語をやめることにした。


「それじゃあ、私もハナでいいよ! これから改めてよろしくね……愛歌!」


「はい。それでは、今日という初めての卓球の教室に誓います、ハナ」


 お互いに三人が打ち解けたところで、卓球ルームの扉が開かれる。


「よーし、集まっているアルか~? 卓球教室、始めるアルヨ~」

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