5話 夢咲ハナVS美甘メグム!①
「えっへへ。私たちの試合は十二試合目になるね、それまで他の人たちの試合を観察しよう? 二回戦目で当たる人がこの中にいるんだから」
「うん! そうだね!」
二人は一階の競技場で行われる試合を観察した。試合の様子は様々だった。片方が圧倒している試合もあれば、接戦になる試合もある。受験者一人一人の技術の差は違っていた。対戦相手によって勝てるかどうかも決まってくる。
三戦目の試合は圧巻だった。対戦相手に得点を取らせず勝利した受験生がいた。
「えっへへ……。いまの人は、ちょっとすごすぎるね……」
メグムは思わず舌を巻く。対戦相手が可哀そう。あの子と当たったら終わりだ。そう受験生が口々に呟き始める。
ウィナーライブもいままで試合後に行われたものとは、レベルが違った。美しい長髪に、大人びたスタイル。小学生離れした美貌から華麗なダンス。受験生というよりも、すでにたっきゅーと!のアイドルが参加しているのではないかと思わせるライブだった。
(すごい……。フラワーギフト学園はあんなすごい人も受験するんだ……!)
ハナは武者震いをするのを感じた。あの人とも試合ができるのかもしれない。
「えっへへ。ハナ、あの人と試合したいって思ってるでしょ?」
「えっ! ば、ばれた?」
「わかるよ。あの歌羽さんに試合を申し込みに行くぐらいだからね~ハナは」
ハナはメグムに気持ちを読み取られ、照れ笑いを浮かべる。
そして、二人はその受験生の名前を確認する。
天使愛歌。そうスクリーンに映し出されていた。
十戦目の試合も、ハナの目を引くものだった。試合のレベル自体はそれほど高くないものの、お互いの実力が拮抗し合っており、良い試合だと感じられた。
ハナが驚いたのはウィナーライブだった。勝利した受験生は明るい髪色、恵まれたスタイルで、元気よくフラワーギフトを歌う。ダンスは特に素敵で、これまで行われたどのウィナーライブよりも、聞いていて元気になれる、楽しくなれるもだった。
「あの子は、星空エミちゃんだね。もうすでにモデルのお仕事とかでアイドルデビューしている子のはずだよ」
「えっ! もうアイドルなんだ!」
メグムの説明に、ハナは驚く。そして、フラワーギフト学園が、たっきゅーと!のアイドルを志した受験生が集まる場であることを改めて認識した。
そして、星空エミのウィナーライブも終わり、十一戦目の試合がやってくる。
ハナとメグムの試合は次の十二戦目。二人は、目の前の試合よりも、次の試合のことを意識し始める。
二人の友情は変わらない。それでも、親友に、最高のライバルに勝ちたいという思いは二人とも理解し合っていた。
前の試合のウィナーライブが終わる。ハナとメグムは一階の競技スペースへと向かった。
「えっへへ、お互いに全力で」
「最高のたっきゅーと!をだよね!」
二人は卓球台につき、試合が始まる。サーブ権はハナから。
会場全体の雰囲気がどこか冷たい。二階席にいる多くの受験生が様子をじっと観察しているからかもしれない。それとも、周りにいる数名の試験官に、評価をつけられているからだろうか。
(でも、そんなこと、いまは関係ないよね)
目の前にメグムがいる。この舞台で、親友とたっきゅーと!の試合ができる。それを楽しまない手はない。
ハナはピンポン球を宙にあげる。そして、サーブを打つ。回転がわからないにようにフェイクを入れたものの、メグムは難無く打ち返す。球種もばれてしまうのは当たり前だった。この数か月、一緒に練習してきたのはメグムなのだから。
お互いに球を打ち合い、追い合う。
相手のことを知り尽くした二人。ハナはポイントになるのは、アイドルボールの使い方だと思った。勝負は互角、お互いに得点を取り合う展開。ハナが得点を奪い、8-7とリードした。そこで、
「アイドルボールをお願いします!」
ハナはアイドルボールを申告した。この得点をハナが取ればセットポイント。メグムが取れば逆転。
(メグと勉強したんだ。アイドルボールはただ試合を決めに行ったり、リスクを冒すためのものじゃない!)
この得点を取る自信はある。でももしメグムに取られても、巻き返す自信もある。
何よりも大事なのは、自分がアイドルボールを申告したということ。自分の流れで、試合を行うことだ。
サーブ権はメグム。そのメグムに、アイドルボールの重みも感じさせることができる。
ボールがショッキングピンクのアイドルボールに代えられ、試合が再開する。
メグムの放ったサーブは先ほどまでと変わりない下回転サーブ。メグムは特に勝負を仕掛けにきたわけではなく、あくまで冷静だった。
(メグムらしいけど……それを待ってた!)
ハナは台上で、その下回転サーブをドライブで打ち返す。ラリーが続くが、ハナが主導権を握っている。そして、ハナのコースを突いたドライブを、メグムは返すことができなかった。
アイドルボールの2得点がハナに入る。ハナは静かにガッツポーズを作る。その勢いのまま、1ゲーム目を先取した。
メグムの持ち味は、どの一点でも冷静であること。たとえ相手にマッチポイントを握られていたとしても、その一点をいつも通りプレイすることができる。
ハナはその特徴を逆手に取った。相手がいつも通りプレイするのなら、自分がそれを乗り越えられれば必ず得点ができるということだ。
2ゲーム目もハナが主導権を握る展開が続く。
メグムのバックハンドに貼られているラバーは、通常の裏ソフトと言われているラバーとは異なり、表ソフトと言われているラバーだった。低い小さな粒上のものが、ラバーに敷き詰められている。
異質系ラバーと呼ばれる、その表ソフトを使う競技者は決して多くはない。そのため、打ち慣れていない相手に対して、アドバンテージを得ることができるはずだった。
しかし、ハナは、その特徴も、メグムの卓球のことも、よく知っている。
メグムが得意としているバックハンドを避け、徹底的にフォアハンドを攻めて得点をする。
得点は9-7。ハナがリード。そこでハナは再びアイドルボールを宣告した。
(この得点を取れば、私の勝ち……!)
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