2話 試験対策!

 休日のお昼頃、ハナはメグムの部屋にいた。メグムの部屋は黄色を基調とした明るい部屋になっていて、たくさんのぬいぐるみやたっきゅーと!のグッズが並べられていた。


(本当にたっきゅーと!が好きなんだなぁ。あとミカンも!)


 メグムの部屋にくるとハナはいつもそう感じていた。


(でも、前よりもグッズが増えているような……?)


 壁に大きく張られている天使歌羽のポスター。いたずらっぽい笑みを浮かべる歌羽が着ているのは、フラワーギフト学園の制服だ。


「本当にフラワーギフト学園を卒業したんだなぁ」


「えっへへ! そうだよ~可愛いでしょ?」


 すると、飲み物を取りに行ってくれていたメグムが戻ってきたみたいだった。持ってきてくれたのはオレンジジュース。


「あ、メグありがとう! このポスター、前にきたときはなかったよね?」


「ああ、それは、持ってたんだけど、付けてなかったんだよ」


「えっ、どうして?」


 ハナは不思議そうにメグムを見る。


「えとね、ハナをフラワーギフト学園に誘おうか、結構悩んでてね。ハナが遊びにきてくれたときに、あまり、たっきゅーと!の押し付けになったら嫌だなって……。まぁ結局、たくさん押し付けちゃったんだけどね」


 メグムはハナに照れ笑いを浮かべる。


「そんなに気にしてくれなくてよかったのに……」


「ううん、私にとっては、勇気がいることだったから。でも、ハナが受験することに決めてくれて、本当に嬉しい! あの日からすぐにポスターとか貼っちゃった! えっへへ!」


 メグムを見て、ハナも照れくさくなってしまった。


(メグはそんなに真剣に私のことを考えてくれていたんだ)


 そのことがハナはすごく嬉しかった。


「さて、それでは、フラワーギフト学園合格に向けての作戦会議を始めよっか!」


「うん! そうだね!」


 メグムは机の上から、一冊のノートを取り出す。そのノートにはフラワーギフト学園受験対策と書かれていた。


「わぁ、すごい……! こんなにたくさん書き込んであるの!」


 ハナはノートをぱらぱらと開き見てみると、メグムの手書きでたくさんのことが記入してあった。


「何年も前から書き込んであるからね。じゃあ、ハナもしっかりメモしていってね?」


「りょうかいです!」


 ハナは持ってきたカバンから筆記用具とノートを取り出し、書き込む態勢を作る。


「ではまず、フラワーギフト学園の合格人数から。フラワーギフト学園は基本、一学年は二十人で構成されているの。つまり、今年の合格者もおそらく二十人」


「二十人って、私たちの小学校の一クラスより少ないよ!」


「そうだね、でもこの少数精鋭の授業が、フラワーギフト学園の魅力でもあるみたい」


「な、なるほど~」


 確かに人数が少ない方が、効率よく、綿密な練習が行えるのかもしれない。それが、歌羽や茉子の強さの秘訣かもしれないとハナは思った。


「それで、何人くらいが、受験するの? 百人くらい、かな?」


「たっきゅーと!の人気が高まるにつれて、年々受験者も増えてるみたい。去年は百六十人が受験したよ」


「ええっ! そんなに!」


 合格者二十人に百六十人が受けにくる。一体何人が不合格になってしまうのか、ハナは考えたくなかった。それに、


「年々増えてるってことは、まさか……」


「うん……。今年は二百人を超えるかも。歌羽さんたち一期生が卒業して、その実績が世間に認められつつあるみたい」


 ほとんどの受験者が不合格になる現実に、ハナは正直、不安になる気持ちを覚えた。それでも、


(ううん、頑張るって決めたんだ……!)


 家族はみんな応援してくれている。歌羽や茉子もおすすめしてくれた。それに、隣にはメグムだっている。一人じゃない。


「メ、メグ! 教えてもらってる私が言うのは、変かもだけど……。絶対、一緒に受かろうね!」


「ハナ……。えっへへ、うん! 当たり前だよ! 一緒に頑張ろう!」


 二人はお互いに、改めてフラワーギフト学園合格への決意を確認し合った。


「それで、肝心の試験内容なんだけど」


「うんうん!」


 ハナは鉛筆を握りしめ、メモの態勢をとる。


「例年通りなら、試験は、三段階で行われるはず。一次試験が筆記試験と、ダンスと歌唱力による実技試験。二次試験が面接試験。三次試験が受験生によるたっきゅーと!の試合になるはずだよ」


「三つも試験があるんだ! どれも、頑張らないとだね……!」


「うん、これからは基本的に、朝のランニングで体力づくり。筆記試験は小学校での勉強を頑張る。ハナも私も赤点を取ったりするような感じではないから、筆記試験はそれくらいでいいと思う」


「えっなんかこう、がり勉にならなくても大丈夫なの?」


「たぶん、百点満点を狙うというより、平均点を取れれば、筆記試験的には問題ないはず! それよりも私たちはダンスと歌の練習をしなくちゃ!」


 そう言い、メグムはCDレコーダーを取り出す。


「ダンスと歌唱力の実技試験で使われる課題曲は毎年同じなんだ。フラワーギフト学園にとって、校歌みたいなもの。曲名はそのままだけど、『フラワーギフト』っていうの。ハナは初めて聞くと思うから、一回聞いてみよう」


 メグムが再生ボタンを押すと、スピーカーから音楽が流れだす。


 ポップで愛着がわきやすいメロディーに、ハナは自然とリズムに乗ってしまう。


 みんなにもらった贈り物で、夢の花を咲かせよう。


 歌詞も明るい未来を想像させるもので、思わず口ずさみたくなる。


 それに、この歌声は、


「これってもしかして、歌羽さんが歌ってる?」


「えっへへ、正解! 歌羽さんのソロバージョンだよ!」


 聞いていて、とても心地よい歌声だった。


(これが、フラワーギフト。課題曲なんだ……!)


 これから、受験までに何度も聞いて、何度も歌って、何度も踊ることになるだろう曲。


 ハナは初めて聞くこの曲への思いを大切にしようと思った。


「いきなり上手に歌うことは難しいから、発声練習とかもやっていこうね。ダンスについては、動画もあるから、少しずつ身体に覚え込ませていこう!」


「うん! なんかやる気出てきた~!」


 ハナはいますぐにでも身体を動かしたい気分だった。


「それで、次は二次試験の面接についてなんだけど」


「め、面接……」


 ハナはしゅんと気持ちがしぼんでいくのを感じた。


「面接って、どうしてフラワーギフト学園を受験したんですか? みたいなことを聞かれるやつだよね……」


「うん。この面接では、どうして、フラワーギフト学園に興味を持ったのか、とか、人物についてを中心に聞かれるみたいだよ。好きな食べ物はなんですか、ミカンです! みたいな」


 メグムは近くにあったミカンの形をしたぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。


「そんなのやったことないよ~答えられるかな~」


 ハナは不安そうに鉛筆をいじる。


「大丈夫だよ。もちろん練習もするけど、素直な自分の姿をみせれば、きっと合格できるはず! えっへへ、たぶん……」


「うん、そうだね……! いまから不安になっててもだめだよね! 私なら、できる! はず……」


 ハナとメグムはお互いを見て、どこかおかしくて笑い合う。


「それで、最後はたっきゅーと!の試合。その通り、たっきゅーと!の試合を受験生どうしが行うの。アイドルボールもあるし、試合後のウィナーライブもあるみたい」


「ということは、基本的に、試合に勝った人が合格できるってことだよね? 負けた人はウィナーライブもできないし」


 ハナの問いかけにメグムは首を横に振る。


「そうでもないみたい。情報によると、試合に負けた人でも合格をしている人もいる。逆に勝った人でも、不合格になる人もいるみたい」


「そうなんだ! それじゃあ、ただ試合に勝つだけじゃダメなんだね……! 難しいなぁ」


 試合に勝っても落ちるかもしれない。合格の明確な基準がわからず、ハナは少し頭を抱えた。


「一つだけ言えるのは、そのたっきゅーと!の試合だけじゃなくて、全部の試験の結果で、合格かどうかを決めてるってことかな」


「なるほど~じゃあ、やっぱり全部の試験が大事なんだね!」


 ハナは黙々とノートにメモを書きこんでいく。


「それでもやっぱり、試合に勝ってウィナーライブをすることは、アピールになると思うから、卓球の練習もいままで通り続けていこうね!」


「うん! 喜んで!」


 その後も、ハナはメグムから試験やフラワーギフト学園についてをたくさん教えてもらった。その一つ一つを一生懸命にノートに書き込む。


「よし! できたぁ! メグム先生直伝の、フラワーギフト学園受験対策ノート! これからよろしくね!」


 ハナはそのノートが愛おしく胸に抱きしめる。


「えっへへ。それじゃあ今日は発声練習から始めよう! 家のリビングにピアノもあるから使おう!」


「そっか! メグはピアノも習ってたもんね! ご指導、お願いします~!」


 メグムは部屋を出てリビングへと向かう。それに続こうとしたハナはふと部屋の中で足を止める。


 ハナの視線の先にあるのは、歌羽のポスターだった。


 歌羽が着ているフラワーギフト学園の制服。この制服を自分も着たい。


「待っててね、フラワーギフト学園!」


 ハナはぎゅっと手の平を握りしめ、部屋を出てメグムの後を追った。


 ここから、二人のフラワーギフト学園合格に向けての努力の日々が始まる。

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