第二章 目指せ合格! フラワーギフト学園!

1話 トレーニング開始!

 時刻は朝の六時。夢咲ハナは自分の部屋のベッドで、気持ちよさそうに熟睡していた。


「メグ~そんなぁにミカンは食べられないよぉ~」


 何か夢を見ているのか、口元を緩め、独り言を漏らす。


 そのとき、部屋の扉が開かれ、


「ハナちゃん~朝よ~起きなさい」


 母親がハナを起こす。ハナは毎日母親に起こしてもらっているため、夢咲家にとってはいつもの日常である。しかし、一つだけ違うところがあった。


「うぇぇ、ママなあに、まだ六時だよ?」


 それは時間だった。ハナは小学校に行く日は毎日七時に起きていた。それがいつもより一時間早い。


「ハナちゃん、いつまで寝ぼけてるの? 早く起きて準備しないと、メグちゃんがきちゃうわよ?」


「メグ? ママ、何を言って……って! メグ!」


 ハナは慌てて飛び起きる。


「急いで準備しなきゃ!」


 ハナはメグムとフラワーギフト学園を受験すると決めてから、朝のランニングをすることになっていた。これはメグムが提案したもので、メグム曰く、


『放課後や休日は、受験に向けての本格的な対策をする必要があるから、早起きして体力づくりをしよう』


 とのことだった。早起きは苦手なハナだが、母親と、メグムの協力により、何とか早朝のランニングを続けている。


「これでよし! いってきます!」


 ジャージに着替え、ランニングの準備を済ませると、ハナは玄関から外に出る。すると、そこにはメグムのジャージ姿があり、軽くストレッチをしていた。甘美メグム。ハナの親友だ。


「えっへへ、おはようハナ!」


「おはようメグ! 今日も早いね」


 ハナもゆっくりとストレッチを始める。いきなりランニングをすると身体に良くない。


「よし、ストレッチ終わり! 行こう、メグ!」


「うん、いつも言ってるけど、飛ばし過ぎちゃだめだよ? ハナ?」


「わかってるよ!」


 ハナとメグムはゆっくりと早朝の町を駆け出していく。


 ハナは最初つらかった早朝のランニングを、いまは心地よく感じられていた。


 (隣にメグもいるし、何より空気がおいしい気がする!)


 そして、日々自分が成長していくことを想像することが楽しかった。目指しているのはフラワーギフト学園。その学園には、茉子シュバインシュタイガーがいる。憧れの天使歌羽が卒業した中学校でもある。


 目標があって、それに向かって努力する。ただそれだけのことが嬉しくて、楽しかった。


☆ ☆ ☆


 ハナが初めてたっきゅーと!を見たあの日、ハナは家に帰るとすぐに、家族を集め、家族会議を開いた。ハナの呼びかけにより、夢咲家の全員がリビングに集まる。


「どうしたんだハナ? また新しい卓球用品が欲しくなった?」


「それとも、メグちゃんとまた遊びに行くの?」


「え~! お姉ちゃん! 私も行きたいよう~!」


 集まったのは、父親と母親と妹。夢咲家はハナも含め四人家族である。


「あのね、私の進路についての話なんだけど……」


「進路について、中学校のこと?」


 ハナは母親の問いに頷き、本題を切り出す。


「私、フラワーギフト学園を受験したいと思ってる! 受かるかどうかはわからないんだけど……それでも、挑戦してみたいの!」


「フラワーギフト学園というと、最近できた、たっきゅーと!で有名なところよね? どうしたの急に。今日メグちゃんと、見に行ったことが関係しているの?」


 ハナはメグムに誘われたこと、今日、自分が見た、経験した出来事を一生懸命に話した。


「なるほど。それでハナは受験したくなったんだ」


「うん。もし合格したら、私立中学校だからお金もかかるし、全寮制らしいから家から出ることにもなるみたい……。それで、私だけで勝手に決めたらいけないことだなって」


 ハナは真剣な顔で母親と父親を見る。


「よく考えたのか? もし受験で失敗したら、ハナが行きたがっていたような卓球が強い中学校ではなくて、地元の公立中学校にしか進めなくなると思うよ? それでも大丈夫?」


 父親は少し心配するようにハナを見る。


「うん。大丈夫! もしダメだったとしても、自分が頑張ればいいだけだもん! メグに誘われたから行きたいとか、それだけじゃないの! 私はいま、すごくわくわくしてるの!」


「ハナ……」


「ハナちゃん……」


ハナは目を輝かせ、自分の素直な思いを伝える。


「お姉ちゃん、なんかかっこいい~!」


 妹が嬉しそうに声をあげ、手をパチパチと叩く。


 父親と母親の二人はお互いに目を合わせると、ゆっくりと頷いた。


「ハナちゃんがそこまで本気なら、私たちが反対する理由はないわ。お家のことは気にせず、頑張りなさい。メグちゃんに迷惑をかけちゃだめよ?」


「例え、いい結果が出なくても、この経験はきっと次につながるはずだよ。挑戦してみなさい。できることは協力するよ」


 二人はにっこりと笑い、ハナの背中を後押ししてくれた。


「ママ、パパ……! ありがとう、私、頑張るね!」


 ハナは喜びのあまり、二人に抱き着く。


「わぁ~お姉ちゃん、よかったねぇ~」


 そこに妹も引っ付いてくる。


「さぁ、それじゃあご飯にしましょうか? 今日はみんなの好きなカレーよ?」


「カレー! やった!」


 ハナたちは嬉しそうに笑い合う。


 こうしてハナのフラワーギフト学園への受験は、ハナだけでなく、夢咲家の思いが込められたものになった。

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