7話 ウィナーライブ!
歌羽と茉子の試合は進んでいった。3セット目を取ったことで流れは歌羽に傾くが、茉子は粘った。お互いに魂を込めて打ち合う。その姿はとても綺麗で、可愛くて、かっこよくて、会場内にいる全ての人の心を魅了した。
ハナは、静かに目を閉じる。台の上を弾むピンポン球の軽快な音。ピンポン球を打ち出すラケットの打球音。床を捉える二人の足音。その全てが心地よかった。
ハナは、卓球のこの音が大好きだった。とっても可愛いと思った。
いつまでも続いて欲しい。そう願う人も多かったであろう。それでも、試合には終わりが訪れる。最後の得点が決まる。試合は、
『いま最後の得点が決まりました! 試合に勝利したのはルージュ&ノワールの天使歌羽! 3セット連取の大逆転勝利です!』
温かい拍手が試合を終えた二人を包み込む。大激戦だった。
「また、負けてしまいました。歌羽さん。あのプレーには降参です」
試合を終え、二人は台の前で握手を交わす。
「まだまだ負けてられないもん。トラちゃん相手ならなおさらね」
「悔しいですが、それでも、楽しかったです。またたっきゅーと!しましょう」
「こちらこそだよトラちゃん。最高のライブにするから見ててね」
「はい。私はずっと歌羽さんを見ていますよ」
握手からの抱擁。二人はお互いに健闘をたたえ合う。
『さぁ皆さん! 熱い試合を見せてくれた二人にもう一度大きな拍手をお願いします!』
セイラの掛け声に合わせて、会場がもう一度温かい拍手に包まれる。
ハナとメグムも惜しみない拍手を送った。
「メグ! すごいね、これがたっきゅーと!なんだね!」
「えっへへ、そう言ってもらえるとついてきてもらった甲斐があるかな。でも、たっきゅーと!はまだまだこれからだよ!」
「これから?」
まだ試合が残っているという意味なのだろうか。首を傾げるハナを見て、メグムは微笑む。
そこにセイラの実況が入る。
『さぁ続いては皆さまお待ちかね! ウィナーライブの時間です! ウィナーライブを行うのは、ルージュ&ノワールの天使歌羽です!』
観客のボルテージが、試合を応援していたときとは別のベクトルであがる。
ハナはセイラの実況を聞いて、たっきゅーと!にはライブがあったことを思い出す。
『たっきゅーと!では試合に勝利したアイドル、チームによるウィナーライブが行われます。それではシングルス1の勝者、天使歌羽によるウィナーライブ。曲は「天使と小悪魔」です!』
会場内の明かりが落ち、観客のペンライトが光出す。ピンクと白と紫に光る会場内はとても綺麗だった。
そして、スクリーンには可愛らしい天使と悪魔のアニメーションが映し出される。それと同時にどこかアンニュイな曲のイントロが流れる。
スポットライトが点灯し、ステージの中央にいたのは歌羽だった。左手にマイクを持ち、音楽に合わせて身体を動かす。
歌羽のウィナーライブが始まる。
可愛い天使にもいたずらっぽい小悪魔にもなる。そんな女の子の気持ちを歌った歌詞。少し背伸びしたくもなり、甘えたくもなる女の子の複雑な気持ちを、歌羽はダンスと歌で表す。
歌羽の歌声は曲のタイトルのように天使のように優しく響き、小悪魔のような大人っぽさ、可愛さを感じさせた。
ハナは歌羽から目を離すことができなかった。気づけば最初、メグムに合わせて振り続けていたペンライトを、ハナは床に落としてしまっていた。
それほどまでに、歌羽のライブに魅了されていた。ライブだけではない、天使歌羽という人物の姿に。
(さっきまであんなに激しい試合をしていたことなんて、まったく感じさせない……!)
それだけではない。あの卓球の技術、歌とダンスを完璧にするために、どれだけの練習を歌羽は行ったのだろう? その途方もない努力に、ハナは感動した。
(これが、たっきゅーと! メグムが目指しているアイドルの姿)
歌羽のウィナーライブが終わる。そして、歌羽は叫んだ。
「たっきゅーと!は最高の~」
そして、マイクを観客席に向ける。すると観客から大きな歓声が返ってくる。
「エンターテインメントです!」
歌羽は観客の反応を見て、笑顔を見せる。
「みんなありがとう~!」
目の前で行われた一つの最高のたっきゅーと!に、観客からの歓声と拍手が収まらない。
その拍手を聞きながら、ハナにある考えが浮かぶ。
セイラの進行が響き、たっきゅーと!の試合は続いていく。ハナはたっきゅーと!の試合に魅了されながらも、別のことを一人考えだした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます