4話 新旧エース対決!
会場の明かりが消え、巨大スクリーンに今回のたっきゅーと!における注意書き、スポンサー等が映される。その映像が終わると、
『ようこそ皆さま! 本日は最高のエンターテインメント、たっきゅーと!の試合におこし頂き、誠にありがとうございます! 私は本日のたっきゅーと!の進行、実況を務めさせて頂くセイラです! よろしくお願いします!』
スポットライトに照らされ現れたのは、とても綺麗な女の人だった。元気よく動くたびに、長いポニーテールが大きく揺れる。観客から、セイラ! という歓声が沸く。
『歓声ありがとうございます。私が長話をしてもつまらないでしょうから、サクッと本日の主役の方たちに登場してもらいましょうか! 選手入場です!』
そうセイラが告げると、スポットライトの明かりが落ち、会場内は観客のペンライトのみになる。ハナはメグムからペンライトを受け取り、嬉しそうに明かりをつける。
『まずはたっきゅーと!王者である、ルージュ&ノワールです!』
巨大スクリーンに、ルージュ&ノワールのアイドルたちの映像が流れるとともに、ステージにライトが当てられ、煙が立ち込める。その中から、ルージュ&ノワールの六人が現れた。赤と黒を基調とした大人っぽいバラのドレス。優雅にステージを歩く。
「すごい……綺麗……」
隣で大きな歓声を送っているメグムとは対照的に、ハナはその容姿の素晴らしさに声を失ってしまった。
(でも、こんなに綺麗な、まさにアイドルって感じの人たちが、卓球が強いの……?)
そう不思議にも思った。
『続きまして、王者に挑戦するのは、最強の中学生たち! フラワーギフト学園です!』
セイラの進行に合わせて登場したのは、淡い花色の制服に身を包んだ六人だった。巨大スクリーンには、フラワーギフト学園の映像が映し出されている。その姿はルージュ&ノワールのアイドルたちと比べると、どこか幼く見えた。
(わぁ。可愛い制服。本当に中学生なんだ)
それでも、アイドルであることには変わりない。全員堂々とした様子で登場する。
ステージ上にルージュ&ノワール、フラワーギフト学園のアイドル、計十二人が並ぶ。
『さぁ試合前に両チームのアイドルから意気込みなどを聞いていきましょう!』
セイラは進行に合わせて、アイドル一人一人に話を聞いていく。
そんな中、ハナが注目していたのは、先ほどメグムの話に出てきた、天使歌羽と茉子シュバインシュタイガーだった。
「ルージュ&ノワールに加入することができて、こんなに早くフラワーギフト学園と試合をする機会があるとは思っていませんでした。ふふ。可愛い後輩たちを手籠めにとってあげようと思います!」
小悪魔のような笑みを浮かべ、ウインクをする姿がスクリーンに映し出されたのは天使歌羽。大人っぽさと子どものようなあどけなさを残した顔立ちに、美しい長髪。そして、観客を魅了するスタイルに、ハナは思わず頬を染めてしまう。
(うう。なんだか、すでにファンになっちゃいそう)
ハナは恥ずかしくなり、胸を両手で押さえる。ドキドキと心臓が鼓動している。
「たっきゅーと!の王者であるルージュ&ノワールと試合ができて嬉しく思います。特に先輩には勝ち逃げされてしまっているので、ここで一つ、手荒い再会の歓迎をしてあげられたら思います」
そう対抗心のこもった言葉を残したのは、茉子シュバインシュタイガー。切りそろえられた日本人形のような美しい髪を簪で結っている。瞳の色は碧く、凛とした顔立ちと雰囲気が和と洋の風格を漂わせる。
「ねぇ、メグ。シュバインシュタイガーってことは、どこかの国のハーフさんなの?」
隣で興奮して歓声をあげているメグムに、ハナは素朴な疑問を口にする。
「うん! 茉子さんは、日本人とドイツ人のハーフさんだよ。幼いころドイツで暮らしていて卓球を始めたんだけど、日本で暮らすようになってから日本文化に影響を受けて、たっきゅーと!にも興味を持ち始めたみたい!」
「そうなんだ! すごく綺麗な人だね!」
ハナはいまスクリーンに映し出されている茉子シュバインシュタイガーが、自分と年齢が二つしか変わらないことに驚いた。
(私も後二年したら、あんな風に綺麗になれるかなぁ)
アイドルの意気込みはセイラの進行によりどんどん進んでいった。
ハナはいままでテレビでしか見たことのないような容姿と雰囲気を併せ持つアイドルたちに、感動しっぱなしだった。それだけでもう疲れてしまうくらい。
『では、アイドルたちからの意気込みが聞けたところで、さっそく試合の方に移りましょうか! 今回の試合は4シングル・1ダブルスの5回戦となります! 5セットマッチ3セット先取で行われ、先に3勝をあげたチームの勝ちです! 試合の勝敗が決まった後でも、全ての試合は行われますので安心してください!』
セイラの進行に観客から歓声が起こる。
(もうすぐ、試合が始まる……!)
アイドルたちがどんな試合を見せてくれるのか、ハナも歓声を聞いて気持ちが高ぶっていた。
『それでは事前に提出していただいたオーダーから、シングルス1の対戦相手を発表したいと思います! シングルス1と言えば、お互いの矛先を最初にぶつけ合うエース対決が期待されるところですが、今回の対戦は……、おおっと、これは楽しみですね! 発表します!』
会場全体の明かりが消え、スクリーンに二つのシルエットが映し出される。
『ルージュ&ノワール、天使歌羽!』
セイラの進行とともに、スクリーンに歌羽が映し出される。すると、同時に体育館が大歓声に包まれる。
『フラワーギフト学園、茉子・シュバインシュタイガー!』
そして、次に茉子がスクリーンに映し出された。それと同時に、いままでで一番の歓声があがる。
「ハナ! すごいよ! フラワーギフト学園の新旧エース対決が本当に実現したよ!」
「わわ、メ、メグ痛い」
メグムは興奮して、隣に座るハナに抱き着く。そのメグムの様子と会場の雰囲気から、何かすごいことが起きたんだろうなとハナは感じていた。
『本日会場にきているファンの方、ネット中継をご覧の方、そして、私を含めとても運がいいです! フラワーギフト学園の新旧エース対決! しっかりと見届けましょう! それでは、ドレスタイムです! 二人とも準備をお願いします!』
セイラがそう言うと、歌羽と茉子はステージにあがり、お互い上手下手のそでに入り、姿が見えなくなった。
「あれ、ドレスタイム? いまから試合をするんじゃないの?」
「あのドレスと制服じゃ試合はしないよ。ドレスタイムで専用のユニフォームに着替えるんだよ」
「あ、それもそうか!」
確かにルージュ&ノワールのアイドルが着ているドレスでは、動きづらそうだとハナは思った。フラワーギフト学園の制服も、スカートだから激しく動くのは危ない。
「ハナは、たっきゅーと!のユニフォームドレスを見るのは初めて?」
「? たぶん初めてだと思うけど。どうして?」
「えっへへ、それじゃ少しびっくりしちゃうかもね」
不思議そうな表情を浮かべているハナを見て、メグムはくすくすと笑う。
『それでは、両アイドルのドレスアップが完了したみたいです! 登場して頂きましょう!』
セイラの掛け声に合わせて、スクリーンに歌羽の名前が浮かび上がる。
そして、天使歌羽がステージに現れた。
ピンクを基調としたワンピースタイプのユニフォームが、白と黒のレースに優しく包まれている。ふんわりとした背中には白と黒の可愛らしい天使の羽がついている。
長く柔らかそうな髪は、競技に邪魔にならないように、音符の髪飾りで一つにまとめられている。天使のような優しさと、小悪魔のようないたずらっぽさを残した、歌羽によく似合ったユニフォームドレスだった。
「す、すごい可愛い……! でも、あの衣装で試合をするの??」
確かにとても凝ったデザインではあるが、普通の試合用のユニフォームの方が動きやすいのではないかとハナは思った。
「えっへへ、最初はそう思うよね。でも、たっきゅーと!のユニフォームドレスは、デザインはもちろん、機能性も専用アイドルのために作られているから、その辺の心配はいらないんだよ!」
歌羽はファンの声援に手を振って応えながら、ステージをランウェイのように歩く。そして、競技場の中央に置いてある卓球台につく。
すると、次にスクリーンに名前が映し出されたのは茉子。はんなりとステージに現れる。
茉子のユニフォームドレスは、緑と白で和を表現した着物のようだった。腰は帯に包まれ、健康そうな手足が空気に触れる。茉子の美しい黒髪と相成って、大和撫子を連想させる。
茉子は優雅にステージを進み卓球台につく。とても中学生には見えない貫禄だった。
『さぁ、いまから二人は試合前の練習を行いますが、そのうちに注意事項と簡単なルール確認を改めて行いましょう!』
歌羽と茉子がラリーを始めると、セイラがステージに立った。
『試合中は、競技が行われている間の応援をお控えください! 得点が入ったときなどに声援を送るのはおっけーです! 卓球は簡単にいえば、相手のコートにピンポン球を打ち込む競技です! サーブのときだけは、最初に自分のコートに弾ませないといけないことだけお忘れなく! 1セットは11ポイントで獲得できます! それを3セット獲得したアイドルの勝利です! そして、もちろん、たっきゅーと!独自のアイドルボールがあります!』
セイラがそう説明をしていると、二人は練習を終えたようで、台の前まで進み、お互い向かい合う。
『おっと、練習が終わったみたいですね! 細かいルール等につきましては、実況を踏まえながら、私セイラが解説していきます!』
歌羽と茉子はお互いにラケットを渡して、相手のラケットを確認するラケット交換を行う。
「お互い変わりなし、ね。こんなにすぐにトラちゃんと試合することになるとは思わなかった」
「トラちゃんはやめてください歌羽さん。いつも通り全力でいかせてもらいますね」
「もう、その真面目なところも変わってないね。ま、変わるわけないか、卒業してからまだ一ヵ月もたってないからね。卒業式のとき泣いてくれたトラちゃんが懐かしいね」
「ここで、その話はやめてください、試合前ですよ! でも、やっぱり嬉しいです。またたっきゅーと!で向かい合えて。負けませんからね」
「うん。じゃあ始めよっか。最高のエンターテインメントを、ね」
二人はお互いにラケットを返し、卓球台に着く。サーブ件は茉子から。
『それではルージュ&ノワール対フラワーギフト学園のシングルス1、天使歌羽と茉子シュバインシュタイガーの試合を始めます!』
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