3話 たっきゅーと!開幕!

 四月になり、ハナとメグムは小学校六年生になった。無事同じクラスになることもでき、二人は学校生活と卓球の練習に励んだ。


 そして、待ちに待った地元の総合体育館で行われるたっきゅーと!の開催日を迎えた。


「着いた~! わぁ、もう人がたくさん!」


「あ、ハナ! 走らないで!」


 ハナとメグムは時間に余裕を持って総合体育館にやってきた。それなのに、もう多くの人が集まっている。


「ねぇ、メグ。あそこに並んでる人たちは何をしてるの?」


 ハナは総合体育館の入り口とは少し離れたところに、列を作って並んでいる人たちを見つけ、指をさす。


「あれはグッズ販売の列だね。うちわとか、ペンライトとか、いろいろ売ってるんだよ」


「へぇ~そうなんだ。メグは何か買わなくていいの?」


 メグムはたっきゅーと!の大ファン。何か欲しいものがあるのではないか。そう思いハナは尋ねる。


「ううん、大丈夫だよ。今日はハナをエスコートしなきゃだしね」


「え、そんな、私に気を使わなくっていいんだよ?」


「えっへへ、ありがとう。でも大丈夫だよ。今回、地域限定のオリジナルグッズはないみたいだし……」


 そう言いながら、メグムは持ってきたカバンの中から大量のグッズを取り出す。


「今日必要なグッズはもう全部持ってきてるから! ハナのもあるから心配しないでね?」


 メグムはとても嬉しそうにグッズを広げる。


「あはは、ありがとうメグ」


 ハナは少しメグムのたっきゅーと!オタクっぷりに圧倒されながらも、一つのグッズが目にとまる。


「あ、これ可愛い!」


 それは、卓球のラケットをモチーフに作られたうちわだった。よく見ると赤い面に、ルージュ。黒い面にノワールとプリントされている。


「るーじゅ、のわーる? これはどういう意味?」


 ハナはそこに書かれている言葉の意味がわからず、頭を傾げる。


「ルージュ&ノワール。それはね、今日たっきゅーと!を行うチームの名前だよ!」


「なるほど、チーム名なんだ! へぇ~」


 メグムはハナの様子を見てにっこり笑う。


「そうだね、ハナはたっきゅーと!のこと、詳しくは知らないんだったね」


「え、うん。ごめん……」


「謝らないで! 私のわがままで一緒にきてもらってるのに! でも、今日はたっきゅーと!についてたくさん知って帰ってもらうからね」


 えっへへ、とメグムは笑う。


「じゃあ、少し早いけど、会場入りしよう? 席についてから、たっきゅーと!について少し解説させて! 今日試合するチームのこととかも!」


「本当? ありがとうメグ~」


 総合体育館の入り口に向かうメグムに、ハナは嬉しそうについて行く。


 総合体育館の中は、壁に卓球をイメージしたイラストがプリントされていたり、多くの花飾り等、装飾が施されていた。


(私たちがいつも使ってる体育館じゃないみたい)


 今日たっきゅーと!が行われるのは第一体育館。この体育館では、多くの地元の室内スポーツ大会が行われている。ハナとメグムも何度かこの第一体育館で行われる大会に参加したことがある。


 第一体育館は一階と二階で構成されている。一階が競技スペース、二階は競技スペースを囲うようにコの字型に用意された観覧席六百席で成り立っていて、応援や試合前の選手の準備などが行われているのが、いつもの大会等の光景だ。


「わ、すごい!」


 靴を室内履きのシューズに変え、第一体育館に足を踏み入れたハナは、驚きの声をあげる。いつも競技が行われる一階にも、パイプ椅子が並べられている。そして、競技スペースの真ん中に一台の卓球台がすでに用意されており、その後ろには大きなスクリーンやステージ、音楽機器、照明が設置されていた。


 普段では用意されていない装置。そこから軽快に音楽が流れている。


(すごい……! いつもと全然違う! あのスクリーンにも試合が映し出されるのかな?)


 ハナは会場の光景、そして、雰囲気を感じるだけで、わくわくが止まらなかった。


「ねぇメグ! 私たちの席はどこ! もしかして、一階の席!?」


 一階ならすごく近くで卓球の試合が見られる。ハナはドキドキしていた。


「えっへへ、残念ながら二階席。それでも十分見えるから大丈夫だよ」


「そっか~」


 ハナは少しがっくりしながらも、いつもの大会を思い出す。二階席から、一階で行われている試合を、不自由なく観戦することができていた。それなら今回はスクリーンもあるし、十分に見られるはず。


 ハナは一瞬で立ち直り、チケットに書かれている自分たちの席を探した。


 無事に自分たちの席を見つけると、ハナとメグムはゆっくりと腰を下ろす。二階席ながらも最前席。試合がとても見やすく、ハナはとても満足した。


「えっへへ、それでは、甘美メグムの、『今日のたっきゅーと!講座』を始めようかな」


「わぁ。お願いします、メグム先生!」


 メグムは少し誇らしげに胸を張る。先生と呼ばれてまんざらでもない様子だ。


「まず、今日行われる試合は、たっきゅーと!のリーグ戦とは関係ない、興行を意識した練習試合、プレシーズンマッチとなります。といっても、試合を行うのは一部リーグの二チーム! 注目の試合であることに違いはありません!」


「はい、メグム先生質問です!」


 ハナはまるで学校の授業のように元気に挙手をする。


「どうぞ、ハナさん」


「たっきゅーと!のリーグ? 一部とかどういうことですか? 二部もあるの?」


「いい質問ですね。ハナさん」


 メグムはパチパチと少し大げさに拍手をする。


「たっきゅーと!のリーグは、大きく、一部と二部で構成されています。一部リーグは現在六チーム所属していて、毎年優勝を争っています。二部リーグはたっきゅーと!のアイドルなら誰でも参加可能の自由リーグです。現在各地から多くのチームが所属し、一部リーグに参加するために切磋琢磨しています」


「どうすれば一部リーグに参加できるの?」


「二部リーグのチームに優勝という概念はありません。お互いに自由に試合を行い、条件をクリアし、人気を獲得することができれば、一部リーグに所属することが可能になります。他にも一部、二部関係なく。たっきゅーと!の頂点を決めるプリンセスカップなどがあります」


「プリンセスカップは聞いたことあるかも! なるほど、リーグについては少し難しいね」


「簡単に言えば、一部はプロチームが所属。二部はアマチュアチームが所属するって考えるといいかも!」


「はい、よくわかりました! メグム先生!」


 ハナは敬礼のポーズをしてメグムに頭を下げる。メグムはそれを見てうんうんと頷いている。


「えっへへ、では話を戻すね。今日行われる試合は、一部リーグに所属する『ルージュ&ノワール』と『フラワーギフト学園』のプレシーズンマッチになります」


「え、フラワーギフト学園って、メグが言ってたところ? 一部リーグにいるの?」


 ハナは、唐突に出てきたフラワーギフト学園に驚く。


「そうだよ、フラワーギフト学園は、特例でたっきゅーと!の強化のため、一部リーグに所属させてもらえてるんだ! フラワーギフト学園の中でも、実力がトップクラスのレギュラーだけが、一部リーグの舞台に立てるんだよ!」


 一部リーグに所属しているということは、中学生にして、プロである他のチームとも試合ができるということだ。


 ハナはごくりと唾をのみ込む。


 その様子を見て、メグムは笑う。


「フラワーギフト学園の中でも、二年生でエースの座を掴んだ、茉子シュバインシュタイガーさんには注目だよ! 卒業と同時に、プロチームで争奪戦になるって言われているんだ!」


「プロで、争奪戦……!」


 自分で卓球をすることが大好きだったハナは、日本国内で誰が何番くらいに強いとか、そういったデータには疎かった。そしていま、自分がいままで知らなかった卓球の世界があるということを改めて知った。


「じゃあ、ルージュ&ノワールっていうチームはどんなチームなの??」


 そうハナが聞くと、メグムは不敵に笑いだした。


「ふふふっ。よくぞ聞いてくれました! ルージュ&ノワールはね、去年のたっきゅーと!一部リーグの優勝チームなんだよ!」


 メグムは急に立ち上がり、熱く語り出す。


「去年だけでも優勝チームなのに、今年はフラワーギフト学園の一期生であり、去年までエースだった、天使歌羽さんが加入! しかも今日の試合では、現フラワーギフト学園のエースである、茉子さんと試合をする可能性があるの! 新旧フラワーギフト学園のエース対決が見られるかもしれないと考えると……えっへへ、すごいでしょ!」


 メグムは興奮して一気にまくしたてる。ハナはその様子に圧倒されていたが、周りでその話を聞いていたお客さんからパチパチと拍手が生まれる。


「ご、ごめん。私ったらまた興奮して……」


 メグムは周りの様子に気づくと、我に返り、恥ずかしそうに席に座った。


「大丈夫だよ、メグ! なんかすごい試合があるかもってことだけは伝わったから!」


 ハナは、少し、しゅんとしてしまっているメグムを励ます。


「優勝ってことは、今回の試合は、ルージュ&ノワールの方が一応各上ってこと?」


 ハナは素朴な疑問を口にする。


「うん、そうだよ。今日はチャンピオンであるルージュ&ノワールに、フラワーギフト学園が挑戦者として挑む形になる見通しかな」


「王者に挑む、かぁ。なんかかっこいいなぁ」


 ハナはメグムの話を聞いて、試合がさらに待ち遠しくなった。


(プロチームの人は、どんな卓球を見せてくれるんだろう? フラワーギフト学園の人たちもそこまで私と歳は変わらないはず。やっぱり強いのかな?)


 ドキドキ、わくわく、そわそわ。ハナは試合が始まるまで落ち着いていられないといった様子だった。そんなハナの様子を見て、メグムは嬉しくなって思わず笑ってしまった。


 そして、試合の時間がやってきた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る