第5話微かな違和感

 家に帰ると私は真っ直ぐに自分の部屋に向かっていき、疲れのあまりベッドに身を預けた。

 まだまだ遊べると思っていたのに一人になった途端に疲れがどっと湧くから不思議なものだ。


 今日は疲れたな…それと同時に凄く楽しかったな。

 何よりみんな綺麗だったな。地味な私が霞んでしまうくらいに。

 一翔と五郎って彼女とか居るのかな…なんてことを考えてしまう。

 居てもおかしくないよな。あれだけかっこいいのだから。きっと可愛い彼女が隣に居るはずだ。


 バッグからスマホを取り出して真っ先にグループチャットを確認する。


「明日美︰今日は本当に楽しかった!またみんなで行こうね!」


「千夏︰人生で1番楽しかったかもしれない笑あとわざわざお菓子まで買ってくれてありがとう優香!」


「一翔︰今回は参加して本当に良かったと思っている。あと五郎も同じこと言ってたよ。」


「須実︰みんな今日はありがとう!」


 やはりみんなからメッセージが来ていた。私は直ぐにメッセージを打ってみんなに返信する。

「優香︰疲れちゃったけれど楽しかった!でもまだまだ遊べたかもしれない笑」

 返信をみんなに送ってから、一旦グループチャットを閉じてSNSを開いてみる。

 すると誰かからフォローされているみたいだ。通知欄を見てみると、ユーザー名は「sumi」と表示されてあった。

 きっと須実に違いない。私は直ぐにフォローを返す。投稿内容を見てみると、私が須実に買ってあげたヘアブラシの写真がアップされていた。

「友達が買ってくれた!大事に使うね!」

 という投稿と共に。私はその投稿にいいねを押し、リプを送る。

「気に入ってくれたみたいで良かった!」


 それからは冷蔵庫に入ってある晩御飯を食べてからお風呂に入る。

 両親は共働きで家に居ない日が多いから基本的に自分のことは自分でやらなければならない。

 小学校の中学年の頃までは母親が仕事から早く帰って来てご飯を作ってくれたけれど、高学年以降は母を説得して、仕事に集中してもらうようにした。

 流石にこれ以上親に世話をかけることは出来ない。

 両親は病院で働いているから、私のことなんかよりも仕事に集中してもらいたいから。


 部屋に戻ってスマホを確認すると、私が須実に送ったリプに返信が来ているみたいだ。

「本当にありがとう!使い心地も抜群だよ。」

 と。それならば良かったと思いながら須実のリプライにそっといいねを押した。


 もう時刻は11時になっていた。目覚ましを6時半に設定してから眠りにつく。

 目を瞑ると、私の意識は段々と微睡みに落ちていった。


 次の日、教室に入ると須実がまたあの時みたいに机の前に呆然とした様子で立ち尽くしているのが目に入る。

 彼女の机の上はビリビリに破かれた紙が沢山散乱しており、見るも無惨な有様になっていた。

「須実ちゃん大丈夫?」

 私は彼女に声を掛けると机の上に散乱している紙を小さな箒とちりとりを使って綺麗にしていく。

 また小百合に悠里、笹江の3人の仕業だろう。なんで凝りもせずにこんな陰湿な事が出来るのだろうといつも思う。

 私はこんな事を平気でする小百合達の事を心の底から嫌っていた。

「いつもありがとう。」

 須実が小さな声で私にお礼の言葉を述べてくる。

「構わないよ。何かあったらいつでも言って。チャットでも電話でもいいから。」

 私は精一杯の笑顔を作ると、須実にそう言った。愚痴を聞いてあげることで少しでも心が軽くなるのならば喜んで彼女のために時間を使ってやろうと。


 この日は昼食を取ってから下校するという短縮授業だった。

「ねえ優香、今日帰りに公園に寄らない?もちろん須実ちゃんも誘って。」

 リュックを背負って帰ろうとしていると千夏が呼び止めてくる。

「うん。いいよ。どうせ家に帰っても1人だから。」

「良かった。明日美ちゃん達も来るけれど大丈夫?」

「全然大丈夫だよ。寧ろ来て欲しいくらい。」

「じゃあ一緒に公園に行こうか。」


 それから私と須実と千夏の3人で公園へと向かう。

 公園には既に明日美と一翔、五郎が来ていた。

「あっ!千夏姉にゆう姉!」

 明日美が人懐っこい笑みを浮かべながら私と千夏に抱きつく。

 それにしても明日美達3人はいつも待ち合わせ時間よりも早めに来ているみたいだ。10分前行動が当たり前なタイプなのだろうか?

「公園で何をしようかしら?」

 千夏が何かみんなで楽しめることはないかと考えている最中に須実が口を開く。


「ねえ、公園に居たって暇なだけだからみんなでカラオケに行こうよ。」

 カラオケなら昨日行ったばかりじゃないかと誰もが思っている中で須実が続ける。

「千夏も優香も一翔も明日美も五郎も公園にばかり行って馬鹿じゃないの?」


 須実の言葉にその場に居た全員が唖然とした。困り果てた千夏が

「じゃあみんなでカラオケに行こうか。私も優香も明日美も一翔も五郎も一応お金を持ってきているから。」

 カラオケの料金はフリータイムで一人550円。私は今1200円持っているから余裕で行ける。

 すると、明日美が須実に

「ねえ、須実ちゃん、ちゃんとお金は持ってる?」

 と尋ねる。須実はムスッとした様子で言った。

「お金なんて優香が出してくれるからいい。」

 私はもちろん、明日美も千夏も一翔も五郎も思わず呆然としてしまう。


「佐藤ちゃん、昨日から思っていたけど人に払ってもらってばかりはよくないと思うよ。」

 一翔が須実にやんわりと注意する。続いて五郎が

「少しは遠慮をするべきだと思うが…。」

 と言うが当の須実は知らん顔。

「なんで?優香が払ってくれるんだから別にいいじゃん。」

 ごめんの一言すら言ってくれなかった。須実のカラオケ代を私が全額負担するのは可哀想だと思ったのだろうか?

 千夏と明日美、一翔と五郎がそれぞれ負担してくれたおかげで私は110円くらいの負担で済ますことができた。


 けれど、千夏達4人に110円ずつ負担させてしまったから凄く申し訳ない。

 それに須実は「連れが負担してくれるから」と店員に行って先に帰ってしまったし。

 帰り道で私は千夏達に何度も何度も謝った。

「本当にごめんね。なんだか無駄にお金を使わせちゃったよね。」

「別にいいわよ。たった110円の負担だもの。誰一人何とも思ってないわよ。」

 千夏の言葉に明日美と一翔と五郎が静かに頷く。それがどれ程ありがたかったことか。それと同時に申し訳なさでいっぱいになってしまう。


 家に帰り、スマホでSNSを確認すると案の定須実が呟いていた。

「カラオケに行った!友達が奢ってくれたから嬉しい!」

 私は仕方なくそのつぶやきにそっといいねを押した。

 明日が祝日だったのが幸いだ。明日は何も考えずにゆっくりと休もう。








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