第17話 尊き人

「不安定?」

 意外な言葉だった。彼女ほど安定した人もいないだろうと思ったからだ。ベルさんには人を惹きつける魅力がある。それが不安定な要素だとは到底思えなかった。

「ああ、そうだ。あれはまさに狂気と言ってもいいほどの何かだ。奴の抱く想いは危険すぎる。実際、無実の人間を大勢殺してしまっている」

「無実の……人間……!?」

 私は耳を疑った。彼女は仲間を救うために戦っていた。それなのに、その彼女が無実の人間を殺した?

「奴の想いは、自分にとって尊き人を絶対に守ると言うものだ。それは逆に言えば尊き人を傷つけるものは全て排除するということでもある」

 支部長の言葉を聞いて、先ほどまでとは違う不安に襲われる。これはあのとき、みんなとやっていけるのかと思ったときの不安に似ている。

「まあ、幸いにも君は尊き人の側に分類されたようだ。君なら奴のリーダーになっても問題はない」

「尊き人の側って……私、別にベルさんと何もやっていないですよ……」

 私の問いに支部長は眼鏡をクイっと上げて答える。

「尊き人とは何も自分と関係のある人間だけを言うわけではない。奴の価値基準で生きるべき人間のことを尊き人と認定しているにすぎないのだよ」

「ベルさんの価値基準で……ですか……」

 それはつまり、私はベルさんから見て価値ある人間に見えたと言うことだろうか? あんなにも役立たずで、足を引っ張ってただけの私が?

「まあ、ともかくそう言うことだ。ベルに尊き人と認定され、コミュニケーション能力もある程度はある。それに四人の中で想いが最も安定しているのは君だ。君以外に113スクワッドのリーダーを任せられないのだよ」

 私は俯きながら考える。確かに彼女の言う通り、私以外に相応しい人は誰もいないように思えた。でも、私だってまだ十七歳の最近入ったばかりの新人に過ぎない。これはただの消去法だ。ベルさんは危なすぎる。レンさんとミオちゃんはコミュニケーションに難がある。それで最低限リーダーとしての適性がありそうな私が選ばれただけだ。本当に最低限。

「わかり……ました。やらせていただきます」

「そうか。それは良かった」

 それでも、最低限の私でもやるしかない。戦い続けるにはリーダーが必要だから。

「では、あとは任せたぞ。リーダーと言っても形だけのものだ。あまり気張らなくても良い」

 それだけ言って彼女は部屋から出て行ってしまった。

 部屋に一人取り残される。

「はぁ……」

 思わずため息が漏れた。これからのことを考えると気が重い。でも、やらなくちゃ……。

 私は自分の頬を叩く。そして、気持ちを切り替えた。

「やるぞー!」

 声を出して自分を鼓舞する。

 ベッドから起き上がると私は医務室を後にした。

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