第8話 蓮

「遅い!」


 私は第一格納庫でペチュニアから叱責を受けた。


「す、すいません……」


 私は頭を下げる。

 ペチュニアは腕を組んでこちらを睨んでいる。怖い…‥


「まあまあ、ペチュニアさん。初陣なんだし大目に見てあげようよ」


 そう言ってペチュニアを宥めたのは、ベルだった。


「はあ、次からはもっと早くしてね。いい?」

「はい……」


 私は消え入りそうな声で返事をする。ペチュニアは食堂の時とは違って真剣な表情でこちらを見つめている。


「さてと、今日はエフェメラルの初任務だ。まあ、あんまり緊張するな」


 ルルが笑いながら話しかけてきた。


「はい……」

「大丈夫。言ったでしょ、ボクが守るから」


 隣にいるベルが優しく語りかけてくれる。


「あ、ありがとうございます……」


 しかし、それでも私は不安だった。正直、私なんかが生きて帰れるか分からない。


「よし。全員乗れ」


 ペチュニアさんが全員に指示を出す。

 私たちは目の前にある、タンカラーの装甲が分厚い車に乗り込んだ。

 車内は静寂に包まれていた。みんなの装備を見てみると。私とは違った。

 ペチュニアさんとルルさんはかなりの軽装だ。防具はリグのみで、腰にはナイフとハンドガンがぶら下がっているだけ。

 一方ベルさんの装備は重そうだ。シルバーのプレートを全身につけており、背中には大きな盾を背負っている。もし私が装備したのなら動くことすらでき無さそう。

 ミオさんはなんと言うか……さっきまでとの違いがわからない……パーカーの中に何かあったりするのだろうか?

 そして、初めてみる人が一人。おそらくあいつさんだ。彼は黒いコートを着ており、ガスマスクをつけているため顔はよく見えない。ただ、その体格から男性だということはわかる。背中には黒いゴツゴツとした大剣を背負っている。なんとなくだが、強そうだ。


「じゃあ、出発するぞ」


 車が動き出す。目的地までは車でニ時間かかるらしい。それまでは暇だ。


「あの……」


 私は思い切って口を開いた。


「ん? どうした?」


 ルルがこちらを振り向く。


「えっと、ミスティックってどんな姿なんですか?」

「なんだ、そんなことも知らねえのか」

「はい……」

「はあ……仕方ねえな。教えてやるよ」


 ルルは溜息をつくと話を始めた。


「奴らの姿は、基本的に寄生したものに依存する。植物だったらウネウネとした触手みたいなやつになったりするし、犬だったらケルベロスみたいな奴が生まれたりする。ただ、人間は例外らしい。人間の場合は予想もつかない異形の怪物になることが多い」

「へぇー」

「お前もそうなりたくなかったら、霧が濃いところでマスクをつけなかったり、傷を露出したりはしないことだな」

「はい」


 私は素直に返事を返す。


「ところであなたは……」


 再び黒コートの人に視線を戻す。


「俺のことか?」

「はい」

「俺はレンだ。天宮レン。おまえの護衛をすることになっている。よろしく」

「はい。よろしくお願いします」


 私はぺこりと頭を下げた。

 そういえば護衛なんて話しもあったなぁ。二人いるって話だったけど。もう一人はだれだろう。私は車内をキョロキョロと見回す。


「もしかして護衛が誰か探しているのかな? それだったらボクだよ。言ってなかったっけ?」


 そう言って微笑みかけてくるのはベルだ。


「えっ、そうだったんですか⁉︎」

「うん。ボクが君を守るよ」


 彼女は優しい笑顔を浮かべる。


「あ、ありがとうございます……」


 私は顔を赤らめて俯いた。


「話しててもいいけど、着いた頃にはもう疲れましたはやめろよ。奴らとの戦いで足を引っ張られたりしたらたまったもんじゃない」


 ルルが厳しい口調で言う。


「は、はい」


 私は慌てて姿勢を正す。


「まったく、ルルは心配性だなあ」


 ベルが苦笑しながら言う。


「うるせえ。いいから、休んどけ」

「は〜い」


 ベルが間延びした返事をしたのを最後に車内は静かになった。

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