第7話 出撃の前に

「うぅ……」


 私は武器庫で装備を整えていた。


「一体何を持っていけばいいんだろう……」


 拳銃を片手に悩む。こんな小さい銃でミスティックを倒せるのかな。そもそも、私に扱えるのかな……。不安は尽きなかった。


「おいっ!」

「ひっ!」


 突然後ろから声をかけられ、私は飛び上がった。振り向くと、そこにいたのはシュミットだった。あの時は銃を突きつけられて気づかなかったが、改めて見ると薄い黄色の髪の毛とトパーズのような色の瞳がとても綺麗な女の子だと気付く。それどころか、私よりも身長が低いため、かわいらしくすら見える。なんというか、まるでリスみたいだ。


「なんだよ。ジロジロ見やがって」

「あっ、すみません……」

「ふんっ」


 私が慌てて謝ると、彼女は不愉快そうに鼻を鳴らし、私の持っていた銃を取り上げた。


「あっ……」

「てめえ、こんな豆鉄砲で奴らと戦おうとしてたのか?」


 彼女は馬鹿にしたような口調で言う。その態度には腹が立ったが、事実なので何も言い返せない。


「待ってろ。てめえの装備を見繕ってきてやるよ」


 彼女はそう言うと、私の返事を待たずにどこかに行ってしまった。


……10分後


「ほれ」


 彼女は私の目の前に装備一式を置いた。


「ありがとうございます……」


 私はおずおずとお礼を言う。すると、彼女はまたフンッと鼻を鳴らした。


「まずはその洒落た制服を着替えな。そんな服を着て戦場に行ったんじゃあ。一瞬で死ぬぞ」

「えっと……」

「早くしろ!」


 彼女は怒鳴ると、私に無理やり服を押し付けた。私は仕方なくそれを着ることにする。

 生地が分厚い。まるで軍隊が着ているような戦闘服だ。


「よし、似合ってるじゃないか」


 彼女は満足そうに笑った。


「そ、そうですか……」

「ああ、そうだ。次にアーマープレートとヘッドセット。それと靴、それにリグも忘れるな」

「は、はい」


 着替えた勢いのまま、私は急いでそれらを身につける。


「よし、少しは魔法使いっぽくなったな」

「いや、どう見ても、軍隊とか特殊部隊のそれなんですけど……」

「馬鹿言うな! 現代の魔法使いってのはこう言うもんなんだよ!」

「は、はぁ……」


 納得はいかないが、武器のことだけは詳しそうなシュミットが言うのだからそうなのかもしれない……。私は生半可な返事をした。


「あとは……」


 彼女は私をジロリと睨む。


「銃はコイツがいいな」


 彼女が手に取ったのは、一丁のショットガンだった。私はそれにものすごく見覚えがある。


「あ、あの、それって私を撃ったやつじゃ……」

「ああ、そうだ。なんか文句あるか? コイツは私の力作なんだぞ」


 彼女の有無を言わさぬ視線に私は黙り込むしかない。


「銃の扱いは養成所で習っただろ」

「まあ、一応……」

「なら問題ない。奴らは射撃場の的よりでかいからな。大体三メートルぐらいのやつまでならコイツの魔弾で殺せる」

「は、はい」


 三メートルと言われても実物を見たことがないからよくわからない……。でも、私よりは大きいことだけはわかる。それを倒せると言うのだから、強力な武器であることは間違いなさそうだ。


「よし、じゃああとはグレネードにそれと弾と……」


 彼女は次々と必要なものをリグやバックパックに詰めていく。その手際の良さには思わず見惚れてしまう。


「これで全部だな。魔弾は貴重なものだから無駄撃ちするなよ」

「お、重い……」


 20キロ近くありそうな装備に私はよろけそうになる。


「てめえ、その程度の装備でよろめくんじゃねえ。もっと大規模な作戦の時はもっと重くなるんだぞ」

「そ、そうですか……」


 私はげんなりとした気分になった。これからずっとこれなの……


「最後にコイツだ」


 目の前にガスマスクが差し出される。


「これは?」

「霧を直に吸いすぎると奴らの仲間に成り果てるからな。戦場に行く時はソイツを持っていくのが基本だ」

「なるほど……」


 養成所で教わった覚えがある。霧はウイルスにも似た存在で、直に吸いすぎると細胞が感染し、同じ霧に変えられてしまうだとか……。


「まあ、最初は慣れないだろうがすぐに使いこなせるようになるさ」

「は、はぁ……」


 でも、このマスクをつけるとより特殊部隊っぽくなってしまう……。霧が濃いところ以外ではつけなくていいかな……。


「よしじゃあ行ってこい。私の作品たちを無くしたら承知しないからな」


 彼女はそう言って笑うと、私の背中を叩く。


「あ、ありがとうございました……」


 私はお礼を言ってその場を後にした。

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