第5話 ペチュニアとルル
「はあ、武器庫は散々だった……」
前を歩くイリスが溜息を吐く。
「まあまあ、ベルさんはいい人でしたし……」
私は彼女を慰めるように言う。
「そりゃ、いい人だったけどさ……」
「それに、武器庫の案内はしてもらえましたから、良かったです」
「まあ、確かにそうかもしれないけど……。はあ、気を取り直して次行こうか」
「はい」
私たちはエレベーターに乗り込む。
「次はどこですか?」
「んー、ここかな」
イリスはボタンを押す。すると、ガコンッと音がして、エレベーターが動き出した。
しばらく沈黙が続く。
チーンと、目的の階に着いたことを知らせる音が鳴る。
扉が開くとそこには開放的な空間が広がっていた。
「ここは?」
私は目の前の光景を見て尋ねる。そこは今までの無機質な空間とは違い、華やかな雰囲気が漂う場所だった。
「ここは食堂」
イリスが答える。
「食堂?」
「そう。ここの食堂はすごいぞ。何しろ、世界中の料理が食べられるんだ」
「えっ、本当ですか⁉︎」
「ああ、うちは色々な国籍のメンバーがいるからね。彼らに合わせてるんだよ」
イリスが自慢げに言う。
「そうなんですね……」
私は興味深そうに辺りをキョロキョロと見渡す。
カレーやラーメンはもちろん。寿司にフィッシュ&チップスまで。
和洋中の様々な国の料理のお店が並んでいる。
「うわぁ……」
「利用方法は簡単。好きな店で、好きな料理を買って、好きな席で食べる。それだけさ」
「なるほど……」
食堂に並んだ大量のテーブルと椅子が組織の規模の大きさを物語っていた。
「本当にたくさんの席が……」
食堂を一望していると、一つのものが目に入ってそこで視線が止まる。
「…………」
ど真ん中の席でイチャイチャしているカップルがいる。それも普通のイチャイチャではない。一つのドリンクに無理矢理合成した歪なストローを通して、二人で飲んでいるのだ。
「あの、あれは……」
「ああ、あれはアスティのスクワッドメンバーだよ」
「え゛」
私は思わず変な声で聞き返す。
「いや、だから、君と一緒に戦う仲間だってば」
「そ、そうなんですか……」
私は恐る恐る二人に近づく。
「あ、エフェメラルだー。そういえば今日からだっけ」
片方の女性が私に気づいて手を振ってきた。彼女は赤髪のショートカットで、背が高くスタイル抜群だ。胸元の開いたTシャツからは豊かな谷間が見えている。年齢は二十歳前後だろうか?
「お、おはようございます」
私はぎこちない挨拶をした。
「私、ペチュニア=ルーメン。スクワッドリーダーなの。よろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
「ほら、ルルも」
彼女は隣の男性を肘で小突いた。彼はその衝撃で手に持っていたグラスを落としそうになる。
「あ、あぁ、俺はルル=エンティールだ。一応こいつの彼氏だ。よろしく頼むよ」
金色の短髪で色白の青年だ。身長は平均的だが痩せ型なので少し頼りなさげに見える。年齢は恐らく隣の彼女と同じぐらいだろう。
二人は向かい合うように座っており、テーブルの上のカップは空っぽになっていた。
「あはは……よろしくお願いします」
「いや〜しかし……あんたが噂の新入りか……へぇ〜」
ペチュニアがまじまじと私の顔を見つめてくる。なんだか恥ずかしいな……
「エフェメラルは回復の魔法が使えるんでしょ⁉︎ いや〜すごいなぁ、こんな子がうちのスクワッドに入るなんて! いやー、ラッキーだな!」
「あはは……」
私は苦笑いを浮かべる。
「エフェメラルもここに何か食べに来たの?」
「いや、私は案内してもらっていただけで……」
「そうなんだ。じゃあ、一緒にどう?」
彼女はグイッと顔を近づけてきた。
「えっ?」
「そうだな。せっかくだからご馳走するぜ」
「いや、でも……」
「遠慮すんなって」
そう言って彼らは私の腕を引っ張って無理やり近くの店に連れて行った。
「はい、エフェメラルちゃん。あーん」
そう言って、ペチュニアさんはハンバーグをフォークに刺してこちらに差し出してきた。
「い、いえ、自分で食べられますから……」
私は慌てて断る。
「いいから、いいから、ほら、あーん」「あっ……」
私は抵抗虚しく口に運ばれてしまう。
「美味しいかい?」
「はい、とても……」
「あはは、よかった」
そう言って彼女は嬉しそうに笑った。
「い、いや、ちょっと待ってくれよ……」
横で見ていたルルが慌てて口を挟む。
「何よ、ルル。文句あるの?」
「い、いや、俺以外にあーんするのは……」
「別にいいでしょ。相手は女の子だし」
「い、いや、それはそうかもしれないが……」
そう言われると何も言い返せないようで、ルルは口をつぐんでしまった。
「もう、うるさいな。じゃあ、ルルにもやるから」
「えっ、ちょっ、まっ……」
ルルの静止も聞かず、彼女は彼にも同じことをする。
「どう? おいしい?」
「う、うん……うまいよ……」
「そう、良かった」
彼女は満足そうに微笑んだ。
……とても賑やかな人たちだ。少し話しただけでも、疲れてしまうほどに……
本当に彼女たちとやっていけるのだろうか……。私は少し不安になった。
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