第3話 美桜
「ここらへんにいるのかな?」
私はキョロキョロと辺りを見回す。ここは機関の建物内の白い廊下だ。言われた通りに部屋を出てからずっと右に歩いてきたはずなんだけど……案内の人どころか誰ともすれ違わない。
「うーん、誰も居ないなぁ」
本当にこの先に人が待っているのだろうか。不安になってきた。
「もしかして、間違えたのかな……」
私は恐る恐る来た道を戻ろうとした。その時……
「ばあっ!」
「うわっ!」
突然、目の前に誰かが現れた。私は驚いて尻餅をつく。
「あははっっ、驚き過ぎ」
彼女はケラケラ笑っている。
「あははっじゃありません! 心臓止まるかと思いましたよ……」
私は頬を膨らませて怒る。
「あはは、ごめん、ごめん。君があんまりにも可愛い反応するもんだからついね」
彼女は全く悪びれることなくそう言った。
「それより、可愛いパンツ履いてるね。白のレースなんて中々お目にかかれないよ〜」
スカートの中を指差しながら、彼女はそう言ってニヤリと笑う。
「ちょ、ちょっと! 見ないでくださいよ! てか、どこ見てんですか⁉︎」
慌てて両手でスカートを押さえつける。
「そんな大股びらきですっ転んでたらそりゃ見えちゃうよ」
「うぅ……最悪だ」
恥ずかしさで顔が熱い……
「ごめん。ゴメン。でも、元気出たんじゃない?」
「……え?」
「ほら、ここに来た時はすごい暗い顔してたじゃん」
……そう言われれば少し緊張は解けている気がする。
「まぁ、確かに」
「良かった。やっぱり可愛い女の子は笑顔が一番だからさ」
「……でも、それとパンツ見るのは別問題ですよ‼︎」
私は思わず叫んでしまった。
「えー、良いじゃん減るもんじゃないし」
「減ります! 私の尊厳が!」
「えぇ〜、ケチ臭いなぁ」
スカートについた埃を払いながら私は立ち上がる。
「それで……、貴女が私の案内役ですか?」
「そうそう、私が君のガイドを務めることになったからよろしくね」
改めて彼女の方を見てみれば、医者みたいな服を着ていて、身長は私よりも頭ひとつほど小さい。本物の銀のように輝く髪は肩にかかるくらいの長さで、ツーサイドアップに纏められている。そして、吊り目に輝く青い瞳は悪戯っぽい様子でこちらを見上げていた。
「よろしくお願いします……。私はアスティルベ=S=エフェメラルと言います」
「なっが……名前長いよ。アスティでいい?」
「はい、大丈夫です」
「そっか、よろしくねアスティ。私はイリス=ミシェーレ。イリスと気軽に呼んでくれて構わないよ」
そう言うと、彼女……イリスは右手を差し出した。
「うん、よろしく。イリスさん」
私も手を伸ばして握手をする。
「さぁ、それじゃあ早速案内を始めようか。どこか行きたいところはある?」
「えっと……」
私は考える。気になることは山ほどあるけど、とりあえず一番気になっていることはこれだ。
「あの、スクワッドのメンバーに会いたいんですけど……」
「あぁ、いいよ。それならついて来て」
そう言うと、イリスは歩き始めた。私はその後について行く。
「ねぇ、どんな子達が来るのか楽しみ? 男二人と女三人なんだけど」
「え? 男の子もいるんですか? それはちょっと……」
私は露骨に嫌そうな顔をしてしまった。
「あはは、安心しなって。みんな良い奴ばかりだし、全員魔法使いのエリートだよ」
「そうですか……」
魔法使いにも色々といるらしい。でも、ちょっと不安だ。
しばらく歩いているうちに目的地に着いたようだ。扉の上に『第百十三スクワッド』と書かれたプレートが貼り付けられていた。
「さて、着いたよ。各スクワッドには部屋が一つずつ与えられているんだ。そして、この部屋が君達の部屋になる」
「へぇ、広いですね」
扉を開けると、広々とした空間が広がっていた。二段ベッドが三つとそれにテレビや冷蔵庫、パソコンまで備え付けられている。中央には大きなテーブルが存在感を放っていて、それを囲むようにソファーや椅子が置かれていた。
「うーん。やっぱりいないか……」
イリスが部屋の奥の方を見ながら呟く。そこには白い猫耳フードを被った女の子が一人ちょこんと座っているだけで、他に人の気配はなかった。
「とりあえず、あの子を紹介しておくね」
イリスがその子に向かって話しかけると、その子はビクッと身体を震わせてこちらを見た。私も釣られて視線を移す。
「えっと……こんにちは」
「こ、こんにちは……」
その子は消え入りそうな声で挨拶を返した。
「この子が君のスクワッドメンバーの一人、ミオちゃん。まあ、ちょっと内気な子だけど人想いの優しい子だから仲良くしてあげて」
「はい、あ、あの、私はアスティルべ=S=エフェメラルって言います! アスティって呼んでください。これから一緒に頑張りましょう!」
「はい……」
そこで話が途切れてしまう。私は慌てて話のネタを探す。
すると、私は彼女の前のテーブルにノートを発見した。どうやら絵を描いていたみたいだ。そこに描かれたメルヘンな絵柄の蝶々は今にも動き出しそうなほど精巧で上手だった。
「凄い! この絵、とっても素敵だね」
「……え? えっと……」
青色の髪の毛に隠れた、彼女の顔が少しだけ綻ぶのが見える。
「あぁ、ごめんなさい。急にこんなこと言っちゃったらびっくりしちゃいますよね」
「い、ぃえ、大丈夫……です」
「そっか、ありがとう。でも、本当に素敵な絵だね。まるで生きているみたい」
「……」
彼女は何も言わずにただその新緑色の瞳でじっと絵を見つめていた。
「えっと、その、ごめんね」
流石に調子に乗りすぎたかな……と反省していると、彼女は首を横に振った。
「あ、ありがと……ございます」
小さな声だったが、確かに彼女は感謝の言葉を口にした。
「……うん」
「よし、じゃあ、そろそろ次行こうか」
「はい」
私は荷物を部屋に置くと、再びイリスに付いて行った。
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