Episode 1-3 酒場のごろつき

 傭兵団リベルタスのC部隊を襲撃を指示した魔導士はカズの奮戦によって仕留めることができた。その戦いの最中、カズに何かしらの変化が起きたのか、言葉が通じるようになったのである。C部隊は死傷者が出てほぼ壊滅状態だったが、隊長のラウルは一命を取り留めた。彼は責任を感じ、隊長職は辞任する意向を示す。傭兵団団長のリチャードはその無念の気持ちを汲んで、その申し出を受理し、しばらくは砦の警護任務に配属することにした。

 傭兵団の諜報部隊に魔導士が手懐けた野盗の消息を探らせているが、まだ詳細な情報は届いていない。諜報活動はB部隊が受け持つことが多く、彼らが砦に待機することは少ない。

 A部隊の隊長はカインである。彼の希望もあり、新たな戦力としてカズを迎え入れることになり、当面はA部隊に参加することになった。とは言え、意思疎通が可能になったが、記憶のほうは曖昧で、カズがクライナ王国の兵士だったのかどうかは定かではない。彼の兵装がその王国のものだったので、周囲はそんなふうに勘繰った。

 C部隊が無くなったことで、A部隊はその仕事も任されることになった。カインの当面の仕事は武具の調達と物資の調達である。武具の調達は廃墟の散策や野盗狩りで、物資の調達は最寄りの街から必要な物を購入するようにしていた。

 多少、傭兵団に馴染んだカズの仕事は隣街から物資を運送することになった。今回は物資の量を減らし、目立たないように運ぶことに決めた。戦闘力と意味で、カズが適任とされ、その補佐にアシュトンが付くことになった。


 「今回は警護が手薄じゃないのか?」

 カズは疑問を口にしたが、アシュトンがすぐに答えた。

 「いつも、こんな感じだよ。この前のC部隊の運搬は少し離れた街まで商品を届けて、その空いたスペースに食糧などの物資を持って帰るつもりだったんだ」

 「なるほどな」

 「僕が経理を任されることが多くて、お金も管理していたので、あの時、僕を先に逃がそうとしてくれたようなんだ」

 「賢明な判断だな」

 「何か、でも、ちょっと悔しくて」

 アシュトンは傭兵として戦いでも活躍したいという思いが強いのか、時々、戦力として数に入っていないではないかと不安を感じているようだった。

 「まぁ、剣を振るうだけが戦いじゃない」

 「カズみたいに強くなりたいよ」

 「そうか?俺はアシュトンみたいに賢いほうが良いな」

 「無い物ねだりなのかな」

 「そういうことさ」


 アシュトンは商人ギルドに顔を出して、細かい手配を済ませて来ると言った。その際に、カズは街の散策でもしてきたら、何か思い出すかもしれないよ、そう優しい言葉を残して。

 カズは特に目的も無く、街中を歩き回る。街自体はそれほど大きくはないが、それでも非常に活気のあって賑やかである。

 酒場の前を通り掛かった時に、中から騒がしい声が聞こえてきた。揉め事には関わらないように言われているが、店内の様子を窺うことにした。

 「ありがちな展開で」

 カズは思わず言葉を吐く。

 ごろつきが若い女に絡んでいた。彼女は酒場の給仕なのだろう。幼さの残る顔だが、ごろつきには一歩も引かないようだ。

 「いい加減、しつこいわね、あんた達」

 「おっ、こわいこわい」

 三人のごろつきは酔っ払っているのか、明らかに横柄で、その給仕の女を無理矢理抱き寄せようとした。

 酒場のマスターが止めに入るが、ごろつきの一人に突き飛ばされた。

 「マスター、大丈夫」

 「そんな老ぼれ、ほっといて、こっちへ来いよ」

 一番偉そうなごろつきがそんなふうに言った。他の客達は遠巻きにそれを見ているだけだった。

 カズはゆっくりとごろつきのテーブルに近付いた。周りの客が「やめておけ」と囁くが、彼にはその言葉が届かなかった。

 ごろつきとは言え、いきなり斬り掛かるのは、流石にまずいだろうと思った。少し面倒だが、警告くらいはしようと言葉を発する。

 「それぐらいにしておけよ」

 「何だ、お前」

 「引っ込んでろよ、怪我しないうちに」

 「俺らを誰か知らないみたいだな」

 三人は立ち上がり、カズを取り囲んだ。

 武器を使ってくるのか、来ないのか。

 カズは三人の手の動きに意識を集中させる。

 同時には襲っては来ない。

 ごろつきは自分たちの力を過信しているようだ。

 右か、左か。

 大将格はきっと動かない。

 どちらだ。

 左側に立つごろつきが腰の短刀を抜くと斬り掛かった。

 カズは自分の剣の鞘で受け止め、鞘で腹を突く。

 後ろから、別のごろつきが襲いかかってくる気配を感じ、振り向き様に真横に切り裂いた。

 赤い鮮血が床に散った。

 一気に大将格のごろつきに詰め寄り、剣を喉元に寄せた。

「まだ続けるか?それともここで死ぬか?」

 カズはいつも以上に低い声で言った。

「降参だ、あんた、何者だ?この辺りの奴じゃないな」

 大将格は声を震わせながら言った。

 いつの間にか野次馬が集まってきて、入り口のそばに人集りができていた。そこを掻き分けるようにして若者が顔を出した。それはアシュトンだった。

 「カズ、もう派手に暴れて」

 「あぁ、悪いな」

 アシュトンに一瞬、視線を移すとその瞬間に、座り込んでいたごろつきが襲い掛かるが、相手にならなかった。手加減もせずに斬り捨てる。

 大将格のごろつきは床に座り込み、あわあわとしていた。

 アシュトンが彼に近付くと、声を掛けた。

 「この辺の野盗の情報を探してるんだけど」

 「あぁ、何でも話すよ、だから殺さないでくれ」

 「有益な情報だったら、僕から彼に頼んでもいいよ」

 大将格のごろつきは頭を下げた。 

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