Episode 1-2 最初のバトル

 決壊している壁も多く、砦としての機能は半減しているようだが、カインが連れて来て場所はちゃんと補強された壁に囲まれた広い部屋だった。

 カインに従いながら奥へ進んで行きながら、部屋の内部を観察する。位置的に砦の中枢部分になるこの部屋は外から見た印象よりも広く感じた。女性の姿が多く見られるのは気のせいだろうか。

 カインが少し大柄な男と話をしている。その男がこちらを見ると声を掛けてきた。

 「あぁ、君が。話には聞いてたし、今、カインからも簡単な説明は受けたよ。取り敢えず、その辺に適当に座ってくれ。悪いな、盛大にもてなせる程、大きな傭兵団じゃないんだよ」

 その男は自らが傭兵団リベルタス団長のリチャードだと名乗った。特に詮索をするわけでもなく、歓迎の意を示してくれたが、カズの言葉は理解できなかった。

 「不思議だな。我々の言っていることは分かるのだろ?」

 大きく頷くだけで、それ以上はどうしようもなかった。

 カインがおもむろに口を開いた。

 「魔法の類かもしれません」

 「魔法かぁ、この傭兵団は魔法が使える者は少ないからな」

 当たり前に魔法という言葉を使っている。二人の会話に怪訝そうな顔をしているとリチャードがこちらを向いた。

 「魔法がどうかしたか?」

 説明しようにも、どうしたものかとただ困惑の表情を浮かべることしかできない。もどかしい。しかしながら、記憶は曖昧だが、体力や気力は明らかに回復していた。

 三人の会話を遮るように、傭兵団員二人が慌てた様子で入って来た。一人は明らかに負傷している。

 「団長、C部隊が襲撃を受けて、僕だけ、僕だけ知らせに行けって」

 「落ち着け、アシュトン。状況説明を」

 リチャードが座るように促して、彼を落ち着かせた。

 傭兵団のC部隊の任務は物資輸送の任務で、この砦の向かう帰路で野盗の襲撃に遭ったらしい。

 カインが言った

 「C部隊ってラウルがいるのに簡単にやられたりしないだろ?」

 「ラウル隊長はすぐに応戦したんですが、ローブを纏った不気味な男が一撃の元に隊長を吹き飛ばして」

 「吹き飛ばす?」

 「物凄い風を巻き起こして」

 話を聞いていたリチャードが言った。

 「魔導士か。厄介だな。ただの野盗ではないかもな」

 カインに視線を送る。

 「すぐに行ってくれるか?」

 「もちろんだ」

 「先に砦の防備を徹底して、それから念の為に応援を送る」

 アシュトンが口を挟む。

 「僕が案内します」

 「怪我は大丈夫か?」

 「こんなの大したことがないです」


 カインはすぐに仲間を集めて馬に乗り出発した。アシュトンが先頭を走り、他の仲間が後に続く。

 何となく一緒に行く雰囲気に呑まれてしまい、言葉が通じないということも相まって、くっ付いて行くことにした。

 すぐにC部隊が襲撃を受けた場所に到着した。敵の姿は見えなかったが、その周辺で三人の団員が散り散りに倒れていて息絶えていた。

 アシュトンは暗い顔をしていた。

 「しっかりしろ。あとラウル含めて四人だな?」

 カインの言葉にアシュトンは頷いた。

 C部隊は八人編成のようだ。馬から降りて、周囲を警戒していると微かに物音が聞こえた。林の中にゆっくりと進んでいく。

 剣を鞘から抜き、構えながら歩いていく。気配を感じる。不思議なほどに周囲の変化に敏感になっていた。

 何かが来る。

 慌てて横に飛び退く。

 敵がすぐそこにいる。

 視界に捉えられない。

 何処だ。

 動きを止めれば的になる。

 斜めに動き、敵との距離を測る。

 記憶が戻ったわけではないが、身体は戦い方を覚えているらしい。

 空気が振動しているのを感じた。

 何かが来る。

 風が吹き抜けると、その通り道の草木が刈り取られた。

 敵を捕捉した。

 ローブを纏っている奴がいる。

 「おっ、発見。やっと見つけた。お前を殺すように言われてたんだけど、何か、襲う馬車を間違えたみたいで」

 不気味に笑いながら、こちらを見ている。

 少しずつ距離を詰める。

 「あれ、口が利けないのか?主人公が無口だと物語として成立しないんじゃないのか」

 何の話をしているのか理解できないが、距離を詰めることだけを考える。相手が風の刃を飛ばす構えに入ろうとしたその瞬間が勝負だ。

 「張り合いがないな、喋らない相手なんて」

 魔導士は予想通りに姿勢を動かした。

 自分が想像している以上に俊敏に動き、魔導士の間合いに踏み込んだ。剣を振り上げて、斬り掛かる。

 魔導士は体勢を崩しながらも避ける。

 何度も斬りつけるが、当たらない。

 視界の隅に人影が見えた。

 「よくも仲間を」

 アシュトンがベルを鳴らしてから、剣を振りかざして、魔導士に駆け寄ってくる。間合いを詰め切れていないことに彼は気付いていない。

 魔導士は片手をくるっと回し、何かを呟いた。

 空気が振動し、風の刃がアシュトンへと向かって行くのが見えた。

 自分の剣は魔導士には届かない。

 このままではアシュトンはまともに風の刃を受けてしまう。

 何も考えずに叫んだ。

 「アシュトン、避けろ」

 その言葉を聞いて、アシュトンは間一髪のところで体を逸らした。

 魔導士に向かって突進し、その体に剣を突き刺した。

 「ぐっ、しまった。油断したか。あれほど、言われていたのになぁ」

 剣を引き抜くと、血飛沫が舞った。

 「だいたい、こういうタイプの魔導士は自分の力を過信している」

 そう言うのと同時に魔導士を切り捨てた。

 アシュトンがこちらを見て、目を丸くしている。

 「あれ、カズ、言葉が話せるようになってる」

 


  

 

 

 

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