第9話 魚が食べたかっただけニャ

 朝から歩き始めて店を回っていたらもう昼になっていた。

 昼食は露店で色々食べた。私達はそのまま、平民区を抜けて城壁の外に出る。


「外に行くのか!?」


 シゲルは驚いている。まぁ買い物って話だったからニャ。


「せっかく来たんだから、外も見て行くニャ」


 外は、昨日と同様に兎と鼠、スライムで溢れていた。


「え?何でこんなにいるんだ!?」


 シゲルが魔物の量を見て驚いている。

 ん?これが普通じゃないのか?

 サポちゃんに確認すると、


『明らかに多いですね。バランス崩れてるのでちょっと危険です』


 昨日の段階で言えニャ。このままだと少し強い魔物も寄ってくるらしい。

 原因は、マナの供給過多。弱い魔物でも良いからもっと狩ってれば、

大丈夫らしいけど、人口に対して狩る量が少ないらしい。


 向上心を失っているから、必要以上は狩らない。

 狩る人数も必要数に応じている。増え過ぎれば効率が悪くなるし、

増えた状態の方が効率はいい。しかし危機管理が足りない。


「シゲルは戦えるニャ?」


「これでも、国一番の実力で先王の軍勢を退けたのは俺だぞ」


 自慢げに武勇伝を語っているが、興味ないニャ。


「じゃあ、いけるとこまで行くかニャ。

 進路上の奴だけ倒しながら2時間で行けるとこまで行くニャ」


 宣言通り、真っ直ぐ森を進む。

 シゲルはハッタリじゃなく普通に戦える王様だった。

 次から次へと色んな魔物が現れる。

 鼠、兎から始まり、蛇、鳥、猪、犬、猿、馬、牛、虎。


 干支じゃニャいか!

 

 最後に、恐竜みたいな亜龍が出てきた時は、

流石にシゲルも無理だと言っていたからワンパンで粉々にしておいた。


 そこから、シゲルの私への態度が尊敬に変わっていた。

 一通り、魔物の確認を終えた私は、また走って街へ戻る。


『亜龍が倒せるなら、隣の国との行き来も現実的になりますよぉ♪』


 サポちゃんが言う。現時点では国民には無理そうだニャ。

 海岸方面に港町を作る方が良さそうだ。

 あっちは猪まで倒せれば安心らしい。


 無事、予定通りの時間で街に帰って来れた。


「外を確認させたのも何か意味があるんだろう?」


 シゲルは、また色々と考えている様だ。


「食後の運動がしたかっただけニャ」


 私は素気なく言う。


「そう言う事にしておこう」


 シゲルは、何やらスッキリとした顔をしていた。


・・・


 その日は、そのまま城に戻った。

 夕食に誘われてシゲルと王妃の一人、その息子と

あと上位貴族でシゲルの友人ラクールと食事をする。

 ラクールは監視を付けてきた見込みのある奴だった。


「シゲルは何歳なのニャ?」


「こちらの世界では80歳になる」


 どうやら転移者はこの世界では普通に認識されている様だ。

 シゲルは、変に隠していない。16歳で転移して、

18歳で前王族との争いに勝利し、20歳で王に就任。

 それから60年、王として暮らしてきたらしい。

 エルフ族の寿命は長い。ステータスのマナにもよるけど、

200年以上、普通に生きれる。

 あと100年以上は猶予はある様だ。死ななければだけど。


「今日は本当にありがとう。明日から自治会長との連携と、

出生管理についての見直しを考えようと思っている」


「ふーん。頑張れニャ。モグモグ」


 私は素気なく言う。


「これ美味しいですね!マスター食べないんだったら食べてあげますよ?」


 サポちゃんは相変わらずだ。

 私の小鉢に手を伸ばしてきたが断固阻止!


「美味しかったから取っておいてるだけニャ!」

 

 シゲルは、なんだかなぁと呆れた顔をしている。


「そうニャ、いくつかヒントをやるニャ。

 まず、神託を使った裁判を採用すると良いニャ」


 隷属を必要としない統治を目指す上で、絶対公正のジャッジは大きな武器になる。


「当事者では無理ニャンだから部外者を巻き込むニャ」


 観測者を働かせよう。


「神をそんな、便利に使っていいのか?」


「その辺は、上手くやれニャ。あまり頼り過ぎたり頻繁過ぎると、

嫌がるだろうけど基本は暇みたいだしちゃんと理由があればジャッジくらいは、

してくれるはずニャ。年数回でも実績があれば抑止力になるニャ」


 前世には存在しない、絶対公正なジャッジ。

 これは存在するだけで強力な抑止になる。

 どんな巧妙な嘘もバレる可能性があるのだ。


 そして、その存在は悪意を理解する。

 悪人からすればこれほど恐ろしい存在もない。


「あと千人以上、人が集まればセーフティエリアが発生するニャ」


「そうなのか!?」


「人口が増える事を恐れる必要はないニャ」


 土地は腐るほどある。加えて、街以外にも集落が出来れば、

それは大きな意味を持つ。しかし、様々な問題も発生する。

 しかし、人は増えるべきだ。このままだと高齢化も進むし、

人口も減る。人口が減る事は、この世界ではデメリットが大きい。

 魔物の生息域と勢力が強くなり、最終的には人類が滅ぶ。


「魚が食いたいから港町を作れニャ。次来る時は美味い魚を食わせろニャ♪」


 猫の時から食べてみたいと思っていた。

 ちなみに猫は魚が好きだと思っているのは日本人くらいらしい。

 でも肉が美味かったから魚も食べて見たいと思う。


「すぐにどこかに行くのか?と言うか港町出来るまでもう来ないつもりか!?」


 確かに直ぐに出来る訳ないニャ。


「明日には街を出るけど、気が向いたら適当に遊びにくるニャ。

 フレンド登録しといてやるから気が向いたら相談ぐらい乗ってやるニャ」


 なんとなくだけど、もう大丈夫な気がする。

 シゲルは、元々『隷属』にそれほど頼っていなかった。

 そんなものに頼らなくても、ここの住人は優秀な奴が沢山いる。

 とは言え、直ぐに上手くは行かないだろうな。

 問題は山ほど起こる。今の停滞状況の方が良かったと思う時もあるかもしれない。

 それでも、より明るい未来を目指すべきニャ。


 なんてったってこの世界は『ぬるゲー』ニャ。

 縛りプレイぐらいが丁度いい。

 シゲルは、本気を取り戻した様だ。


 あらゆる手段を使い、頭を使い、周りの人を頼り、本気を楽しむ。

 ついでに国も発展するだろうし、沢山の幸福も生まれるだろう。


「貴族のアホ達もちゃんと働かせろニャ。あと学校は国でちゃんと運用しろにゃ。

 軍備もある程度整えておく様に。隣国との交流も今後あり得るしニャ」


「ちょ!おまっ!?一気に色々と全部は無理だ」


 シゲルは慌てている。


「別にお前一人でやる必要はないニャ。あと別に期限もないし、強制でもないニャ。

 あっ、そう言えば便利そうだから神の使者を名乗ったけど私は別に、

あいつらの為に何かするつもりもないニャ」


 私はこのスタンスを崩すつもりはない。


「やる気になったのかと思ったら、マスターは相変わらずですねぇ♪」


 サポちゃんも咎める気は更々、無さそうだ。

 むしろ同じ様な気持ちなのだろう。


「別にお前も義務は無いし、王様なんてほっぽり出して好きに生きる道だってあるニャ」


 でもこいつはそうはしない。


「それは出来ないな。義務はなくても責任がある。

 それに今は、楽しみでもある。長い停滞で忘れていた。

 俺はな・・・政治家が大嫌いだったんだよ」


「それがなんで楽しみなのニャ?」


「自分はこうはならないぞと思っていたはずなのになぁ・・・。

 それが気付けば嫌いだった政治家になっていた。それに気付いた。

 此処からは、自分の理想を追いかけられる。それが嬉しいし楽しみだ」


「まぁ、頑張れニャ♪」


 もう一つお節介をしといてやるかニャ。


「そう言えばラクールだっけニャ?今日、尾行してた奴は中々の腕だニャ♪

 これからは私兵団じゃなく、国管轄の軍備としての運用になるだろうから、

安心しろニャ。あとお前は優秀だが、シゲルに遠慮し過ぎニャ。

 こいつは意外とポンコツにゃ。国の命運はお前に掛かってるニャ」


「何だかんだいってマスターは甘いですねぇ、ツンデレです?

 観測者歓喜ですね♪」


 ちっ!サポちゃんめ、全部察して馬鹿にしてるな。


「ご進言感謝致します。シゲ、これからは厳しくいくぞ?」


 ラクールは、シゲルと顔を見合わせて笑っていた。

 

「何から何まですまないな。貴方を遣わしてくれた神に感謝する」


 ん?なんであいつらに手柄になるニャ!


「私は、アイツらの遣いじゃないニャ!暇だったのと私が気に入らないから、

口出ししただけニャ!あれニャ、魚が食べたかっただけニャ!」


「観測者歓喜♪一緒に食べに来ましょうね」


 サポちゃんめ!その生暖かい視線を止めるニャ!

 その様子を見て、シゲル達も笑っていた。


 その後も、シゲルや王妃の昔話やら惚気やらを聞きながら、

食事は楽しく進み夜も更けていった・・・。

 

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