第8話 王を財布に買い物をするニャ

 城の豪華な部屋で目覚める。


「知らない天井ニャ」


「お約束ですね!グッモーニンです〜♪目覚めはいかがですか?

 元気ですか〜!?ダァ〜〜!」


 朝から腹黒妖精が五月蝿うるさい。


「何でそんなに元気なのニャ・・・まぁでも、よく寝れたし元気なのニャ」


 猫の時は、色々警戒しないといけなかったからそれに比べると天国だ。

 カラスに突かれて目を覚ましたり、溝で寝てたらゲリラ豪雨で流されたり・・・。

 たぬきの縄張りで噛みつかれた事もあったニャぁ。痛くも痒くもなかったけど。


「今日は朝食を食べたら謁見ですねぇ。

 さっき厨房、覗いたら朝ご飯も美味しそうでした♪」


 自由だニャぁ・・・この妖精。

 朝ご飯は、パンとヨーグルトと果物、サラダ。本当に美味しかった。

 こんな暮らしをしていて働かない貴族とか、もう死刑ニャ。


・・・


 暫くゴロゴロしてたら王室に呼ばれた。


「よくぞ、参った。私は国王のシゲル。神の使者よ、楽にしてくれ」


 言われなくても、楽にしている。

 40代後半くらいのおっさん。無駄に豪華な服を着ている。

 耳が長い。金髪でエメラルドグリーンの目。

 典型的なイメージのエルフ。街の人は耳以外バラバラだった。

 しかし、護衛も付けずに呑気なものニャ。


「観測者から何か聞いてるニャ?」


 謁見までの流れがスムーズ過ぎた。

 恐らく事前に神託があったと思われる。


「あぁ、聞いている。昨日の定時神託で使者が来る事と、言う事を聞けと言われた」


 直接、言ってやれよ・・・。真面目に働けと。


「観測者は私に何とかして欲しいらしいが、私は別にどうでもいいニャ」


 別に義務もない。勝手に滅べばいい。


「そうなのか?俺としても助言が貰いたかったのだが・・・」


 甘えるニャよ。自分で考えないで期待するとか何様ニャ?

 文句言ってやろうかと思ったけど、それすら面倒だニャ。


「その感じだと、問題がある事は分かってるニャ?」


「国民の不満はやんわり伝わって来ている・・・。

 現状でいいとは思っていないのだが・・・」


 やんわり・・・か。ダメだニャ、こいつ。

 問題の本質が分かってないニャ。


「お前、街の状態わかってるかニャ?」


「大きな問題はなく過ごしていると聞いた」


 聞いた・・・か。


「お前の仕事は何ニャ?」


 話を聞くと、上がって来た問題の判断。『隷属』スキルの管理。

 後は、のんびり王妃五人と宜しくやっていたり、

子供の相手をしたり・・・それはもう仕事じゃないニャ。

 上級貴族と話し合いしてるらしいが、ただの雑談レベル。

 何もしてないのと変わらんニャ。


「もういい、一緒に街に行くのにゃ。変装して来いニャ」


「は?どう言う意味だ?」


「そのままの意味ニャ。デートしてやるから案内しろニャ♪」


 丁度いいから財布にするニャ♪

 我ながら無茶苦茶を言っているのは分かっているが、

神の使者の言う事はないがしろに出来ない様だ。

 王は渋々、支度をして出かける事になった。


「お金はたっぷり持ってるニャ?」


「仮にも王だからな。心配しなくていい」


 相変わらず護衛の一人もいない。まぁ、私がいれば問題ニャい。

 こっそり監視している奴が3組か。一組は、王妃の一人の差金。


 もう一組は、国の上層部、上級貴族がこっそり編成している私兵。

 きな臭いと思っていたが、実は悪意はなく有事の時に、

何とかする為の国の為の私兵の様だ。

 優秀で真面目な奴もいるじゃニャいか。あとで話を聞いてみたい。


 もう一組は・・・コイツらはダメだニャ。

 ダメ貴族が王の弱みを握ろうと常に監視させている様だ。


 腐ってるにゃぁ・・・。


「まずは、貴族街から行くニャ」


『ビジュアルからしてどう見てもデートと言うより親子の買い物ですね♪』


 一応エルフに変装してるが、確かにこれでデートなら犯罪臭がするニャ。

 サポちゃんは一応姿を消しているし、

王も変装させているからただの貴族の親子に見えるだろう。


 貴族街の店は、どれも貴族の趣味の様な店ばかり。

 喫茶店、服屋、アクセサリー店、飲食店。娯楽はリバーシとチェスの様だ。

 色々な店先で、遊んでいる。マジで仕事してないニャ、コイツら。


 適当な店に入って適当なものを適当に買わせた。

 なんの疑問も持たずに、シゲルは金を払う。


「これは何ニャ?」


「それは髪留めだな。着けてやろう」


 シゲルは私の髪に髪留めを着けた。


「これは何の為にあるニャ?」


「髪を留める為だろ?」


「私の髪型のどこに留める必要があるニャ?それにこんな凝った装飾いらんニャ」


「いや、オシャレとかだろ。似合ってるぞ?」


 私は興味なさそうにそれを買わせる。


『マスターがそんな事知らない訳ないですよね?』


『当たり前ニャ』


 そんなやり取りを何度か続けた。


 本屋なんかもあった。さっきの娯楽物を売ってる店もある。

 あとは雑多な道具を売っている店。加工スキルのレベルが高い様で、

受注生産まで行なっている。実は王家御用達でお抱えの様だ。


 日本で見た事のあるものがたくさんあったが王のシゲルが知恵を貸したらしい。

 ある意味、これが一番の功績かもニャ。街に流通して生活を支えている。


 貴族街を歩いていると数人の貴族に王がバレてた。

 慕われている様で、平和そのものだ。

 ただ、シゲルの活動範囲はここまでだった・・・。


「次は、奴隷区に行くニャ」


「その奴隷と言う言い方はやめてくれないか?彼らは奴隷ではない」


 はぁ・・・そのレベルか。私は思わず溜息ためいきが出そうになる。

 一応、平民と呼んでいるらしい。呼び方なんて何でもいいのにニャ。

 

 今度は、平民街で買い物をしまくる。金額はどれもさっきの半値以下。


「昨日食べた串焼きを食べるニャ!」


 私はあれが気に入った。昨日のおばちゃんに声をかける。


「串焼き3本くれニャ♪」


「ん?昨日の可愛いお嬢ちゃんじゃないか。今日も来てくれたのかい?

 しかも、今日はお父さんと一緒かい・・・貴族だったんだね」


 シゲルの服は、平民にしては高価すぎる。すぐにバレた。


「貴族は嫌いかニャ?」


「そうさね・・・。ろくに働かず税金で生きてる人を好きになれと言う方が無茶さね」


 そりゃそうニャ。

 おばちゃんは、少し言いづらそうだ。貴族を前に文句を言うと後が怖いが、

我慢出来ないと言った感じだ。

 

「この人は、何を言っても大丈夫ニャ。むしろご褒美だからもっと言ってやれニャ♪」


「おい!俺がそういう趣味みたいじゃないか!」


「違うのかニャ?お前は平民の声をご褒美だと思わないのかニャ?」


「くっ・・・。それは・・・」


「という事だから、どんどん言ってやるニャ♪」


 おばちゃんの不満は爆発してたニャ。

 まず、出生管理。積極的に子供を産めず、産めば高い税金に悩まされる事になる。

 貴族は、子供を産めば恩恵を受けるが平民はむしろ負担が倍増する。

 当然、国の支援はない。税金の高さも否めない。何もして貰えないのに、

半分持っていかれるんだからそりゃ怒る。


 平民の生活は、まぁ猫に比べりゃいい生活。前世と比べても、

ブラック企業勤務や、ホームレスに比べればまともな生活とも言える。

 しかし、国に属して無い方が良い生活が出来る。

 仮に、他に生活出来る環境が出来たら皆んなそっちに行きそうニャ。


 今は無いから、仕方なくここに住んでいる。

 でも、それも限界を感じている。


 自治会への信頼の厚さも伺える。

 東西南北、自治会同士の交流も盛んで、

各業種の偏りや生産量の確認も行なっている。

 必要であれば物々交換で物流を助け合う。

 もう、どっちが政治か分からん。いや、どう考えてもこっちが政治ニャ。


 犯罪は、今やそれ程の脅威でもなくなっていて次の段階に移っている。

 そう思わせるには充分な話だった。


「本当に、こんなに好き放題言ってよかったのかい?」


 おばちゃんは、ちょっと怯えている。


「いや。ご婦人、本当にありがとう・・・そして、すまない」


 意外な反応だった。いや、予想通りと言えば予想通りかニャ。

 元々、悪い奴ではないニャ。能力もそこそこありそうだ。


 ただ、知らなかったのだ。知ろうとしなかった。

 知りたくなかった。それは良くある事で、皆やっている事だ。


 そして、それが許される立場じゃ無くなっている事を、

理解しなければいけないのだ。


「あんたみたいな貴族もいるんさね・・・。無茶な話かも知れないけど、

貴族みんなに知って欲しいわね。せめて子供を産んで育てる楽しみくらいは、

奪わないで欲しいわ・・・」


 おばちゃんは子供が一人いるらしい。おかげで生活はしんどい。

 でも幸せらしい。子供のいない家庭も多いそうだ。

 それは・・・未来のない社会ニャ・・・。


・・・


 他にも何件か屋台を回り、よく分からない物を買う。

 そして、話を聞く。どこも不満は沢山あった。中には理不尽な怒りもあった。

 お互い様な部分も多少はある様だ。でも現状、恩恵を一方的に受けている貴族は、

やはり褒められたものではない。それを王が理解していく。

 あり得ない事だが、当然の様に平民で王に気付く人はいなかった・・・。


「これを見せたかったのか?」


 シゲルは私に質問する。


「なんの事ニャ?私は財布もって買い物に出ただけニャ♪」


「おい、財布って俺の事じゃないだろうな?」


「他に誰がいるニャ?現状、お前はただの財布ニャ。

 お前が財布じゃないと言うなら、ちゃんと頭を使えニャ」


 シゲルは、黙って何かを考えていた。そして一言、


「ありがとう・・・」


「私は買い物しただけニャ」


『全くその通りですね♪』


 いたのか。まぁさっき一緒に串焼き食べてたな。

 どいつもこいつもサボりすぎニャ。

 猫だった私が言う事じゃニャいけどな・・・。


『猫の手も借りたい』と言うのは、なんの役にも立たない猫の、

手も借りたいくらい忙しい事を表したことわざニャ・・・。


 本当に猫の手を借りてどうするニャ。


 と言うか、お前ら全然忙しくないニャ!!

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