第6話 システムと歴史と問題

 立派な城壁に囲われたエルフの街、エルフォール。

 人口一万人程、石積みの家が建ち並び放射線状に拡がる街並み。

 中心が王族で、外に行くにつれて身分が下がる。

 分かりやすい格差社会。そして発生する問題を、

チートスキル『隷属』で抑えつける・・・胸糞悪くなるニャ。


 門の様なものはあるが、門番もいない。 

 私の様な外部からの侵入者は一切想定されていない様だ。


「他の国もあるんだよニャ?ザルすぎないかニャ・・・」


 他の国との交流がないからザルらしい。

 距離もあって、街から離れるほど魔物は強くなる。

 現時点で、お互い交流するメリットも見出せていないので自然とこうなる。


「あれ?もしかしなくても私、超不審者ニャ?」


 想定外の外部からの侵入者。

 受け入れるシステムあるのか?宿屋もないんじゃ・・・。


「一応、他国の存在は認識してますし、受け入れてはいますよ?」


 入国審査なし、門番なし、侵入し放題・・・。

 悪意に対しての警戒心が無さすぎる。


 メインストリートが城に向かって真っ直ぐ伸びている。

 まるでテーマパークの様だ。これじゃ本丸まで猫まっしぐら。


 防衛を前提にしていない、効率重視の配置。

 メインストリートは商店街さながらで露店が立ち並んでいる。

 日本の感覚だと、お祭りを彷彿とさせるけど、ここではこれが日常なのだろう。


「あまり、悲壮感もなければ暗い顔も見当たらないニャぁ」


 街は意外にも活気があって皆、楽しそうに過ごしている様だ。

 適当に露店で買い物でもしてみるかと思ったけど・・・


『串焼き美味しそうですね!食べましょう♪』


 サポちゃんの姿は周りから見えない様に出来るらしい。

 今は私にしか見えていない。

 美味しそうだけど私、味覚ないんだよニャぁ。


 猫になって以来、何を食べても味がしなかった。

 多分、悪食の影響だ。正直、無機物の味なんて味わいたくないし、

むしろ助かっていた。


「味しないし、勿体無いかニャぁ・・・」


『ん?その体だと味覚ありますよ?悪食の時は味覚オフに出来ますし♪』


 マジか!?私は串焼きを二本買いサポちゃんと二人で食べた。

 80年ぶりの味・・・それは、衝撃だった。


 忘れていた・・・?いや、完全記憶で味の記憶はある。

 不思議だ。覚えているのに忘れていた。

 『慣れ』と言うものなのかもしれない。

 無いものを自然と補おうとする本能。


 しかし、人の心は奇跡のバランスで成り立っている。 

 私は、もしかしたら味覚と一緒に、

何か大事な事を忘れていたのかもしれない・・・。


「美味いニャーーーーッ!!」


 私は思わず叫んでいた。


『そうです?まぁまぁですけど日本の食文化に比べたら、

正直全然だと思いますよ?』


 そうか。その通りかもしれない。

 久しぶりの味で、美化されていたのかもしれないニャ。

 覚えていても、感覚で狂う。別の要素が真実を捻じ曲げていく。

 私の知る世界は、もしかしたら本当の世界の姿とは違うのかもしれないニャ・・・。


・・・


「美味かったニャ。ありがとうニャ」


 私は店主のおばちゃんに串を返す。


「かわいいお嬢ちゃん、見ない顔だね?別街区から来たのかい?」


 メインストリートは東西南北四方に伸びて区画を分けているらしい。

 しかし、酷い作りニャ。攻め放題、射線通りまくりニャ。

 

 それはさて置き、どうしたものか・・・。

 別街区の住人の振りをして適当に誤魔化してもいいけど、情報も欲しい。

 んー適当でいいニャ。向こうが勝手に勘違いしてくれそうだし。


「どこの街区も、こんな感じなのかニャ?」


「そうさねぇ、ここは南区だけど一番活気があると思うわよ」


「何でニャ?」


「自治会長が優秀なのさ♪上手く取りまとめてくれてね。

 本当に助かっているよ」


 自治会があるのか。んーもう国要らないんじゃニャいか?


「自治会は、国の政治とはどう繋がってるニャ?」


「お嬢ちゃん難しい言葉を知ってるね。自治会は国とは関係ないよ。

 国は税金を取るだけで何もしてくれない。強いて言うなら、

『隷属』で犯罪を縛ってくれているから、税金はそのお礼ね」


 なるほど、この国の仕組みがやっと分かってきた。


 軍事費用もなく、公共事業も最小、医療機関も必要ない、ぬるゲー。

 現状維持をベストとするサイクル。

 犯罪が、悪意が存在しない事を前提とした、平穏な停滞。

 

 税金だけ集めてその税金で働かないでいいグループを作り、

 そのトップに自分が立つ。2割の人間に特権を与えて囲い込み組織を作る。


『隷属』というチートスキルで、8割には安心と安全を提供すると同時に、

犯罪と一緒に向上心を奪う。作られた安全に慣れ人々は手放せなくなる。

 それなりに、楽しく暮らしているのだ。それが壊れる位なら税金くらい払う。


 ただ、不満は出る。蓄積されていく・・・。


 四人の奴隷で、一人の貴族に裕福な生活を与える税金。

 さっき魔物を狩って思ったが、普通の人ならあれだと一日必死で働いて、

一万五千円分程だろう。税金はその半分を持っていく。


 単純計算で、貴族は奴隷達の4倍の収入が働かなくても入る。


 学校もないのか・・・。自治会が教会で簡単な読み書きを教えているらしい。

 マジで国はチートスキルのみの存在だニャ。


「問題点は見つかりましたか?」


 サポちゃんが、既に分かっている事を解っている様に問いかける。


「問題しかないニャ」


「ですよね〜♪どうします?」


 やっぱりサポちゃんとは気が合うニャ。

 このままだと、暴動が起こる。自治会が有能過ぎて、国がもう要らんニャ。


 詳しくサポちゃんに聞くと『隷属』も万能ではなく、

実は相手に元々ある感情を選んで増幅させる様なものらしい。

 チートだけあってその増幅は凄まじいので、余程精神が強くないと、

隷属出来てしまう様だ。


 しかし、これだけの人数を同時に行うと効果は薄れる。

 そっちの問題もありそうだ。人口も増えない様に制限している気がする。

 不満爆発寸前にゃ・・・。


 この国の歴史は犯罪溢れる悪政の国を、転移者がハーレムを作りながら成り上がり、

ついには国王を打ち倒し王になる話。王道だニャぁ。

 

 その後、犯罪者を『隷属』で縛り治安を良くしていく。

 身内もどんどん増えて、優遇されていく。特別を作れば必然的に優劣がつく。

 気付けば、国は王族、貴族、平民、奴隷の構図が出来上がった。

 当然、格差社会は不満を生み、犯罪が増える。前王と何が違うのか?


 答えは簡単。転移者の王にはチートスキルがあったのだ。

 王は、これを使い王族、貴族、奴隷の構図が出来上がった。

 一見、無茶苦茶な気もするが、前王の時代に比べれば平穏。

 作られた安全は、存外心地よくこれはこれで平和なのかもしれない。


 ただ!人はいずれ死ぬニャ。キリッ!

 私以外はね・・・言ってて虚しくなってきた。

 王が死ねば『隷属』は解ける。国は荒れて崩壊する。


 実際は、死ぬまで持たない。死ねば崩壊するのが分かっているのだから、

事前に動き始めるだろう。その犠牲は計り知れない。


 今すぐ、目を覚まさせて対策を取る必要があるニャ。

 ぬるま湯に浸かるこの国の人々は、崩壊寸前まで気づかないかもしれない。

 あの混沌の世界はもう見たくないニャ・・・。


「裸の王様に、会いに行くニャ・・・」


 正直面倒だし、何で私がこんな事をしないといけないのニャ・・・?

 私は文句を溢しながら、渋々お城に向けて歩き出す。


「すんなり会えますかねぇ♪」


 サポちゃんは全て察してか、満足そうな顔でついてくる。

 好奇心の塊みたいな奴にゃ。


 それ、猫も殺すらしいニャ。


 程々にして欲しいにゃ・・・。

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