第36話 渋谷ABEMAS その2
今日も渋谷ABEMASについて語っていこう。
Mリーグは藤田晋がチェアマンとなって始めた麻雀プロ団体の枠組みを超えたリーグ戦で、八つの企業が麻雀プロをドラフトで指名してチームを作り、一年間を通してリーグ戦を行っている。
さて、ドラフト三位指名されたのは日本プロ麻雀協会所属の松本吉弘である。男性最年少Mリーガーで、実際にはドラフト三位指名は鈴木たろうだったが、たろうが取れなかったので松本を指名したという経緯がある。
百八十七cmの高身長で、通り名は「卓上のヒットマン」というようだ。私はにわかなのでMリーグを観るまでこの松本吉弘を知らなかった。若手だからというのもあるが、それでも多井、白鳥に比べると誰だよ? って感じだった。
初年度の個人成績は白鳥が酷かったのであまり目立たず、一応プラスという程度の成績で終わっている。白鳥が覚醒した二年目に、白鳥に変わってどん底に沈んだのが松本であった。マイナス二百四十六という、役者さんとドベ争いするような酷い成績で、言っては悪いがかなり足を引っ張った。
見た目がいかついので最初はかなり叩かれていたが、実はヒットマンではなくジェントルマンだという事が徐々に浸透し始め、松本を叩くのは可哀想という謎の空気が生まれる事になった。
これは勝手な憶測なのだが、ボロ負けしてた時にプレイヤー解説に来ていて、コメント欄がかなり荒れた時、「ああ、解説してる場合じゃないですよね、分かります。頑張ります」と、アンチコメントを無視する事なく、しかも素直に謝ってしまう松本の態度を見て一気にアンチからファンへと流れていったのではないかと思う。
あまり認知されていないプロでも、活躍すれば評価はされる。これから先に登場する予定のドリブンズの園田も最初はさほど認知されていなかったが、大活躍してその名を一気に浸透させた。
ところが松本は初年度はちょい浮き、二年目は大負けというかなり過酷な状況であった。オーラスの親でテンパイできずにラスのまま終了した時など、ちょっと涙ぐんでいた。この頃から徐々に松本頑張れ! の声援の方が高まった気がする。
負けていてもファンが応援したくなる若手プロ。見た目がいかついのになんか可愛らしいんだな。あんな魑魅魍魎の跋扈する中で、まるでキン肉マンに登場するジェロニモのように懸命に足掻いている姿は、いつか勝って欲しいと思わせるものがある。
このままジェロニモ枠で終わるのかと思われた三年目に松本は大活躍した。個人スコア二百七十二、三十人中五位という好成績を収めたのである。そして四年目はプラス百四十五で十一位という成績で、完全にどん底から抜け出す事に成功した。
多井はこの事を非常に喜んでおり、自分がトップ取るよりうれしいなんて言っている。まぁ何となく分かるな、その気持ち。こうして松本の長い冬は終わり、今では白鳥とショーマツコンビと呼ばれてポイントゲッター扱いされている。
二年目から加入したのは最高位戦日本プロ麻雀協会所属の日向藍子である。かなり早い時期からYouTube活動していて、実況解説などもやっていた。
愛称は「ラブフェニックス」だが、セガサミーフェニックスではなく渋谷ABEMASに指名されてしまった。
すでに登場した茅森と同様、ママさんMリーガーである。癖のあるアニメ声のため、ツモの発声が「ちゅも」に聞こえる為、日向が和了るとコメント欄がちゅもで一杯になるらしい。
日向はMリーガーの中で一番一礼が深い。ずんたんも深いがそれよりもさらに深い。麻雀が出来る事は「当たり前じゃないからな(極楽とんぼ加藤風)」という事で、麻雀が出来る事に感謝しているのである。
ママさんMリーガーという事もおそらく深く関係しているのだろう。家族の応援、協力無しでは平日の午後七時から麻雀を打つ事など出来ない。子どもの世話やご飯の支度など、自分が出場する時にはいろんな人の支えを必要とするのである。
局が終わる時、牌を流してボタンを押す時も「ありがとうございます」と呟きながら押しているらしい。そういう感謝を忘れない姿勢は好感が持てる。
麻雀は守備型で、そのせいでかなり後手を踏む事が多く勝ち切れない時が多い。押し引きが難しい局面は基本的に引く。なのでチャンス手を取りこぼしてしまう事がちょこちょこあるようだ。それでも個人スコアは去年のレギュラーシーズン以外は全てプラスで終わっている。
という訳で、渋谷ABEMASを紹介した。サクラナイツはトップを取った時、ペンライトを持ってポーズを決める。フェニックスはめ組のひとポーズを取る。そしてABEMASは、麻雀LOVEのエルを人差し指と親指で表す。多井はどや顔で、白鳥はキョドって、松本はほぼV、日向は手を振るようにポーズを取る。
万年三位の呪縛から解放され、五年目は優勝出来ればドラマティックだが、果たしてそう上手く事が運ぶかな?
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