第21話 星ノ子

「そうだな…何から話すべきか…、」



「ねぇゴウレムの権能って今どのくらい…」



言い終わる前に首を横に振るゴウレム。



「ここまで来ると自分の力なんて

あって無いようなものだよ。」



自由など利かないと口にするゴウレム、

四周目は本当に時短させることくらいが

限界だったのだろう。




「私の力は儀式の外に対して絶対的な自由

を働くが、見ての通りこの世にはもう

儀式以外のものなど残っていない。

初めから自分に自由なんて物は無かったのかもしれないな……。」




自由の果てに静観の道を選んだのに、

それさえ決められていた事だなんて……、

そんなのあまりにも…




「いやいや、君の方こそ……、

この儀式は一人でも旅を終えれば良いんだ…、

逆に言えば一人は絶対に最後まで旅をしなければいけない。その役目を私は君に……」



深々と頭を下げるゴウレム。

人を思うその姿は傲慢からはとてもかけ離れ

ていて、



「今なら分かるよ、こういう気持ちを初めから知ってたゴウレムが一人旅をするなんて

出来ないよ。」




「そう…言ってくれるのか…、」




顔を見ると少しゴウレムの瞳から涙が浮か

んでいる。




「それで私は、どうして皆を殺さなきゃ

いけなかったんだろう。」



話を戻して本題に入ることにする、

いつものようにゴウレムに質問する私。



「無知は罪なり……、

今回 知らなければならなかったのは死、

死そのものでは無く死に対する考え、

人の感情を知る必要があった。」



「自分は六人を誘導するのと君の感情の

抑制に力を使ったが儀式の主旨自体を

無視することは出来なかった。」




権能を手にしても変化が無かったのは

ゴウレムのおかげだったんだ、




「一度目に君がエルゼのことを……」



「そう、そんなに大事じゃないとか

言いながら私殺したの、好きな人達を」




その時のこともう思い出したくない、

ただこれは私が犯した過ち、

戒めとして向き合わなければいけない。





あの時、エルゼを殺した私を

よく思わないイロナ達が

どうして殺してしまったのか、何か理由がある

なら話して欲しいと言い、

それをしつこく思った私は二人も一緒に

締め上げて殺した。



時間が経って果ての海に着くと私の前には

ゴウレムがいて、

それでようやく正気に戻った私は

自分がした事を後悔して……、




「君が狂って、次に進める精神状態では

無くなった。」



それでゴウレムに記憶を忘れて

もう一度やりなおそうと提案された。



私はそれを受け入れ四周目をやり直すため

権能を使ってゴウレムを溶かし、

自分を溶かした。



あの時ほど自殺を選べる溶落ノ権能を

救いの力だと思ったことは無い。



「あぁ死ぬのがこんなに嬉しいなんて、」



そう言いながら私は死んで

再び四周目をやり直した。


結局 記憶は消せず殺さなければいけない運命

からも逃れることは出来なかったけど。





「でもそうか、この旅は死んで良いことと、

生きて良いことを知れる物だったんだ。」




「人類も自分達と同じように苦悶し、そして

道を選んできた。」


「自分達は親であり先駆者である人の

生きた証を知る必要がある。

同じ道を辿り、選択し、意思を伝える役目を

果たさなければいけない。」




私達は拒絶することが出来ない

必ず役目を全うしなければいけない、でも…




「このまま進むことなく役目を果たせ

なかったら私達はどうなるの?」




「それも一つの答え…なのかな、

その時はこの惑星ほしと一緒に私達は死ぬ。」



私達が儀式を終えないとこの星が…


「なら儀式を終えれば星は……」



「役目を果たしても、星は死ぬんだよシイナ」



「えっ、」



「生命には必ず終わりがあって、でも

簡単には死にたくなくて生きながらえようと頑張る、それは星も同じで、むしろ

星がそうあるから自分達も同じ在り方で

生きてる。」


「だから私達の意思とは関係なくこの惑星ほしは死ぬんだよ。」




「なら私達の意思は?七廻着海は

何の目的で作られたの?」




「自殺。」



「自殺?」



「七廻着海はこの惑星の自殺装置なんだ。」



自殺装置?何を言ってるのかよく分からない、

それは一体どういう……、



「この星は迷いあぐねている、

生きるために我が子である人には生きてて

もらいたかったが、その人は、

人類はもれなく全員滅んでしまった。」



「寿命の半数を費やして生きてきたが

特に手塩をかけた人間が死に絶えたため

すっかり生きる気力を失ってね……、」



「たまたま見つけた七海着海を使って

星の子に意志を背負わせ決断させることに

した。」


「じゃあ私達が選ぶのは…」



「終わりを選んで星と死ぬか、

答えを出さずに億年を生きて死ぬか、

希望を見て星と死ぬか、」




「どの道を選んでも死ぬ…の?」



「自分達と星はね、もし生きることを望む

なら、これから生まれる人類に後を託して

死ぬことになる。」




「なんで…そんな…」



「もう星は頑張れない、この地球ほし

生きることを諦めてる、

そして自分達はだ、

親なくして子が生きることは出来ない。」




死ぬ未来しか選べない、

それは選んでいると言えるんだろうか、



「じゃや何で私達は…、」




「星と人の願いを叶える、それが自分達が

生まれてきた理由、望まれた運命。」




「そんな…そんな勝手に押し付けて

背負わされても……、」



「その通りだと思うよ、でも皆生きてる、

生きるために必死になっていた、

それは自分達と同じじゃないか。」




「同じにしたのはそっちじゃない!」




「それでも自分は最後まで恨めなかった…」



ゴウレムのその言葉を聞いて

怒りや悲しみ、色々ごちゃごちゃと混ざった

気持ちがすっと冷静になった。




私が怒ったところで星は死ぬ、私も死ぬし、

残りの皆も、あぁ本当にもう

どうしようもないんだ。




「シイナごめん」



「うんうん、ゴウレムが謝っても仕方ない、

これが最後で良いんだけど、

この先も私は皆を殺さなきゃいけないの?」



「いや もうその必要はないはずだ。」



「そっか、なら良かった……、あはは

でももう心がぐちゃぐちゃで

上手く力を使えそうにないや……、、、」




「シイナ………、」




「私がやらないと、残りの誰かがやなきゃ

いけなくなる。

皆が辛い気持ちを知ってから殺さないと

いけなくなるくらいなら、

私が皆を殺すよ。」




「シイナ、自分はここで退場するよ。

君に私をやる、権能を使えば事も一日で済む

だろう。」



「ゴウレム……、」




「自分が初めから動いていれば

君に負担は無かったのに……」



「ゴウレム、私もさっきの言葉、恨めない

気持ち分かるよ、知らなきゃ良かった事は

沢山ある、でも知れて良かった。

大事なものができた、だからありがとう。」





「ありがとう…ありがとう、シイナ、

君が選んでいい、君に後を託してたい。」




「うん任せて、お休みゴウレム 幸せな夢を。」



溶け 落ちたゴウレムは青い花に姿を変え

その花びらが飛び散って空へと舞う、

飛んでいった花びらはぴょんと空を跳ね

海を泳ぐ海豚のように美しく舞っていった。




「こちらこそありがとう。」




そうして私は死地を後にして五度目の旅へと

向かった。

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