第20話 自覚 大罪
憤怒、絶えず怒り続け、その矛先は他者に向き
生命を脅かす脅威となる。
血火ノ権能はいたってシンプル、
怒り続けること、怒り傷つけ加虐し殺す。
怒りを生み出すことで痛みを与え生命を奪う、
それはカリム自身も例外ではなく
行き先が無くなればその怒りは
自分へと向けられ、
どうしようもない怒りを
どうしようもない痛みに変えて苦しみ続けて
いる。
カリムに与えられた体質の一つ、
その長い爪は付け根から五、六センチほどあり、とても硬く、鋭い形状をしている。
身体機能は高くその力で放たれる爪の一振は
引っ掻くと言うよりも、刺して抉るという
表現が近い。
五センチ以上ある鋭利な物が身体に刺されば
重症、抉られた箇所が大きければ絶命、
そんな傷を深く多く背負ったカリムは
死なない、死ねない。
カリムは体質によって傷を負っても
死ぬことはできない。
カリムが怒り続け、心の火を燃やす限り
肉体は止まらないのだ。
そして権能によって怒り続ける力を与えられた
カリムは永劫を苦しみながら生き続けている…
怒りが痛みを呼び、痛みが怒りを呼ぶ、
身近にある死に怯え、恐怖で怒りを
止めることができない。
だからカリムを殺します。
殺して救ってあげましょう、怒ることを止め
ましょう、生きることを辞めましょう、
その蝋を溶かして固め
灰にして救いましょう。
溶けて堕ちて、溶けて落ちて……、
水辺の傍で肌と呼べるかも分からない
赤く歪な線の凸凹をそっとなぞるカリム、
「あぁがぁあ……、あぁ」
弱々しく痛々しいその声は怒りのようで
死を望む祈りの声のようで…
「これでもう痛くなくなるから、これから
一緒に頑張ろう。
早く儀式を終わらせようね、」
シイナがカリムに触れるとボトボトと
肉が溶け始めていく、横から見る
穏やかな顔をしていた……、
「ありがとう…」
そう聴こえたのか、感じたのかは分からないけど、
溶けて息を引き取った。
イロナ「今の人は?居なくなっちゃったけど?」
クウレ「シイナさん大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だよ、ありがとう
二人と待っててくれて助かったよ」
あ……灰が……、風にのって灰になった
カリムが飛んでいく。
どこまで飛んでいくんだろう……、
空を飛べたならきっと…何処へだって行ける
はず、カリムはもう自由になったの
だから。
残すところ湧上ノ権能を集めるのみ。
後はエルゼを見つけて仲良くゴウレムの所に
向かえば四周目が終わる…、
まだ終わった訳ではないけれど、
旅が始まってから一ヶ月未満、
それほど移動距離も無かっただろうし、
あっという間で短かったという印象を受ける。
イロナ「それで、シイナの旅の目的の権能?
を持ってる人がエルゼって言うのね?」
シイナ「うん、そうだよ」
クウレ「エルゼさんは、シイナさんにとって
どういう人何ですか?」
こうして イロナ、クウレの二人と話すのも
悪くない、質問に答えるのは大変だけど、
三人並んでこうしているのが
何より旅をしているのだと感じる、
この先もこうして皆んなと旅をしたいけど……
ルイーゼは溶けちゃうから
無理だし、
ゴウレムは果ての海から出てこないし…、
カリムはもう私と一緒だし、
一緒に旅をする機会があるのは三人だけかぁ
……、
ゴウレムはどうして頑なに手をかしてくれないんだろう、
傲慢の力ならその場から動かなくても
力を使えるだろうに…、
シイナ「エルゼがどういう人か?」
「大好きな人、好きでとっても大事な人なんだ」
クウレ「大事な人、良いですね
とても素敵だと思います。」
イロナ「いいなーそれ〜、大事な人か〜、
私もそういう人になりたいな…」
シイナ「もちろん、イロナのことも大事だし
クウレのことだって仲良くなれて嬉しいなって思ってるよ?」
イロナ・クウレ「ほんと?/ほんとですか?」
何でもないその言葉に二人が嬉しそうにする、
その二人を見てついつい
微笑みをこぼし、私は二人とエルゼの元へと
歩いていった。
エルゼ「三人で一緒に旅かーー、良いね!
良いね!! ね、良ければその旅一緒に
ついて行ってもいい?」
結論から言うとエルゼにはすぐ会うことが
できた。
変わらずエルゼの目的は旅をして色んな
景色を見ることで、
同行することを望み、二人もまたそれに強く
賛同した。
私が思っていた、四人での旅は叶い残り
目指すは果ての海となった。
エルゼ「果ての海?霧がかった場所かぁ、
見てないなー普通の海なら三日前くらいに
見たけど…、」
クウレ「シイナさんはご存知なんですよね?」
シイナ「うん、何処にあるのかは分からないけど、見たことはあって…、詳しいことは
何も知らないんだけど……、」
イロナ「場所が分からないんじゃ探すのは
大変ね…、」
権能は既に集まってるのにどうして
果ての海は現れないのだろう……あの場所は
六つ集めた時点でゴウレムが
招いてくれるはずなのに…、
何か力を貸せない事情があるんだろうか……、
いや力を貸すこと自体は既にしてくれてる
気がする……、
最初はこういう事もあるんだと流していたけど
一周する期間が今までに無いくらい
早いものだから、巡り合わせを良くする
ようにゴウレムが権能を行使しているんじゃ
ないかと少し思っている、
ただもしそうなのだとしたら、力を使うことは
出来るけど、果ての海には呼べないことになる、
そうと決まったわけでは無いけれど、仮に
そうなのだとしたら…今までは呼べたのに、
今回は呼べない理由ってなんだろう…、
ゴウレムに何か不測の事態が起きたとか?
集めるだけではダメで、他に何か満たしてない
条件があるとか?
あとはなんだろう……、
傲慢の力でも融通が利かないとか?
考えても結論は出ない、今わかるのは
現状 果ての海には辿り着けず、
変化があるまで待たなきゃいけないという事、
辿り着けないことは知っているけれど
今は歩き続けるしかないだろう。
シイナ「とにかく歩いて見つけるしか無いね」
エルゼ「色々見て回れるし、きっと楽しいよ」
こうして私達は……私は答えの出ない旅へと
足を運んだ。
三ヶ月が経った……、
答えの無い、変わらない一日一日を
過ごす日々、
けれど三人がいることで、そんな旅の毎日も
退屈なく過ごすことが出来ていた。
朝を迎えれば一日の旅が始まり、
何気ない会話を弾ませながら進む、
昼になれば一休み、水辺があれば何よりも
楽しい休憩になる。
それからまた夜まで歩き続け、
日が暮れると地に座り談笑しながらやがて
目を閉じる、
そうして一日が終わり、また新しい一日を
迎えて同じように過ごす。
瞼の裏で日の光を感じ
閉じていたその瞳を開く、太陽に起こされ
ながら今日もまたそんな一日を過ごすため、
行動を開始する。
自分以外の三人はまだ眠りから覚めてない
みたい……、
今起きられるのは面倒だな…
声を出されるのも面倒くさい……
そっと一息で…………………?
あれ何を考えているんだろう、
頭がうまく働かない、
ふわふわとしたまま、まずはクウレの元に
向かう。
まずは?私クウレに何か用があったっけ?
とにかく急がなきゃ、絞めないと 絞めないと、
さっきから何を私は考えて…、
「あ」
「ひっっぁぁ」
何で私はクウレの首を絞めているんだろう…、
次はイロナ、
どうして急にこんな…
「ぁぁぁっぁ」
何で?違う…私の意思じゃない!
止まって!!いや止まらなきゃ、
私は望んでいないのに
動いてる、
「やだ、嘘…やめて、嫌だ!!待って私…、」
首を絞めた手を解いた私の顔は左にいるエルゼの方を向いている。
「私……だって今、イロ…ナも殺し…て
だから…イヤ、こんなの望んでない、」
横に寝るエルゼを仰向けにし、上へと股がる…
「はっはっはっ…ああぁああ〜手が、手が、
嫌だ!!殺したくない、」
「殺したくない殺したくない殺したくない、
やだ、助けて誰か…私を…ゴウレム、
助けてよ!あぁぁエルゼ逃げて!!」
あぁダメだ、私が溶落ノ権能を使ったから…
エルゼはこのまま私に……、
「あ…あぁ」
そっとこの腕がエルゼの首を絞める……、
「っ……!!」
首に手を当てた瞬間、それに気づいたのか
エルゼが目を開けてこちらを見る。
「ぁぁあぁ…やめて、私をそんな目で…」
権能に加え首を手で押さえ付けられたエルゼは
声を出せない事に一瞬驚いたが、
すぐに笑って、いつもの表情をシイナに向ける
ぐっと押さえ付けた手を掴み苦しい表情を
見せるエルゼ、
それでもシイナを見て笑顔を作り直ししばらくして静かにその手から力は失われた。
「待って行かないで!
あぁあぁぁあうわぁああぁあぁあぁ………。」
大事な人を手にかけた、
とてもとても大切で大好きな人、
最後まで笑いかけた人を手にかけた、
「あぁあぁうわぁぁぁあぁ〜〜〜、」
天を仰ぎ泣き叫ぶ声が空まで響く、
「大好きな人、好きでとっても大事な人なんだ」
「二人で何してるの?何してるの?何してるの?なにしてるの?」
「このままじゃ三人で出来ないし、
ほらあー〜ん、」
「う〜ーん、全部集まったのに
現れないなぁ…やっぱり殺さなきゃ
いけないか」
「今の三人でも楽しいし、今あんまり
大事じゃないかも。」
頭の中で色んな会話が流れてくる。
「これは……あぁ、ああそっか…
私…ずっと前から殺してたんだ…、大事…
なんて言っといて私殺したんだ…。」
これは全部 私が忘れようとしていた記憶だ。
エルゼを殺した事で記憶がフラッシュバック
したシイナ、
すすり泣いていると辺りは霧がかり、
気がつけば果ての海についていた。
「ゴウレム……」
苦しい表情をしながら無言で立つゴウレムが
目の前にいた。
「シイナ…その…、」
「ありがとう、力 使ってくれてたよね、
思い出したよ……、四周目がこれで二回目なのはゴウレムのおかげだよね。」
「すまない…、」
申し訳なさそうに横下を見ながら謝るゴウレム
「どうしてゴウレムが謝るの、きっと
儀式で避けられない事だったんでしょ。
やり直したおかげで次に進めたでしょ?」
「それより、色々と説明して欲しいんだけど、ゴウレムの仕事でしょ?」
平然を装っているシイナの声はとても
物悲しく、何かを悟り諦めたような顔を
していた。
「君のその顔は見たくなかった……、」
「私達おそろいだね、ゴウレム。」
そのやり取りはただただ悲しくて、
そこには何処にも星の光はなかった。
其ノ壱、無知は罪なり
其ノ弐、繰り返すは罪
其ノ参、全うせぬは罪
其ノ肆、過ちを見ぬは罪
其ノ伍、拒絶するは罪
其ノ陸、賢きは罪
其ノ漆、罪を自覚すること事こそ一番の罪なり
捌かれよ裁かれよ、七つの贖罪よ、
諦めよ諦めよ、
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