第19話 拒絶・全う


無事に溶落ノ権能を手に入れ、

残りの四人を探しに行く。


懸念していた怠さも感じず、

良い調子で歩を進めている、



「お、 海だ」



この道を進んだ先にも海があるのかと

感心する。


以前の旅と今の旅の場所、どれくらい

距離が離れているのか分からないけど

海の広大さは私が思っている以上だ。



海を見渡すと遠くの方で空が灰色に

なっているのが見える、

この辺りの今日の天気は曇りになるみたい。


雲がこっちに近づくと共に

砂のにおいが強くなる。

パラパラと雨が降り出し空の色はより

濃くなり暗くなる、



「あっ空が光った、あれが雷か…」



初めて見る雷雨、道中も沢山の岩石を見かけた

けど、四周目が始まって以来

退屈してないな……、



空はあいにくの天気だけど

雨宿りできる場所も見当たらないため

雷に当たらないよう祈りながらな進む。



このまま海沿いを進むのか

早めにこの場を去るか迷うけど

どうしたものか……、



旅の行き先に迷いあぐねていると

海の中からクウレが飛び出して現れる。


突然のことで驚いたが更に

出てきたクウレに雷が直撃して

リアクションが出る前につい唖然として

言葉を失ってしまった。



「え 、えぇー…何それというかクウレは生き

てるの?」



駆け足で雷に当たったクウレの元へ向かう、

近寄ると焼け焦げた臭いと共に

焼かれたクウレの姿が…と思っていたの

だけど

何の問題もなくケロッとした様子で

立ち上がるクウレ。



「本当に同じ人間?なんだよね……、」



私も雷に撃たれても平気なのかもしれない、

いや流石にそれは無いか……、


これもクウレだから許された体質何だろうな、



あの時私が灰白色ノ木に教えられた知識は

罪の権能について、それと付属して

予備知識ももらって死についてのイメージ

というか理解というか、

そういうものをもらった。



権能は受ける力、与える力、生み出す力と

三つに区分されるらしい、


どれか一つという訳ではなく

特にその一つが強くでていて、三つの力の

関係は切っても切り離せないものらしい。



クウレは生み出す力が一番強く

その結果受ける力も多い、


自ら食欲を生み出し、食という施しを受ける、

見たいな事だろうか。



生み出す力は特にクウレとカリムが強いが

二人の権能は、

与える訳でも受ける訳でもない、

自発的に生み出した結果に伴ってついてくる

だけであって、



奪ったり、好き勝手したり、自分のものに

することはできない、



そのため二人には権能を集める

儀式を遂行できない、なので二人には

罪に相応する特殊な体質を授けられ、

あんな化け物じみた事ができるらしい。




クウレの体質の一つは確か 強靭なお腹、

暴食しても空腹は満たされない、

けれど食べ続けて欲求を満たすよりも先に

お腹が限界を迎えては死んでしまう。


そんな罪を背負うために与えられたのが

強靭なお腹という訳だ。



良いなその無敵な胃、私も欲しい。



そうだよ、何も権能だけを奪える訳じゃない、

空腹が続くのも困るけど

その胃を手に入れて食べ続ければ何も

問題ない、それに空腹が無くなれば

まともなクウレとも一緒に旅が

できるんじゃない?



そう思うと今すぐ欲しい、欲しい欲しい、

どうして私に無いの、ずるいよクウレ、

それ私にも頂戴。




目の前にはまだその場で砂を喰らい続ける

クウレがいる、

星のように眩きその光に包まれる。



クウレ「!!?」



シイナ「あれ?お腹が空かない…、どうして?」


何か理由があるんだろうけど、

四周目が何か特別なのかな?

あとはゴウレムの権能とか?



何にせよちょっと、いやかなり期待していたの

で残念だ、

ただお腹がなり続けるのも何なので

これはこれで良かったのか…。



砂を掘る手も止め静かになったクウレに

話しかける。



「クウレー、クウレは話しってできる?」



「……、」



念のため確認してみたけど、案の定

クウレは喋ることは出来なかった。




やっぱりイロナが特別だったってことかな、

色欲による人付き合いの上手さ

だからなぁ あの物覚え、


エルゼ達の影響を与える力があれば

すぐにでも喋れると思うけど、

ここは根気強く行くしかなさそう。



「クウレ〜、私はシイナ、よろしくね。」


表情や身振りをつけながら

クウレと向き合って対話をする、


思えば初めて、エルゼとイロナ以外の

人とこうして接する。



今まで豪快に動く姿や暴れる姿を

見てきた、そのクウレがこんなにも大人しく、

また私と旅をするなんて


不思議なこともあるんだな……。








十一日後、



あんなにたくましかった

砂をかく腕も、掘り進むための足も、

なんだか華奢で細く見えてくる。



こうも静かに隣を歩かれると、

外見が変わって見えるほど

別人だと感じてしまう。




握られた手を時々にぎにぎと握る

クウレ、水色の髪に身に纏う雰囲気は

どこかイロナに近いような、

温かさを感じるような、

まだ幼さの残る仕草とは別に

大人らしさを感じさせる。




クウレ「シイナ…」



何かいると目線の先を指さすクウレ、

私もこんな感じだったんだなー、



知識のない頃の記憶はほとんど残って

いないけど、

その姿になんだか懐かしさを覚える。




クウレの指さした方には

これまでと同じように水辺で身体を洗う

イロナの姿があった。



そこにいるのは不変の美、

どれだけ水を被っても萎れることの無い

月下香、

「あぁやっぱりイロナは綺麗だなぁ。」


出会うたびに見惚れるその姿、

本当はイロナ自身が欲しいし、


イロナになりたいけど、

私がしなきゃいけないのは権能の回収、


イロナにはなれないけど、イロナと気持ちいい

ことができるから構わないか、

それにまだ知識の足らないクウレに

淫らなことをするのはなんだか

ぞくぞくして楽しそう。




星のような輝きを放つその権能

その手にする。


あれ?まただ……、権能を手にすると欲が

強くなるんじゃ……、

逆に権能が増え過ぎて欲が出てないのかな?



何はともあれ残りは三罪みっつ、色欲の

乱花ノ権能はルイーゼの溶落と同じ

与える力が強い権能、

及ぼす影響が大きくなったおかげでクウレが

言葉を覚えるのも早くなっただろう。










夜の砂漠、砂を手にして口に運ぶ、

決して美味しくは無いけれど、お腹が空くので

仕方なく目の前にあるもので

欲を満たす。

衝動的な欲求がないとは言え、欲自体が

消えたわけではないので

日が暮れる前も何度か砂を口にしていた。


それはクウレやイロナも同じで

あくまで奪ったのは権能、


少し離れた場所で同じように砂をつまんで

食べるクウレと、



砂を食べながら私はイロナと行為に

及んでいる。

クウレには嫌がられてしまったので

手を出さなかった。


各々やることやり、その日の夜を終えた。






次の日、朝早くから砂漠を歩き進む。


クウレ「少し日射しが強いですね」


昨日ですっかり言葉を覚えた

クウレがとても丁寧な口調で声をかける。



確かにこういう蜃気楼で激しく炎のように揺れる日は、怠くて進みたくなる

ことが良くあった。



実際、熱の暑さはあまり感じないのだけど、

日射しが強くて 暑いのはわかる。




イロナ「肌が焼けちゃうな…、ねぇシイナ、

休憩挟みながら進むんでしょ?

なら木陰のある湖を探して休みましょ?」




シイナ「うん、そうしようか」




クウレ「良いですね、私は海を見たことは

ありますけど、湖や木?といったものは

見たことがないので、楽しみです。」



今更だけどあのクウレがこんな喋り方を

するのは以外すぎる、

それに二人とも無理難題を

サラッと言うのだから困る。



こんな砂漠が広がる場所で一つのものを

見つける何て普通は無理な話しだと思う。


カリムかエルゼ、湖の傍にいたりしないかな…、








願いが通じたのか、私達の目の前には

木陰の広い大きな木の生える湖があった。


誘われるように湖へと辿り着いた私達、

それもそのはず、湖には

傷跡にそっと塗るように水で身体を洗う

カリムの姿があった。



改めて見ると人を殺せるだけの爪で搔いた

深い傷跡、あれで良く生きてられるなぁ…、



間違いなくそれがカリムの体質なのだけど、

カリムの体質がどういうものか

知っていると、なんともカリムが辛そうだと

感じる。



「二人ともちょっと待ってて、二人は

絶対近づいちゃダメだよ。」



イロナ「シイナ?!何するの?」



クウレ「行ってしまいましたね…」







カリムを前にしてようやく使い方が

わかった気がする……、



気持ちをコントロールして、使うのは

難しいけど…大丈夫、きっとできる。




私は今から心を込めて

カリムを殺してみようと思う。

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