第18話 賢き過ち

一度に多量の情報を送り込まれ

脳がそれを処理した結果なのか、歩く度 定期的に足下がふらつき眩暈を起こす。



まだ四周目の旅は始まったばかりだけど、

一度 この場で腰を下ろして休んだほうが

良さそうだ。


ちょうど目の前に腰を下ろすのに良さそうな

小岩を見つけ、そこに座る。



今までこういった岩や小さな石など

出発地点のすぐ側では見かけなかったけれど、

飛ばされた場所が

今までとは違うのだろう、砂漠の景色も

所々違うように感じる。



「繰り返すは罪…」



灰白色ノ木から得た記録の中に

同じ過ち、行ないをしてはならない、という

ものがあった。

それは私達が罪になるために

犯しては行けない罪の一つ、


儀式により私達は必ず引かれ合い出会う

ことになるのだが、

その出会い方や出会う場所、旅の終わり方が

同じものにはならないという決まり。




私が今いる場所、見ている景色は

儀式の決まりによる影響、今まで最初に出会う

のはエルゼだったけどもしかしたら……、



他の四人の誰かと最初に出会い一緒に

旅をする、なんて事もあるのかもしれない…、



ただカリムやクウレと一緒になんて可能なんだろうか、同じ人間である事は分かったけれど、

言葉が通じるかはまた別の問題で…、

今までの二人の様子を考えると

到底無理な話しだと思う、




ルイーゼに至ってはどういう人なのか…

まだ素顔を見ることもできてない、

原型のないあの姿が

力の影響、溶落とらくの権能によるもの

なのは灰白色ノ木から得た記録から知った。



今一番興味があって凄く会ってみたい

んだけど、

今まで会ったルイーゼは既に

力を使い終わった後…、身体が溶けるのに

どれくらい時間が掛かるか分からない以上

あまり期待しない方が良さそう。



「身体が溶けるほどの怠惰って…」

一体どんな感じなんだろう、



罪になるという役目があるのに、

その罪が役目をこなさ無い事を指すのだから

何とも矛盾している話しだけど……、

ルイーゼの役割は少々特殊なように感じる。



溶落ノ権能、他人や物に限らず、自分自身も含め

例外なく怠惰にさせ溶かすことが出来る力、


ルイーゼが溶けてたのは権能によって細胞が

身体を作る役目を果たさなかったから

…ってあれ?

今思えば細胞が働かずに身体が溶けるとか、

凄くグロテスクなんじゃ……、


「うっ…気持ち悪い……、」




むちゃ…くちゃくちゃ……


さらに畳み掛けるように自分のしたことの

記憶を思い出す、



「うぉおおおえええ」



そうだ、あの時私ルイーゼの肉を口にして……



ゴウレムの言っていたことが

理解できた、

知っていくことで後悔するには遅すぎる

ことが起きるとを今実感した。




「い、嫌だなルイーゼに会うの…」


たった今ルイーゼに会った時の記憶はトラウマ

になったので、

出会ってしまうとフラッシュバックして

しまいそう。




「むしろルイーゼは溶けたままの方が…」



五体満足な人の形をしたルイーゼに

会ってしまったら余計に罪悪感が増して

しまいそう、とは言え進まなければ

終わらないのも確かなので、



「あ、会わなきゃいけないなら 、あ 後で…、」



気を紛らわすため、一度ルイーゼに会うのを

保留にして進むことにする………

















……はずだったのに…、したかったのに……、



「なんでーー」


休憩していた所から歩いた先、

ひと一人寝ころがれるくらいの平で薄い、

大きな岩の上に仰向けになっている人物が

一人、ここから見える頭部は

桃色の髪をしており長いその髪は下の砂まで

伸びている。




「行かなきゃだよね…、」



まだ心の準備はできていないため

軽く身構えながらちょろちょろと

小さい歩幅でそっと進む、


近づいていきルイーゼの顔が見えてくる…、

閉じた瞳に伸びる まつ毛、

寝ている姿だけでもイロナに負けず劣らずの

美しさだ、


両手をお腹の上に乗せじっとした姿の

ルイーゼ、動いていないためか

身に纏う服には一切シワがなく新品同様。



「これ本当に寝てるのかな?」




微動だにせずものすごく静か…寝息一つも

聞こえない……というか息してるのかな?


胸のあたりを見ても呼吸をしている動きが

見られない、さっきまでトラウマを

気にして躊躇っていたけど、

目の前の人が死んでいるかもしれないのに

そんなことを考えてる場合じゃない、



すぐに近寄ってルイーゼの胸に耳を当てる……

……

「やっぱり息してない」


どれくらいこの状態だったんだろう、

上に乗せられた腕に触れると凄く冷たくなっている…、


権能を使って自分の息を止めたんだろうか…

死んでいるのを確認し

その場から離れようと顔を離して

ルイーゼを見る。



ルイーゼ「……………、」



シイナ「うわぁぁぁああ!!!!」



瞳を開けこちらを見つめているルイーゼ、

確実に鼓動は止まっていたはずなのに

その視線は怯えて前屈みになる

自分を捕らえている。




ひとしきり見終わるとルイーゼは視線を外し

再び目を閉じようとする、



シイナ「待ってまって!!」



このまま永眠するまで永遠と眠られても

困るので必死に呼び止める。



「あなた言葉は分かる?」



声をかけるが返答は帰ってこず沈黙が続いている、この様子だと多分この場から一歩も

動いていないようだし、性格上おそらく言葉を仮に話せたとしても面倒くさがって声を

出すことをしない気がする……、


「う〜〜んん〜〜、」



どうするべきか……、

時々ルイーゼに視線を向けながら

顎に手をやって考える、


そうだ!権能を使ってどうにか出来ないかな?

権能を使えば死なせないどころが

ルイーゼと会話することも出来るはず

なんだけど、


「溶落ノ権能か……」


私の権能 、星狩はうらやみ妬むものを

手に入れる力、私が羨ましいと感じないと

手に入れることはできない。



ルイーゼから権能を奪えば怠惰なのは

なおらなくても自殺することは無くなるはず、


「でもほとんど自殺するためにあるような

力だからな……、」


溶落ノ権能が羨ましいかと言うと

全くそんなことは無い。

むしろ一二を争うくらい手にしたくない

権能だ、



「身体 怠くなるの イヤだな……、」



与えられた知識と今までを振り返って

気づいた事がある、権能を手にすると

それに対応する欲や感情は強くなるみたい、


星狩ノ権能で一周目以降は欲や感情を

持ち合わせてるのだけど、

権能は始まるたびリセットされるので

今は嫉妬の力しか持っていない、

なのでここで怠惰の力を得ると

この場から動けなくなるか、砂山の時のように

やる気を失うか……、



「力を使わなければ大丈夫なはず……、

やるしかない…やるしかない……」



倦怠感を自ら感じに行くなんて、

おかしいとはと思うけど

背に腹はかえられない。



「休む頻度が増えるのはきっと、良いこと

だよね……」


溶落ノ権能を手に入れるため

自分を騙すように自己暗示をする、

一度目を閉じ心をスっと落ち着け

次に目を開けた時には星のような煌めきが

そこにあると思い込む…よし!



意気込みを入れて目を開く……………

………

……やっぱ…


「やっぱ無理〜〜〜!!」



こうなると もうどうしようもない、

打つ手がない以上、後はもう…


「息を引き取るのを待つしかないかー、」




このまま見殺しにしてもいいのかな?

助けられたかもしれないのに

見捨てたみたいで罪悪感が湧きそう、


死とはどういうものなのか

まだ理解しきれていないけれど、

それでも

自分が死んだらと思うと恐怖を覚える。


ルイーゼが死んだらどうだろう?

怖い……とは感じないしな…悲しい?わけでも

ないし……、



死ぬかもしれない相手がイロナやエルゼ

だったら……いや思い出したくない。


クウレに食べられるのを見るのは

本当に辛かった、悲しかった、怒りが湧いた、


そうだ、二人が死ぬのは怖い、

ならルイーゼは?


二人が死ぬのは怖いと感じるのに…、

ルイーゼと二人の違いは何だろう?



私が二人を好きだから?

好きな人が死ぬのは怖い?



どうして二人が好きなんだろう?

やっぱり一緒に旅をしたから?

ならルイーゼとも一緒に旅をしたら好きになる?



う〜ーん、分からない……



色々と考えた結果、話しが逸れてきてる

気がする、結局どうすれば良いんだろう、



このままにするのは罪悪感が湧くから

どうにかしたいのだけど……、


そもそも見殺しにする事にどうして罪悪感が

湧くなんて思ったんだろう、



罪悪感……自分が悪いと感じること、

でもゴウレムの言うことが確かなら

罪や悪はイケナイじゃなくて賢くないこと

だから……、


「見殺しにするのは賢くないのかな?」



儀式を終えるのには権能を集めるのが必要で、権能を権能で回収または奪うことが

出来るけど、今回はルイーゼと私の相性が悪く

てそれができない、


他の権能ならどうにかできるけど

探している間にルイーゼは自殺する可能性が

高いけど、

権能は所持者が死ぬと別の者に移るんだし、




「そっか罪悪感を感じる必要なんて

無かったんだ。」



ルイーゼとお話し出来たかもしれないけど、

あと三回チャンスはあるんだし

落ち込まなくても大丈夫だ。


この見殺しにしても、今死んでも死ぬのには

変わりない。



「なら殺しちゃうか。」



寝転がるルイーゼの上にまたがり

両手で輪を作りながら首の前に持っていき

そっと添える、


「息を止めれば人は死ぬんだよね…不思議、」


こうして人を殺すのは初めてだ…、

あれ?初めてだったけ?

あぁそういえばカリムとクウレの喧嘩に

割って入って殺したことあったな…


記憶を忘れてしまうくらい、

思い出ができてきたってことだよね、



「よし、それじゃあ…えいっ!」



両手の親指で優しく喉仏をつぶす、

掴みやすいその綺麗な細首を

キュッと締め上げ

声もあげずに静かにルイーゼは死んだ。








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