第22話 泣悲辛見
その木は私に教えてくれる
人は星から生まれると、
その木は私に教えてくれる
子は人から産まれると、
木は教えてくれる、星ノ子は星から産まれる
子供だと。
星ノ子、或いは
両親からではなく星から
かつてこの地を生きた人類からは、
神、妖精、夢人、断罪死、英雄・英傑と
呼ばれ畏れ敬われた。
星ノ子は死ぬことがない、決められた寿命は
無く、どれだけ首を刎ねようとよ死なず、
どれだけ燃やそうと灰にならず、
どれだけ歳を重ねても老いることはない。
星ノ子にとっての”死”とは与えられた役目を
終えた時、
それは人の子も変わらないが、
中にはたった一日だけの生命しかない
者もいた。
不死身 、不朽と人々に言われていたがその実、
初めから生きてなどいない、それ以上死ぬ
ことのない
死人やゾンビと変わらぬ者達。
私達 七人は、その”星ノ子”であり、
クウレが落雷に撃たれても死ななかったり
したのはそれが私達にとっての”死”では
無かったから。
ゴウレムの言っていた、答えを出さなければ
億年を生き、と言うのは
私達が星の行方を決めるというスケールの
大きさによる物だろう。
もしその選択をとれば、私達の寿命は数億年となり、おそらくこの星で一番
長く生きた生物になることになる。
星ノ子にとってある意味 生命と言える
その
中には特定の人物を守るのが
だった者もおり、
その星ノ子は守るべき相手を好きになり
そして命を懸けて大切な人を守ったという、
役目を全うするため星ノ子は与えられた物を
大切する、それを失うことは死よりも
恐ろしく、誰一人として役目から逃げた者は
いなかった。
星ノ子と人の子、互いに好きになり
愛を知り、添い遂げる道を選んだ者もいた、
だが星ノ子には生殖機能が存在しない。
生物として見た時にそれは個で完結しており、
また役目を果たすためにそれ以外の物は
必要としない。
中には特定の人物、特に歴史を変えるほどの
人の、子を残すためだけに
生まれ子を作ることができる星ノ子も存在
した。
けれど基本は
生殖器はついていても、それは機能すること
のない模造品でしかなく、
愛を知っても愛を形にすることは許されな
いのが星ノ子だった。
私達の色欲はただの快楽を満たすもので
当然子を残すことは出来ない、
ましてや私達は全員女で
生殖行為にすらならない。
子を残せない私達にとって、この知識は何も
得を得ない、だというのに………、
「産まれてくれてありがとう」 「この子が私達の子なのね」 「俺が君とこの子を守らなきゃな」
「見て、今お腹を蹴ったわ」「流産…あぁどうして…そんな…」
「先生、私が悪かったんですか!?」
「僕と付き合って下さい」「昔からあなたのことが…」
「その人は誰?ずっと騙してたのか?」
あぁ色んな
どれも私には関係なくて、
私には知る由もない、
私には愛し合う人がいない、
裏切られる悲しみも喪ってしまった喪失感も、
産まれることの尊さも、全て私は知らない。
なのに……、
知らないはずの気持ちが流れてくる。
堪らず胸と口を押さえて気持ちが溢れない
ようにする。
気がつけば目から涙がポロポロと溢れて、
小刻みに震えている。
こういう気持ちも…知っていかなきゃ
いけないんだ…、
知りたくない…知りたくない……
進むと決めたそばから、既に挫折しそうに
なる、
「すぅーーはぁ〜〜〜、」
「……ぁああんああぅあぁあぁ〜〜、」
気を入れなおそうと深呼吸したがかえって
逆効果だった。
一気に気が解けて声を漏らしてしまう。
────────────────────
それからしばらく泣きじゃくり、
落ち着いてから旅を始めた。
イロナ、ルイーゼ、クウレ、エルゼ、
四人の権能を殺生なく手に入れたかった
のだけど、
感情の整理ができるはずもなく、
特にイロナと出会った時には
営みについて深く考えこんでしまい、私は結局
四人を殺す羽目になってしまった。
ゴウレムの言う通り、五周目の旅を私は一日で
終わらせることが出来た。
一日かけて四人を見つけ、殺し、そして
果ての海へと着く。
「あぁ逃げたい」でも逃げられない
「あぁ死にたい」でも死ぬことが出来ない
「あぁ死んじゃう」何をしても終わる
あぁ叫ばずにはいられない。
泣かずにはいられない、このまま目を閉じて
すぐに何もかも無くなれば……
血に汚れ穢れた手で灰白色ノ木に触れる、
「あと二回……あと…二回……、」
もう自分には皆を殺す以外に進む道は無い、
それがあと二回もあるなんて……、
あぁ辞めてしまいたい、でも…こんな苦しい
一日を同じように億年生きるなんて
耐えられない。
「あぁ…ああ…、あぁあぁ、」
言葉も出せない状態の私に、木は構うこと無く
記録と記憶を流しこむ。
「国民の皆さん目を覚ます時です!
今の法ある社会、いや社会そのものが自由を
奪っている。支配から解き放たれる時が
今なのです!」
「貴方も罪に酔いましょう、今から貴方は
自由です。」
「おかしい?何言ってるの?おかしいのは
アンタの方よ、この世界に決められた
ルールなんて無いでしょ?好きな男を殺して
何が悪いのよ!!」
「人類諦めた方が良いんじゃない?
止めはしないよ、でも生きる希望を繋げたいなら罪に頼るしかないよ?」
これは…七廻着海が出来た経緯か…、
そうか…そういえばゴウレムが
星はたまたま七廻罪海を見つけたんだって
言っていた。
「これで私達人類が生きていたことを
証明する……罪を背負う子達にはきっと
苦しい思いをさせてしまうが…」
「どうか、この尊き思い出を残させてくれ、
星に私達の祈りを届けてくれ。」
灰白色ノ木から流れる
ゴウレムは七廻着海を自殺装置と言っていた、
確かに今はそういう物なのかもしれないけど、
元々は星と人の意思を繋げ通じ合うために
創られた物らしい。
七廻着海を創った創造主は
法という縛りの無い時代、
人が最も寄りかかり縋った宗教団体の名だ。
その時代、自由を手にした
人類が信仰したのは”罪”
罪という概念は消え失せ
どれだけ怠惰に過ごしてもやりたい事だけ
をして人が生きれた時代。
生温い元い平穏な生活に人々は生き甲斐を
欲し、
罪とまで言われたその在り方を
より強くすることで
さらなる自由が手に入り、
それが進化の道に
繋がると信じて人々は教会を作り上げた。
しかし、その信仰は理想と化し
罪を残して消えてしまった。
固定概念に囚われた者も目の前の自由に手を伸ばし
人々は罪の概念を忘れていったが、
半世紀以上に渡り再び価値観は回って
戻っていった。
結果、
戦い争い続ける、国同士の戦争が激化し
人類は自ら滅びの道を選ぶ羽目になった。
滅ぶ間際、人類が滅んでもまた星が人を
産んでくれるよう、
星に人の存在を忘れられぬよう
灰白色ノ木に”罪”という形で
人が生きた証を刻んだ。
この
おそらく灰白色ノ木も『星使者』か何かなんだろう、人類がどう滅んだのか、
あの木がどうやって出来たのか、
詳しい事は次に行けば分かるだろう。
「ん゛んぁ゛あ゛!!」
視界にエルゼを捉えた途端、
一緒に歩いていた
クウレの背中に回り込み、口を手で
押さえながら
背中から手刀で突き刺す。
権能が入ったのを確認すると
速やかにエルゼの元へと走り
口と喉元を押さえながら押し倒す。
その勢いのまま喉を潰し息を止める…、
たったの二周でここまで楽に殺せるように
なった。
少しでも罪悪感を消したくて、
声を上げてもらわないよう口を封じている
けど、「今のはギリギリアウトかな」
まぁでも、上手く殺せたみたいで良かった。
自分の中の歯車がどんどんズレていって、
頭がおかしくなっているのを感じる。
あぁでも、これもどうにもならないんだ…、
今さら思い詰めて考えるのなんて馬鹿らしい、
「もう何が辛くて何が苦しいかなんて
分からない……」
とりあえずこれで全員殺せた、
六周目もこれで終わり……、
「あぁ、まだ日も暮れてない……」
空を見上げるとジリジリと照らす太陽は、
まだ傾くことすらしていなかった。
あぁ今日はよく燃える…、
暑い陽射しが何だか自分を罰しに燃やしに
来ているようで、
照りつけるその光が救いに感じた。
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