第12話 星狩ノ星屑
二体の獣に向かって爪を伸ばすシイナ。
そのまま勢い良く飛びかかり
鋭い一撃をお見舞いしようと手に力を込める。
しかし同じように伸ばされた二本の腕が
伸ばした腕よりも速く自分の顔と腹部目掛けて
飛んできたため素早く
身体を丸めて地面に急降下する。
着地した瞬間、間髪入れずに突っ込み
両手で二体の獣の皮膚を
爪で裂いてからその間を通り抜けていく。
傷をおわせた二体の獣からは血がこぼれる。
「はわぁぁあ」
傷つけるという行為そしてその感触に
歓びの声を上げるシイナ。
傷つけられた痛みに怒りを覚えたのか
カリムは目の前にいるクウレに目もくれず
拳を振り回しながら
シイナを襲おうとする。
それに気づいたシイナはすかさず距離を取りな
がら大周りをしてクウレの
いる方へと向かう。
追いかけるカリムに対してクウレが盾になる
よう、上手く背後に立って
二人をぶつけ合わせようとする。
ただクウレも何もせずただ立っているのでは
無く、背後を取ろうとするシイナを
体の向きを変えて捕まえようとしている。
しかしそれも見事な身のこなしで
交わしていくシイナ。
華麗に動く今のシイナの様は俊敏という言葉
が似合う。
前の方からカリムが襲ってくるのを
クウレを盾にすることで上手く捌いて
二人を見事、ドミノ倒しさせることに
成功した。
シイナは二人の上に跨り、
背中を向けて倒れているカリムの背中に、
爪で傷をおわせる。
一番下で下敷きになっているクウレは
上で暴れるカリムの頭を手で押さえつけ、
眼球や鼻を噛みちぎる。
下と上からの猛攻に声をあげながら
じたばたするカリムは使える手を必死に
動かして脱出を試みようとする、
しかしトドメの一撃と言わんばかりに
振り回される
カリムの腕の逆関節に、思いっきり力を込めて
踏みつけるシイナと、
泣き叫ぶカリムの喉を噛みちぎる
クウレ。
腕の折れる一瞬の音と共に、
砂漠中に響いた声は失われた。
静かになったその肉塊を頭からかぶりつこうと
するクウレ、
その甘美な血の味に意識を持っていかれ
目の前でまだ攻撃の手を緩めない
シイナの存在を失念している。
ガリガリと皮膚を削ぎ赤く新鮮な血の色をした
肉が見えるまで掻き続ける。
ボリボリ、ガリガリガリ
ガリガリガリガリガリガリガリガリ
ぐちゃ、 ぐちゃ
ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ
皮膚という薄く丈夫な壁を突破して、
血の色の中身を掘り進めて行く。
掻いて掘ることで飛び散る肉片と
サラサラな血にドロドロした血、
赤い海と共に広がる鼻をくすぐる臭いは
とても素敵だ。
あぁ止まらない、この行為が
とても気持ちい。赤い海というより
赤い水の湯船に浸かったような
心地良い温かさを感じる。
恍惚とした笑を浮かべながら
天を見上げる、あぁまだ明るい…。
空は青く澄み渡っていて、
赤い景色がよく見て取れる。
「暗くなったら良く見えなくなっちゃう」
だからこの目に焼き付けておかないと…、
その後も肉がぐじょぐじょに無くなるまで
掻いて、日が暮れて暗くなると同時に
意識は遠のき視界は暗く閉じて
深い眠りについた。
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どれくらい時間が経ったのだろう。
今はとても眩しいほど太陽が輝いてる
けれど、
一日が過ぎたのだろうか、それとも
もっと……、
記憶が……、意識がハッキリしない。
昨日?と同じように、今度は自分の
頭の中の記憶を掘り起こす。
「えっと、確か……う、う〜…、」
おぼろげな記憶を呼び覚ますため
懸命に頭を振る。
「おぉぉおもい思い出せないぃい〜〜〜、」
その場を行ったり来たりして
振り絞るように考え込む。
昨日?の場所を見れば思い出す事もあるかもしれない、
と思ったのだけど、
寝ている間に強い風が吹いたのか、
脳裏に焼き付けた血の量よりも明らかに
少ない。
というか殆どあとが残ってない。
倒れた二人についても、影も形も
残っておらず分からずじまいだ。
「記憶が飛ぶ程 疲れてたのかな、」
あれほど夢中になっていたのは初めてだ、
張り切りすぎて
身体に負担をかけてしまったのかもしれない。
記憶を思い出すのを諦めて
ムリをしたのなら仕方ないと、
自己完結させるため思考を切り替えようと
する。
「冷た !!え?水!?」
いつの間にか足下が水に浸かっている…。
見渡すと辺りは霧に覆われ
星は悲しい色をしている。
「な、なんで……、ここは海から離れて…、」
海を発ってから三週間、どのくらい
距離があるかは分からないけど
ここはかなり離れた場所の筈………、
さっきまで雨は降っていなかったし、
同じ場所を歩いていたから
知らぬ間に湖や海にたどり着いた訳でも無い、
「前より随分 感情的だな、すっかり
自分の物と言わんばかりに馴染んでいる
じゃないか。」
シイナ「貴方また会えた…って覚えているの!?」
???「ここへ来たら話してやると
言ったからな……、ああ、その通りだ。」
シイナ「私しか覚えてなくて…あなたは
どうして……、」
???「どうして…か、私がそういう人間だから
としか言いようがないな。」
シイナ「あなたは何者なの?」
???「またその質問か、言っただろう?
私に名前は無いと…、」
「だがそうだな、私のような人間は
傲慢、と呼ばれるのだろうな」
シイナ「ごう…まん?それが
アナタの名前なの?」
傲慢な人「まぁそう呼ばれるのだし、
一応 私の名前になるのかな」
傲慢は変わらず淡々とした口調で
名前を告げ、こちらを見つめる。
傲慢な人「あぁそういえば、好き勝手させてもらってる分奪われる時はおとなしく…、
なんて思っていたんだけどね、」
突然、自分には分からないことを言い出す
傲慢。
傲慢な人「君のあれは酷く恐ろしい…」
シイナ「あれ?酷い?」
傲慢な人「そういえばまだ
焦点が合ってないんだったな、」
「すまない、こちらの話しだ、
私が言いたいのは話しが終わったら
気にせず進めとそう言いたかったんだ。」
傲慢はシイナを手招きして
自分の元へ来るよう誘う、
そばに行くと手を差し出すよう促される。
「!?」差し出した手を掴まれた瞬間
その手に熱を感じる。
傲慢な人「確かに渡した、コレでもう私を
襲ったりしてくれるなよ?」
シイナ「な、何をしたの?」
傲慢な人「これは必要な儀式だよ。」
シイナ「儀式?」
傲慢な人「そう、シイナ
経験した事を無き物とされるのを
懸念していたが、あの旅のことは
消えたりしていないよ。」
シイナ「それはどういう……」
傲慢な人「君が最初に旅したのは一回目、
この旅は二回目、星は廻り続けるが、
君は、私達の刻は旅が終わる度戻される。」
シイナ「あれは自分の夢なんかじゃなくて、」
傲慢な人「そう現実さ、」
シイナ「同じことが繰り返されるのは
儀式だから?」
傲慢な人「
七つの罪を七度集める儀式。」
「集められた罪は辿り着いた果ての海にて
洗い流される。」
シイナ「それは何のために?」
傲慢な人「海というのは初まりの場所であり
終わりの場所、新しく始める為、或いは
全てを終わらせるために私達は存在する。」
分かりずらい事を言われイマイチ
質問に答えてくれているのか分からない。
シイナ「ねぇ傲慢、罪って何?」
罪とは何なのかを聞こうとすると、
傲慢は口元に人差し指を当てて
「次会う時を楽しみにしてる、三周目も
頑張ってくれ。」
そう告げていつの間にか目の前から姿を
消してしまった。
シイナ「罪っていったい……、」
目線の先に白く光る星ノ木を見つける。
あれに触れたらきっとまた、
旅をやり直すことになるんだろう、
傲慢は三周目と言っていた。
「あと五回、」
あれに触れずにいたらどうなるのか
考えていたけれど、
白い輝きに目を奪われ、吸い込まれるように
歩み寄る。
触れずにはいられない。
白い木に触れ、景色は一面の砂漠に変わる。
こうして私の三度目の旅が始まった。
歩くよ歩く、罪はまだまだ歩いてく。
罪と共に歩いてく、罪滅ぼしはその先で。
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