第11話 三罪回らない
胸の奥が晴れるような爽やかさと共に
朝を迎える。
目が覚めて起き上がると、そこに居るはずの
二人はいなかった。
昨夜みた夢は正夢か、二人が消えたことに
一瞬、焦りを覚え辺りを見渡したりするが、
今はそれ以上にとても気分が
良く心地良いので気にしないことにした。
急ではあるけれど、私の旅は一人旅となって
変わらずこの砂漠の上を進んで行く。
もう少し進んだ先に小さな湖があったはず、
喉もさほど渇いていないし、身体も汚れていないけれど、
何だかとても身だしなみを綺麗にしたい気分だ。
例え目的が無かったとしても、
例え一人になったとしても、
私はあの旅と同じ場所に向かうとしよう。
湖にて水浴びを済ませた後
あの旅と同じように海へと辿り着くため、
数日かけて 砂の上を歩いて行く。
海に近いこの砂漠地帯は砂山がとても多く、
山を越えるにあたって
一人では登りづらい場所も幾つかあった。
高低差のある砂山が
幾つも並んでるため、三人で旅をした時も
私が根をあげていつもより休憩する回数も
多かった。
シイナ「ふぅ本当に辛いなーここは、」
何度目かの深呼吸をして、肺に空気を送り込む。一人だけになると足を止める回数も増え、
自分の進む気の無さに失望する。
進む気がないわけではないのだけど、
歩いている時、その先の疲労を考えると
足は重くなるし、
砂山を越えなければ海は見れないのは分かっているけれど、その砂山を越えるというのが
どうしても怠く感じて嫌なのだ。
「あーダルいー行きたくない」
砂上に寝っ転がりゴロゴロと転がってみる。
このまま移動できたら良いのだけれど、
砂山を転がると登りきれずに下に転がってしまうので、結局自分の足で進まなければ
行けない。
「はぁーー〜〜、、、」
やる気を出すというのは凄く骨の折れる
ことで、大変だと思う。
一向に進む気がおきず、
進んでは足を止めを繰り返し、
海まで歩くのに
四日もかかってしまった。
「つ、ついた…、」
息も絶え絶えになりながら
ようやく海へとたどり着くことが出来た。
それでもまだ歩かなければいけない
事実にいよいよ苛立ちそうになるが、
それで何か変わるわけでもないし、
余計に疲れて怠くなるだけなので諦めて
とぼとぼと海沿いを歩くことにする。
あの旅と同じように、これまた四日かけて
浜辺を歩いていく。
休憩には水浴びをして身体を洗ったり、
砂でお山を作ったりと
それほど退屈せずに歩けている。
歩けている……のだけど、海へ来てから
それほど歩くのをサボってない筈なのに
特に変化のない景色が
ずっと続いてる。
「おかしいな、そろそろクウレに会えるはずなんだけど……、カリムの姿も
見えないな……。」
こう立て続けに違うことが起きると
不安にならずにはいられない。
海に着いてから考え事をしながら歩く時
ふと思った事がある、
私は今とてもあの旅に縋っているのだと…、
私の知っていることは ほんの少しだけしか
なくて そのほんの少しが
あの旅についての記憶で、
初めてのものを大事に大事することで、
それ以外のものを知らず 、受け入れ難く、
そんな気持ちの中
初めてに似た何かが
この気持ちに迫ってきて心を揺さぶっている。
私のように同じようなことをもう一度、
繰り返す人はいるのだろうか、
その誰かは、似たような景色を前に冷静で
いられるだろうか、
不安になったりしないのだろうか、
知っているけれど違う物が、今度は
全く知らない別の何かになっていたら…、
不安から来る考えは好奇心をも恐怖に
変えてしまい、進む足を止めようとする。
「やっぱり時間をかけ過ぎたかな?」
さすがに四日もかけて海へ着いたのは
不味かったかもしれない、
と何も起きない状況に不安と後悔を感じる。
「不安…、後悔か…」
あまり喜ばしい事ではないけれど、
この感情はあの旅では味わえなかった
今回の旅で得た物だ。
これが得るものだと言うのなら、
面倒くさいと感じる事も、怖い思いをする事も、今はそうでなくても
私に必要な事なのかもしれない。
そんな風に思った所で今日と言う日も
終わろうとしていた。
「結局クウレやカリムには会えなかったな、」
いつに無く考え事をしたせいか、
疲労と共に眠気が襲ってくる。
「ふぁダメだ 眠い…」
ザッと砂の音を立てながら
勢いよく倒れこんでそのまま眠りについた。
寝る前の最後に、クウレやカリムの事を
考えていたからだろうか、
夢の中にクウレやカリムが出てきて
その二人は争っていた。
私が二人の元へ向かおうとした所で
目が覚めてその夢は終わってしまった。
けれどその夢を見たせいだろうか、
砂漠の方を見て何となく、この方向に
どちらかがいる予感がする。
「海は見れなくなるけれど、仕方ないか、」
海を右手に北西の方角へと足を運んでいく
シイナ、
そこからの旅は今までで一番長く、
海辺からクウレカリムの両者がいる場所まで
三週間の長旅になった。
「あっクウレ、カリムも一緒にいる。」
縄張り争いだろうか、初めて会った時と
同じように両者はぶつかり合っている。
海辺を発ってから三週間、
不思議と疲れる事もなく あれほど
時間をかけた砂山は一日もかけずに
越え、その後も黙々と進んで行ったシイナ。
「随分傷ついてるな、」
長いこと争っていたのか、両者は
全身傷だらけで争った形跡は
砂漠を赤く染めている。
「カリムのあの線って傷跡だったんだ…。」
新しくできた 引っ掻き傷を見て、あの線が
身体を掻きむしって出来た傷跡だと気づく。
クウレ「ぐぁあああぁ!!!!!」
カリム「らぁあぁああぁああ!!!」
そして砂を染めるあの赤い液体は、
シイナ「あれが血かぁ…、」
血と言う言葉が自然と口にでる。
どういうものなのか、正しく理解できて
いないけれど、
あの赤い血はとても興味を引く。
心が弾んでつられて身体も弾んでくる。
「はぁあ、はぁあ」
好奇心が抑えられない、
あんなに大量の血を見るのは初めてだ、
興奮する、もっと見たい、
どうやったら血は出てくるんだろう、
二人の引っ掻いた跡から血が垂れてる。
あれか、
あれだ!
私も、私も同じようにすれば!!
シイナはクウレとカリム、二人に向かって
全速力で駆けて行く。
他所から来た来訪者に驚き、
一瞬手を止めて淀ろむ二人、
しかしシイナの瞳を見るやいなや直ぐに
殺意を向け相対する。
そして
三体の獣が集い、三つ巴の戦いが今始まる。
見つからない、
大事な何かを見つけるまで、先には進めない。
進めない進めない罪を欲して手にするまでは。
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