第10話 青い君

降り出した雨の中を進み崩れた建物へと

辿り着く。



エルゼ「うわぁ、ボロボロ!!でも隅によれば

雨宿りできそうだよー!」



あの旅のエルゼと同じセリフに安心する、

一応ルイーゼのいる建物 以外にも

何かないか確認してルイーゼのいる場所へと

向かう。



エルゼ「何あれ!?」



建物にすぐ入って隅の方に見えるルイーゼに

反応するエルゼ。



エルゼ「これなんだろう!?これも人かな!?」



シイナ「ルイーゼは……、うん一緒」


特に変わった様子は無いあの旅で見たもの

そのものだった。



エルゼ「これルイーゼって言うの?」



シイナ「え、あ うん、私も全然知らないんだけどね」




エルゼ「そうなんだ、なんだろうこの白いの?

溶けてるやつは赤黒くて何か臭いけど…、」



それは私も気になる、この時よく分からない

物体を口にしたせいで痛い目を見た。


今思えばこんなに臭いを放つ物を口をしたのか

と自分に対して思う。



シイナ「エルゼ、口にしたら駄目だよ。」



エルゼ「し、しないよー流石に臭くて

無理だって〜〜、」




それから 同じように、ルイーゼから離れた

端の方で数日間、雨が止むのを待った。



今回は赤黒いあれを口にしていないので、

次はどこに向かうのかエルゼと話し合う。

エルゼが行きたい場所に指を指して

その方角に進むことになったのだけど、

エルゼの指した場所は奇しくも

イロナがいるであろう あの湖のある方角だった。

あの時はとても怠くて記憶が少し曖昧だけど、

確かこの道を通ったはず…、

あの旅と同じようになるなら必然なのかも

しれないけれど、もしかしたら私達は

引かれ合う運命にあるのかもしれない。



数時間ほど進むと茶色に濁った水溜まりが

広がる場所に着く、この辺りの記憶は

ほとんど無いので少し新鮮な気持ちだ。



エルゼ「この辺りは水溜まりが多いねー」



シイナ「そうだね、もう少し綺麗な水だと

良いんだけど…」



エルゼ「ねぇ!シイナ!あれ湖じゃない!?」



シイナ「ほんとだ、湖だねアレ」


目線の先に大きな湖があるのを確認する。

遠くから見てみると案外 広かったんだと

いう事を知る。


そこからもう少し歩いて湖まで辿り着く。

シイナは早速イロナが湖にいないか

探すため辺りを見渡す。



エルゼ「綺麗だねー何だか気持ちがスッキリ

するよー」


シイナ「うん、凄く綺麗…(イロナがずっといたのも少しわかるな)」



初めて見るイロナを注視し過ぎて

景色を眺める事もあまりしていなかった

気がする、一度経験して知っている事でも

新しく気づく事もあるんだなと思う。



エルゼ「ねぇシイナ、あそこに誰かいない?」



シイナ「いるね、湖より綺麗」



エルゼ「うん、その通りだね、あんなに綺麗な人がいるんだね。」



意識がハッキリした時にはイロナの顔だけが

目に映っていたけど、

こうして湖と比較して見ると更にイロナの

美しさがとてつもないものだと認識する。


水浴びをするイロナの 淑やかな姿はまるで、水

そのものを装飾品としてしまう様な

湖を自分のものにしてしまう美しさだ。



どうやらイロナもこっちに気付いたらしく、

一度服を取りに向こう岸に戻り

こちらへやってきた。



エルゼ「あなたも人なの?」



イロナ「……?」柔らかい表情をしながら

不思議そうに首を傾げるイロナ。



エルゼ「ねぇシイナ、この人言葉が分かってないみたいだよ?」



シイナ「そうみたいだね、あなたの名前は?」



イロナ「な まえ?」



シイナ「エルゼ、この人に

名前をつけてあげたら?」



エルゼ「良いね!うん、そうだな〜〜

なんだか色っぽいからイロナで!」



やっぱりエルゼはイロナと名前をつけた、

違う名前になったりする可能性はあるのかな?



そして私達は夜の湖で言葉を交わし、

朝になってイロナを加えた三人旅をする事に

なった。



三人で旅をしてから何日か経過した

とある昼の旅路、

シイナはあの旅でイロナと二人寄り添い合った

あの日の夜を思い出していた。



あの旅の通りになるなら、

もうとっくにあの夜の事が起きているはず…、

あの時と何か違うことをしたかな?

思い当たるものがあるとすれば

そんなに視線を送ってない事くらい…?



こういう想定外を望んでいた訳だけど、

実際に起きると少し不安になる。

結局 何も分からず、謎が謎のままになって

しまうのは宜しくない。


今夜はイロナをよく見て話しをしようかな…。




エルゼ「ねぇイロナ、イロナはどうして

そんなに綺麗なの?」



イロナ「綺麗?私が?エルゼは綺麗って

何かわかるの?」



エルゼ「え?綺麗は…えっと何だろう

よく分からないけど、そう感じるって言うか

なんというか……、」



イロナ「え〜〜?エルゼが分からないんじゃ

私だって分かんないよ。」



何やら前の方で二人が話している。

考えるのもこのくらいにして、

会話の輪の中に入る事にする。




シイナ「二人は何を話してたの?」



エルゼ「あれシイナ聞いてなかったの?

今ねイロナはどうして綺麗何だろうって

話してたの。」



シイナ「なるほど、確かにイロナは綺麗」



イロナ「シイナは綺麗って何か分かる?」




シイナ「綺麗が何か?」

考えてみたら綺麗って何だろう。


本当に言葉と言うのは不思議だ、自然に使う

ことが出来るのに

その本質を知ろうとすると途端に

分からなくなる。



シイナ「うーん、イロナの個性って奴かな」




エルゼ「個性!確かにそれかも!」



イロナ「個性って?」



エルゼ・シイナ「「えーーっとー、」」


一つの言葉をまた別の言葉で説明するというのはどうなのだろうか…、

もしかすると、言葉と同じように

この旅の謎も、知らないことが分かっても

新しくできた知らないが増えて

知らないままが続いていくのかもしれない。



エルゼ「ごめんイロナ、上手に説明出来ないや……」



イロナ「ねぇエルゼ綺麗ってどんな感じ?」




エルゼ「どんな感じ…………、えっとイロナを見てると綺麗だなって思って、きらきらしてるように見えてきて胸が熱くてちょっと苦しい…。」



イロナ「エルゼ胸が苦しいの?大丈夫?」



心配そうに首を傾げるイロナと

イロナから目線を逸らすエルゼ。



エルゼ「うん苦しいのは大丈夫なんだけど、

あんまりイロナに見つめられると

息が出来なくなっちゃうな。」



イロナ「私が見ると息ができない?ねぇ

シイナもそうなの?」



シイナ「確かに……(イロナの瞳や肌を見たり

身体が触れると息が荒くなる)」




イロナ「そんなーそれじゃあ私、二人の顔をみれないよ?」



凄く悲しそうな顔をするイロナ、

慌ててエルゼが慰めようとする。



エルゼ「確かに胸がドキドキするんだけど、

でもイロナが嫌だとか見たくないとか

そういうのじゃなくて……、大丈夫だから、、

ね?イロナは私達のこと見ても大丈夫だよ?」



イロナ「本当に?二人に嫌われるのは

私寂しい。」



シイナ「エルゼもイロナも好きだよ」



エルゼ「私も二人のこと好きだよ!」




イロナ「シイナ、エルゼ、二人共〜〜!!」



感極まってイロナが二人に抱きつく、

イロナに抱きつかれ肌が密着しその身体から

放たれる香りが二人の思考を止め

やがて息まで止めてしまいそうになる、

それを阻止しようと必死に身体の機能が働き

はぁはぁ と荒い息となる形で

その身を守ってくれている。





それから程なくしてイロナが二人から

離れ、旅は再開された。


余程 長いやり取りだったのか

気がつけば空は頬赤く染めるような

綺麗な夕日と化していた。



日が沈むまで

砂漠を歩いて、いつものように夜になると

腰を下ろして会話する。


二人と違ってあの旅のことを知っているから

なのか、夜になると私は瞼が重くなり

眠りについてしまう。


もしかすると私が寝ている間に二人は

私の知らない事を話していて、

あの旅とは違う展開が起こるかもしれない…、



私が知らない事を話しているのも

知らない出来事が起こるのも正直たまらなく

イヤなのだけど、

夜になると好奇心や言葉よりも強く

眠気が表に出てきてどうしようもない。



二人が楽しそうに話しているのを最後に、

私の意識は暗闇へと落ちていった。



イロナ「ねぇエルゼ、」


エルゼ「なに?どうしたの?」



………………………………

……………………………………。


エルゼ「え?どうしたのイロナ?!

何か言ってよー!?」




話しかけたイロナは無言のままエルゼを

見つめる。熱い視線に耐えかねた

エルゼは手をぱたぱたと扇ぐような素振りを

してイロナから目を逸らした。



イロナ「ちょっと何で目逸らすの?」



エルゼ「だってイロナが見つめてくるから…

どうしてイロナはこっちを見つめるの?」




イロナ「エルゼ達が私を見るとドキドキする

って言ってたでしょ?

私も二人を見てドキドキするのかなって。」



エルゼ「だからってそんなに

近寄らなくてもいいのに……」



イロナ「どうして?こうしたら もっとエルゼのこと見れるでしょ?」



エルゼ「でもこれ以上見られると……その…」



イロナ「どきどきする?」



エルゼ「する…ってちょ!?」



エルゼの胸に耳を当てて鼓動を確認するイロナに動揺してエルゼは固まってしまう。



イロナ「本当だ、エルゼの胸 凄く鳴ってる。」



エルゼ「も、もういいでしょ…?」



イロナ「ねぇエルゼ、エルゼの鼓動を聴いてたら私もドキドキしてきちゃった。」



そう言うとイロナはエルゼの首の後ろに

両手を回してその顔を覗き込む。



イロナ「ねぇエルゼ、私の目を見て?」











暗闇が私の不安を悪夢にして寄り添って来る。

夢の内容はイロナとエルゼ、二人が私を置いて

どこか遠くに行ってしまう、そんな夢。


私は必死に追いつこうとするけれど、私の走る

足は二人の歩くスピードに追いつけない。

一人されるのが堪らなく悲しくて、寂しくて、

涙を流して…、


悲しみがやがて自分の胸の内をいて

いる。


私もイロナの隣りを歩きたい、ずるい、


私がエルゼとお話ししたい、 良いな



私はイロナの綺麗が好き、羨ましい



私はエルゼの好奇心を凄いと思う、私がもっと



あぁ私の方が、 私より、 私だけ、


私には、 私だって、 私が、私も、私に 私


私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私わたしわたしわたしわたしわたしわたしわたしわたし、


けてしまう、 けてしまう、


けてしまう けてしまう



あなたの物が欲しい、あなたと言う者が欲しい




あぁ





隣りで貴方が歩いてる、貴方もあなたの歩く道も私にはとても輝いて見えて…、

あぁ輝く君、青い君、隣の芝生が青く見える。

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