第9話 知る識
シイナ「え?エルゼはあなたの名前で……」
エルゼ「名前?そっか人って名前があるもの
だよね、よく知らないけど。」
「エルゼってあなたが付けてくれたの?
素敵な名前!ねぇあなたも人であってる?
あなたにも名前はあるの?」
エルゼの質問攻めに合うシイナ。けれどその
問いは、初めて会う者に向けられる物で…、
シイナ「えっと、私はシイナ。多分あなたと
同じ人だよ。」
とりあえず自分の名前を口にしエルゼに返答
するシイナ。未だに状況を把握できていないで
いるが、まずは受け入れ頭の中で整理を
つけていく。
悲しいことに覚えていないのか何なのか、
このエルゼは私と初めましてらしい。
私とエルゼ、イロナの三人で共に旅した時間や
思い出、培われた物全ては私の中にしか無い
物に
なってしまったのだろう。
頭の中で淡々と出した言葉に胸が
苦しくなる。
あの旅が私の夢なら、同じ歩みを辿るの
だろうか、私が見た景色はどういう扱いになるのだろう、夢?で合っているのだろうか。
夢だとしたら、夢では無いのなら、あの旅は
何を意味しているのだろう。
答えはでないまま、砂漠の夜がやってくる。
夜が過ぎるのはあっという間だった、さっき日が暮れたばかりなのに空が薄くなって
明るくなり始めている。
今までで一番、夜を短く感じたかもしれない…
エルゼが何か話していて、それに受け答えして
いたはずだけど、何を話していたのか正直
覚えていない。
頭の中はずっとこの状況について考えるのに
いっぱいで、上の空になってしまう。
結局、何も分からないまま流されるように
エルゼと共に旅をしている。
時の流れは早く、
記憶の中と変わらない景色を見ながら何日も
歩いてる。
あぁ、見たことある景色、ここも…あそこも…
知っている…、知っている………。
エルゼ「良かった!一緒に旅してくれて、
砂漠以外のものが観たくてたくて
歩いていたんだけど、最近一人は寂しいなって思ってたんだ。」
何度も見た笑顔に 聞いたことのあるセリフ、
変わらないエルゼの流暢なお喋り。
私が知ってるいつもの光景。
あの旅が、あの胸の熱くなる思いが夢だとは
とても思えない、
けれど確証もなければ真実に辿り着く方法も
私には無い。だからまずは あの青い瞳の人を
探そう。
あの人は何かを知っていた、私に関すること、
エルゼのこと、きっとイロナや
今まで会ったクウレ達のことも知っているはず、
エルゼ「うわぁぁぁ〜ー!シイナーー助けてーー!!」
気がつくと砂穴にエルゼが嵌っている、
ここはもうクウレの居る穴砂漠らしい。
シイナ「クウレは何も変わってないのかな…」
穴砂漠を前にふと疑問を抱き考え込む。
エルゼ「え?シイナ!?もしかして伝わってない?と言うか聞こえてない!?あの、
シイナ〜ー私を引っ張って!!私の声届いてーーーー!!!!」
シイナ「うーん、行けば分かるか……、」
会えば分かる事なので深く考え込まず、
エルゼを穴から救い出す。
エルゼ「あ〜〜良かったー、もう出れないかと
思ったよー、ってよく見たら!」
「うわぁーー凄いねー!シイナー!
ここの砂漠は、私達が歩いてきた砂漠とは違うのかなー?」
周りの穴にも気付いたエルゼはとても興奮して
はしゃいでいる。
エルゼ「うん?何あれ?砂煙が上がってる、」
シイナ「行ってみる?」
エルゼ「うん、行こ行こー!」
視界には砂煙が見て取れる、間違いなく
クウレがいることによる物だろう。
同じような事になるなら恐らくクウレはこの後
逃げてしまうはずだけど……。
クウレがいるであろう砂煙へと近づいていく。エルゼに
手を引かれ、穴を避けながら進む。
案の定そこにいるのはクウレだった。
クウレは私達と目が合うと砂に潜り一目散に
逃げてしまった。
エルゼ「何あれ! もしかして あれも人なの
かな?砂たべてたよ!シイナ!!」
シイナ「どうだろう、エルゼは砂の中潜れる?」
エルゼ「え〜流石にそれは無理かな〜、」
シイナ「だよね、私達には出来ないことしてるし、人じゃないんじゃないかな。」
夢?でエルゼが言っていた事を真似てみる。
エルゼ「そっか、そうかもね。でも自分に出来ない事があるから、それは全くの別物って
訳じゃないと思うんだ。」
それはエルゼから聞く初めての言葉、
その言葉を聞いて考えて見る。
真似みたのは良いけれど、よく考えたら
自分もエルゼも人だと勝手に思い込んで旅をしていただけで、実際にそうなのか
未だに真実を知らないでいる。
エルゼ「えっとね、いろんな形があって、その中で一つだけを見て こうだからそうなるって
言う考えになるのは早計だと思うんだ、
よく分からないけど…。」
これまで無かった会話、クウレに会った時に
エルゼの口からその言葉は出なかった。
エルゼの顔を見て、自分がイロナくらい早く
喋れるようになっていたら
この言葉は出ていたのだろうかと思う。
イロナくらい喋れて……? 「!?」そういえば
自分はどうして会話をすることが出来ている
のだろう?
私は旅の初めから会話することは出来なかった、今だって本当ならまだ簡単な返事が
出来るようになるか ならないか くらいのはず、
いつから言葉をすらすらと口にする事が
出来るようになったのだろう、
確か青い瞳の人に会う前、エルゼとイロナが…
…気付いたら いな…だめだ思い出せない、
夢だからなのか記憶が一部ぼんやりしている。
私だけが知っているあの旅は、
ただの夢なのか夢はユメでも生きるために見る
予知夢的な物なのか、或いは同じことを
もう一度していてこれが二回目なのか、
最初の二つはともかく、同じ事を繰り返す事は
可能なのだろうか…、
ダメだ解らない、理解していないのに言葉だけは出てくるせいで余計に混乱する。
予知夢?二回目、繰り返す?
これも青い瞳の人に聞けば分かるのだろうか、
思えばエルゼも発言した後によく分からない
と言うのが口癖だった。私達は知らない
言葉をどうして知っているのだろう、
私達は何者なんだろう……、
自分自身の正体に疑問を持つなんて
おかしな話だけど、私にとって二回目のこの旅
でそれを知り、全てを識る事が出来るだろうか。
頭に幾つもの疑問を抱え歩くシイナ、
空はすっかり泣き顔になって雨を降らせている。前の方ではエルゼが口を
開けながら歩いていて、
このまま進めば風化した建物へと辿り着く。
シイナ「ルイーゼは何か変わってないかな、」
溶けた星屑はシイナの疑問を解き明かして
くれるだろうか。
否定では無く疑問を、間違いも全て答えに、
不確かな物へ 興味という名の最大の熱意を。
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