第7話 空腹と苛立ち

燃える火のそばに

あらゆる物を飲み込んでしまう砂の

如き存在が相対する。


火はあらゆる物が着火剤となり、

そのが灰になるまで温度を上げ、全てを黒く焦がす諸刃の剣のよう。


それを胃という名の鞘に収めようと

体勢を取り、捕食者の目に変わる化け物。

砂喰らいは襲う相手も自分に襲いかかることを

理解し、相手が獲物になる隙を窺う。


そんな睨み合いを少し離れた所から

眺める三人は

全身に走る緊張感に言葉を封じられ

動きも完全に止まってしまっている。


三人がようやく言葉を発した時には、

目の前の二つの存在が激しくぶつかり合った

後だった。


イロナ「ねぇエルゼ、私達 逃げたほうが

いいんじゃない?」


身の危険を感じてか逃げることを

提案するイロナ。


エルゼ「私もその方がいいと思う、

縄張り争い?なのか分からないけど、とにかく巻き込まれたら大変だよ」



その場を離れようと来た道へ戻ろうとする

イロナとエルゼ、しかしシイナは

ただ一人その光景を魅入るようにその場を

動こうとしない。



エルゼ「シイナ!?何してるの?

ほら逃げよう!」


エルゼの叫ぶ声にも微動だにしないシイナは

目の前のクウレともう一つの存在に

胸の奥の熱さを感じる。



シイナ「お星さま…」


エルゼ「お星さま?あの二人が?ってそう言えばまだあの赤いやつの名前決めてない!」



イロナ「エルゼ!?そんな事言ってる場合じゃないと思うんだけど?」



とても身の危険を感じている様には見えない

三人と目の前では、

両手の爪を駆使して攻撃をするクウレに

手を握り拳にして振りかざす赤い化け物が

対抗している。両者の爪や拳が

腹や肩、口元に当たり苦悶の表情を

上げている。




エルゼ「えーっとー、えっと赤くて線がいっぱい入ってて、う〜ーんん………、」



イロナ「ちょっとホントにそんな場合じゃないって!!シイナも逃げるよ!」



体当たりなどによる猛攻によって三人の

そばまで迫りつつある中、イロナは

シイナとエルゼの手を引いて一目散に

走り出す。



エルゼ「う〜ーんピンと来るものが無いな〜」


イロナ「いいから走って!」

「私 手離すから、二人共ちゃんと自分で

走ってね?」



時々振り返りその姿が見えなくなるまで

距離をとる、視界から見えなくなったのを

確認すると足を止め、膝に手をつく。



イロナ「流石にこっちまで来ないみたい。」




イロナ達三人の先の方では二頭の化け物が

互いの身体を傷つける。

爪や拳、体当たりに押し合い、噛みつき、

あらゆる手段で目の前のものの動きを

止めようとする。赤い化け物は

長い拮抗に耐えかねて身体中を掻きむしり

身体の線から赤い液体が流れる。

「アァアアアア゙ア゙ア゙ア゙ア゙」と奇声を上げながら

地団駄を踏み砂を手に取っては

投げ飛ばす様子にクウレも近づけないでいる。


そんなクウレに構うことなく飛びかかる

赤い化け物はクウレを押し倒し顔めがけて

拳を浴びせる。

猛攻に反撃しようとするが自然と身を守る手が

顔を覆い打つ手がない。







その拳は数時間、守る腕が折れノーガードになるまで、顔面の骨が砕けるまで、

赤い液体が溢れてグチャグチャと音を鳴らしても続いた……。








日も落ちかけるかというところ、

三人は一応念の為という事で

さらに距離をとった場所で夜を迎える

ことしにした。



エルゼ「朝になったらまた戻って確認しに行く?」


イロナ「避けて通っても行きたい道には行けるんだし、砂漠の方を遠回りして行った方がいいんじゃない?何かあったら困るよ?」



シイナ「行きたい!確認!する、したい!!」



エルゼ「シイナはこう言ってるけど…」



イロナ「朝になったらいなくなってるとは言いきれないし、

やめた方がいいと思うんだけど…、」


それでも行きたいと聞く耳を持たない

シイナに根負けし、

朝を迎えたら化け物がいた場所へと

確認しに行くことになった。











ぐぅぅぅうと腹が鳴るその音で喉が熱くなる、

ぐぅぅぅぅうと腹が鳴る、その音で呼吸が

乱れる、ぐぅぅう、よだれが止まらい、

ぐぅぅうううう、

もううんざりだ腹の虫に虫唾が走る。

この渇きが呼吸を乱して鎮めるための

発作を起こす。

はぁはぁはぁ、抑えようとその腹に手をやって

優しく摩ってやる、それも少し経つと

ガリガリと徐々に音を大きくたてて

気がつけば自分の腹を掻きむしっている。

あぁダメだ、胸の爆発してしまいそうな

この何かを抑えなくては、

カリカリカリカリ、ガリガリガリガリ、

動かす手が止まらない、

腹だけでなく胸に手をやって、その手で

掻き毟る。その手を抑えようと反対の手で

ガリガリと掻き毟る。

止まらない止まらない、

自分をこんなに傷つけたくないのに、

傷つける物が無いから仕方ない。

痛い、痛い、痛い、

自分がしている事がたまらなく痛い、

それなのに痛みで染みる身体が

ヒリヒリとジリジリと燃える火になって

さらにこの胸が熱くなる。

「ア゛ァ゛ア゛ア゛ァ゛ア゛ア゛ァ゛!!!」



日も暮れた静かな夜に悲痛な叫びが響く。





朝になり早速クウレと赤い化け物のいた

場所へと戻る三人。


エルゼ「やっぱり名前が会った方が分かりやすいので、あの赤い子の名前はカリム!」


イロナ「まだ名前なんか考えてたの?」



エルゼ「うん、すっごく悩んだけど

中々良い名前でしょ?!」


シイナ「カリム……、カリム!」


エルゼ「流石!シイナはわかってる!」



何がわかってるいなのかは分からないが

その名を口にする

シイナに誇らしげなエルゼ。

あっという間に昨日の場に着いた三人は、

予想していた物とはまるで違う光景を

目の当たりする。



カリム「がぶぅがぶぅがぶぅ」


そこには先程カリムと名前をつけた

存在が海水をたらふく口にしている。

掻きむしっているその腹は

水を含んだためか膨れていて、

掻きむしるその手で破裂させてしまいそう

なほどだった。





その身一つは火事の元、血走る眼に火の用心。



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